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「アドボカシー(権利擁護)」とは?支援者が知っておくべき代弁機能の基本

「アドボカシー」という言葉を研修や書籍で目にしても、
「支援現場で具体的に何をすればいいのか分からない」と感じていないでしょうか。

近年は、障害者権利条約や障害者差別解消法など、権利を軸にした制度が整備され、
支援者にも「権利擁護の視点で本人の代弁をすること」が強く求められています。

この記事では、アドボカシー(権利擁護)の基本的な考え方と、
支援者が担う「代弁機能」を中心に、実践のポイントと注意点を整理します。

  • アドボカシー(権利擁護)の意味と種類
  • 日本の制度の中で権利擁護がどう位置づけられているか
  • 支援者に求められる「代弁機能」の目的と範囲
  • 日々の支援で実践できるアドボカシーのステップ
  • アドボカシーを行う際のリスクと倫理的な注意点

目次

アドボカシー(権利擁護)の基本をおさえる

アドボカシーとは何か

国際的には、アドボカシーは「権利が侵害・未実現の状況を改善するために、
声をあげ、行動し、社会の仕組みや意識を変えていく活動」と説明されています。

障害分野では、こうしたアドボカシーは日本語で「権利擁護活動」と訳され、
障害のある人が本来もっている権利を、自分らしく行使できるようにすることが目的だと整理されています。

福祉・医療の現場で使われる「アドボカシー」

厚生労働省のモデル事業の資料では、
医療分野でのアドボカシーについて、次のような趣旨が示されています。

  • 権利を自分で主張することが難しい子ども、寝たきりの高齢者、障害のある人などに代わって
  • その人の権利を代弁・擁護し、権利が実際に実現するよう支援する機能が「アドボカシー」
  • その役割を担う人を「アドボケート(アドボケーター)」と呼ぶ

つまり現場レベルでは、アドボカシーは「権利を守り、本人に代わって主張する実践」として位置づけられています。

「アドボカシー」と「権利擁護」の関係

日本の障害分野では、アドボカシーはほぼ「権利擁護」と同義で使われています。

ここでいう「権利」とは、特別な人だけのものではなく、

  • 安全に生活する権利
  • 必要な支援やサービスを受ける権利
  • 自分の生活や医療について意思決定する権利

など、すべての人が持つ基本的人権を指します。

アドボカシー(権利擁護)は、
「権利が紙の上の約束で終わらず、実際の生活の中で守られ、使えるようにするための具体的な行動」
と理解すると、支援実務とも結びつけやすくなります。


日本の制度における権利擁護の位置づけ

障害者権利条約と国内法の流れ

日本は2014年に「障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)」を批准しました。

条約の批准に向けて、国内では次のような法整備が進められてきました。

  • 障害者基本法の改正
  • 障害者総合支援法の制定
  • 障害者差別解消法の制定・改正 

など、障害者差別解消法では、行政機関や事業者に対し、

  • 不当な差別的取扱いの禁止
  • 合理的配慮の提供

などが求められています。

こうした法律は、いずれも「権利」を軸にした制度であり、
現場の支援者にも、法律の理念に沿った権利擁護の実践が期待されています。

相談支援と「権利擁護のために必要な援助」

厚生労働省の地域福祉に関する要綱では、
市町村が行う相談支援事業について、次のような趣旨が示されています。

  • 障害のある人の福祉に関するさまざまな相談に応じ、情報提供やサービス利用支援を行う
  • 虐待の防止・早期発見のために関係機関と連携する
  • こうした取り組みを通じて、「障害者等の権利擁護のために必要な援助」を行う

つまり、相談支援は単なる「サービス利用調整」ではなく、
権利擁護の視点をもった支援が本来の役割に含まれていると整理できます。

権利擁護センターや人権相談機関の存在

権利擁護に関する支援は、福祉現場だけで完結しません。

  • 各地の社会福祉協議会が設置する「権利擁護支援センター」
  • 成年後見制度の利用支援窓口
  • 法テラスによる、判断能力が十分でない人のための法律相談援助(特定援助対象者援助事業)
  • 法務局・人権擁護委員による人権相談(政府広報オンラインで案内)

https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201309/2.html

など、第三者性のある機関と連携しながら権利擁護を進めることも重要です。

支援者にとっては、「自分だけで抱え込まない」「必要に応じて権利擁護の専門機関につなぐ」という視点も、
アドボカシーの一部と考えられます。


支援者に求められる「代弁機能」とは

なぜ「代弁」が必要になるのか

支援現場では、次のような理由で、本人が自分の権利や希望を十分に表現できないことがあります。

  • 言語やコミュニケーションに障害があり、伝えたいことがうまく言葉にならない
  • 医療・福祉制度が複雑で、自分の権利や選択肢を十分に知らない
  • 施設・病院・家族との力関係の中で、「本音を言いにくい」雰囲気がある
  • 長年の経験から、「言っても変わらない」とあきらめてしまっている

こうした状況では、本人の意思や権利が「ないもの」として扱われてしまう危険があります。
そこで支援者が「代弁機能」を発揮し、本人の声を可視化し、権利を守る役割を担うことが重要になります。

代弁機能の目的と範囲

精神科医療におけるアドボケーターのガイドラインでは、アドボケーターを次のように定義しています。

  • 入院生活での困りごとについて、信頼できる相談相手となる
  • 「説明が得られない」「聞いてもらえない」という状況で、本人の立場に立って気持ちを理解し、必要に応じて代弁する
  • そのことを通じて、本人が自分の気持ちに正直に生き、主体的に医療を受けられるよう側面的に支援する

この考え方は、障害福祉や高齢者福祉など、他の分野にも応用できます。

代弁機能の中心は、

  • 本人の意思を尊重しながら
  • 説明不足や力の不均衡を補い
  • 本人の権利行使を「支える」こと

であり、「代わりに決める」ことではない点が重要です。

権利擁護機能の中の「代弁・代行」

福祉専門職の権利擁護機能を整理した研究では、
次のような機能が挙げられています。

  • 問題やニーズを発見する機能
  • 情報収集・情報提供の機能
  • 関係機関との連携・調整の機能
  • 代弁・代行・仲介の機能
  • 啓発・教育の機能
  • エンパワーメントの機能 

など、この中の一つが「代弁・代行」であり、
アドボカシー=代弁だけではなく、情報提供やエンパワーメントも含む広い概念であると分かります。

支援者は、「今、自分が担っているのはどの機能か?」を意識しながら、
必要に応じて代弁・代行のギアを上げたり下げたりすることが求められます。


代弁アドボカシーの基本ステップ

ステップ1:本人の意思・希望を丁寧に聴き取る

代弁の出発点は、あくまで「本人の言葉」です。

  • すぐに解決策を提案せず、まずは「どう感じているか」「何が一番困っているか」を聴く
  • 「本当はどうしたいですか?」と、本人の希望を確認する問いかけを意識する
  • 支援者の解釈をそのまま記録せず、「○○さんは『△△したい』と話している」という形で、
    本人の表現と支援者の理解を分けて整理する

聴き取りの最後には、
「いまお聞きした内容をまとめると、○○ということでよいですか?」と、
自分の理解を本人と一緒に確認するプロセスも重要です。

ステップ2:本人のメッセージを整理して共有する

代弁する前に、本人と一緒に「伝えたいメッセージ」を整理します。

  • 何を変えたいのか(例:サービスの利用時間、生活の場、支援の受け方 など)
  • それはなぜか(本人にとっての意味や背景)
  • どの程度までなら譲歩できるか(優先順位や代替案)
  • 誰に伝える必要があるか(家族、事業所、医師、行政 など)

この整理を、支援記録や計画書の「本人の意向」の欄にも反映させることで、
チームで共有しやすくなります。

ステップ3:会議や場面でどのように「代弁」するか

サービス担当者会議やカンファレンスなど、
多職種が集まる場では、本人の声が埋もれやすいことがあります。

そのような場面で代弁するときのポイントは、次の通りです。

  • 事前に本人と、「どこまで、どのように代弁してよいか」を確認しておく
  • 「これは○○さんが『こうしたい』と話していたことです」と、本人の言葉として明確に紹介する
  • 支援者の意見を述べるときは、「支援者としては、こう考えています」と、本人の意向との違いを区別する
  • 本人が同席している場合は、途中で「いまの説明で合っていますか?」と、本人に確認する時間をつくる

こうした工夫により、「本人不在の代弁」にならないようにすることができます。

ステップ4:結果を本人と一緒にふりかえる

アドボカシーは、「言って終わり」ではありません。

  • 代弁の結果、何が変わったのか(良くなった点・変わらなかった点)
  • 本人は、支援者の代弁をどう感じたか(安心した/言い過ぎだと感じた など)
  • 次に同じような場面があったら、どのように臨みたいか

こうした振り返りを通じて、
少しずつ「本人が自分で伝えられる部分」を増やしていくことが、
長期的なエンパワーメントにつながります。


アドボカシー実践で気をつけたいリスクと限界

「守る」つもりが「支配」になるリスク

支援者が善意で代弁していても、
結果として「本人の自己決定を奪ってしまう」ことがあります。

  • 本人が望んでいないのに、「安全のため」として支援者が方針を決めてしまう
  • 家族や事業所との関係を気にするあまり、本人の希望を弱めて伝えてしまう
  • 「この人のためには、こうすべきだ」という支援者の価値観が前面に出てしまう

アドボカシーの目的は、「本人を従わせること」ではなく、
「本人が自分の人生の主体であり続けられるように支えること」です。

そのためには、「本当に本人のためか」「自分の安心のためではないか」を、
常に問い直す姿勢が欠かせません。

支援者自身の価値観・バイアスへの気づき

支援者も一人の生活者であり、

  • 家庭環境
  • 価値観
  • 職場文化

などの影響を受けています。

そのため、無自覚のうちに、
「普通はこうするべき」「家族ならこう思うはず」

といった前提を、利用者にも当てはめてしまうことがあります。

こうしたバイアスに気づくには、

  • 事例検討会やスーパービジョンで、他の専門職の視点を聞く
  • 「自分が同じ立場ならどう感じるか」を一度切り離して考えてみる
  • 本人に「この支援について、どう思いますか?」と率直に聞く

といった方法が役立ちます。

利益相反と「誰の味方か」を明確にする

先ほどのアドボケーター・ガイドラインでは、
アドボケーターは「利害関係のない人」が担うことが望ましいとされています。

一方で、実際の福祉現場では、
支援者は事業所の職員でもあり、利用者・家族・行政の間で板挟みになりやすい立場です。

そのような状況では、

  • 「この場面では、誰の立場から話しているのか」を自覚する
  • 利用者に対して、「事業所の職員としての役割」と「あなたの気持ちの代弁者としての役割」があることを、丁寧に説明する
  • 利益相反が強いと感じる場面では、第三者機関(権利擁護センターや相談窓口など)へのつなぎも検討する

といった工夫が必要です。

「常に100%中立でなければならない」と思い込むのではなく、
自分の立場を自覚しながら、必要に応じて外部のアドボケーターを活用することも、
専門職としての責任あるアドボカシーといえます。


明日からできるアドボカシー実践のチェックリスト

日々の関わりでできる小さなアドボカシー

大きな政策提言や裁判だけがアドボカシーではありません。
日々の関わりの中で、次のような小さな実践も立派な権利擁護です。

  • 手続きや制度の説明を、「一度きり」で終わらせず、本人が理解できるまで繰り返し説明する
  • 重要な説明の前に、「今日は○○について決める話し合いです」と、テーマを明確に伝える
  • 相談の最後に、「他に、言いそびれていることはありませんか?」と問いかける
  • 本人が「わからない」と言ったときに、責めるのではなく、「一緒に整理しましょう」と寄り添う

これらはすべて、本人の権利行使を支えるアドボカシーの一部です。

チーム・組織として取り組むポイント

個々の支援者だけでなく、事業所やチームとしてアドボカシーに取り組むことで、
より継続的で質の高い権利擁護が可能になります。

  • 事例検討会で「権利擁護の視点からの振り返り」の項目を設ける
  • 施設内での虐待防止や苦情解決の仕組みを整え、利用者に分かりやすく説明する
  • 地域の権利擁護センターや人権相談機関との連携ルートを、職員間で共有しておく
  • 新任職員向け研修の中に、「アドボカシーと代弁機能」を組み込む

こうした取り組みは、個々の職員だけでなく、組織全体の「権利擁護力」を高めていきます。

研修・スーパービジョン・外部資源を活用する

アドボカシーは、理論だけでなく実践の中で身につくスキルです。

  • 行政や社会福祉協議会が開催する「権利擁護」「アドボカシー」研修への参加
  • 専門職団体や学会が提供するセミナー、講演会の情報収集
  • 難しい事例については、スーパーバイザーや外部専門家への相談を検討する

権利擁護は、一人で完璧に行うものではありません。
チームや外部資源と協働しながら実践を積み重ねていくことが、
結果として利用者の安全と尊厳を守ることにつながります。


まとめ:アドボカシーの視点を、日々の支援の「基本」に

最後に、本記事のポイントを整理します。

  • アドボカシー(権利擁護)は、権利が侵害・未実現の状況を改善するために、声をあげ行動する活動の総称です。
  • 日本の障害福祉制度では、相談支援や虐待防止、差別解消などの仕組みを通じて、権利擁護が重要な柱と位置づけられています。
  • 支援者に求められる「代弁機能」は、本人の意思を尊重しつつ、力の不均衡や情報格差を埋め、権利行使を支える役割です。
  • 代弁アドボカシーは、「聴く→整理する→伝える→振り返る」というプロセスを丁寧に踏むことで、本人のエンパワーメントにつながります。
  • 善意のつもりが「支配」にならないよう、自分の価値観や立場、利益相反を自覚しつつ、必要に応じて第三者機関や外部アドボケーターと協働することが大切です。
  • 自分の支援記録の「本人の意向」の書き方を見直し、代弁と本人の言葉が混ざっていないか確認する
  • チーム内で、「最近権利擁護の視点が必要だった事例」を一つ持ち寄り、話し合ってみる
  • お住まいの地域の「権利擁護センター」や人権相談窓口、法テラスなど、連携できる機関の連絡先一覧を作成しておく

こうした一歩一歩の積み重ねが、
利用者一人ひとりの権利を守り、「自分らしく生きること」を支えるアドボカシー実践につながっていきます。

参考資料:

  1. 2014年1月、我が国は障害者権利条約を批准しました
  2. 障害に関するアドボカシー(権利擁護活動)の意義を考える
  3. 「入院に係る精神障害者の意思決定及び意思の表明に関するモデル事業」報告書
  4. 障害に関するアドボカシー(権利擁護活動)の意義を考える
  5. 2014年1月、我が国は障害者権利条約を批准しました
  6. 社会福祉法人 日本身体障害者団体連合会
  7. 障害者差別解消法に基づく基本方針の改定 – 内閣府
  8. 厚生労働省:地域生活支援事業実施要綱
  9. 特定援助対象者援助事業 | 法テラス
  10. 高齢者や障害者、こどもや女性に対する人権侵害をなくそう | 政府広報オンライン
  11. KAKEN — 研究課題をさがす | 福祉専門職の権利擁護機能と実践を支えるシステムに関する研究 (KAKENHI-PROJECT-16530375)
  12. 厚生労働省:障害者福祉
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この記事を書いた人

株式会社パパゲーノ代表取締役CEO / 「生きててよかった」と誰もが実感できる社会を目指して、東京で「パパゲーノ Work & Recovery(就労継続支援B型)」の運営や、支援現場のDXアプリ「AI支援さん」を開発。精神障害のある方との事業開発がライフテーマ。

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