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訪問看護の不正請求問題とは「制度の信頼と必要な支援を守るために考えたいこと」

訪問看護をめぐる不正請求や過剰請求の問題が、医療・福祉の現場で関心を集めています。

訪問看護は、病気や障害があっても住み慣れた地域で暮らし続けるための大切な支援です。看護師などが利用者の自宅や生活の場を訪問し、体調の確認や服薬の支援、医療的な処置などを行います。

一方で、一部の事業所において、実際の支援内容に見合わない請求や、必要性を十分に説明できない訪問回数の多さが問題視されています。厚生労働省も、訪問看護の適正な提供に向けて、記録の明確化や不適切な利用の誘導を防ぐ取り組みを進めています。また、同じ建物に住む複数の利用者への訪問看護についても、支援の実態に応じた評価の見直しが行われています。

ここで大切なのは、訪問看護そのものを否定することではありません。問題にすべきなのは、必要性を説明できない訪問や、実態と異なる請求、不透明な紹介・誘導です。

特に、精神疾患のある人への訪問看護や、ホスピス型住宅での看護は、地域生活や終末期の暮らしを支えるうえで重要な役割を担っています。だからこそ、不適切な運用を防ぎながら、必要な支援を守る姿勢が欠かせません。

本記事では、訪問看護の不正請求問題を、制度の信頼、利用者の権利、福祉現場の支援の質という観点から整理します。

目次

訪問看護とは何か

訪問看護は、医療と生活をつなぐ支援です。病院の中ではなく、利用者の自宅や生活の場で行われるため、病状だけでなく、日々の暮らしの様子も見ながら支援できることに特徴があります。

具体的には、体調の確認、服薬の支援、医療的な処置、精神面の支援などを行います。病院に通うことが難しい人や、退院後も医療的な支援が必要な人にとって、地域で生活を続けるための重要な支えになります。

対象となるのは高齢者だけではありません。病気や障害のある人、医療的ケアが必要な子どもなど、さまざまな人が訪問看護を利用しています。利用者の暮らしの場に入り、その人がどのように生活し、何に困っているのかを見ながら支援できる点に、大きな役割があります。

とくに精神科訪問看護では、服薬の状況や生活リズム、孤立の有無、不安や症状の変化などを確認します。本人の話を聴き、必要に応じて主治医や相談支援専門員などの関係者につなぐこともあります。精神疾患のある人が地域で生活を続けるうえで、訪問看護は重要な支援の一つです。

だからこそ、不正請求や過剰請求の問題は、単なるお金の問題ではありません。制度への信頼が揺らげば、必要な訪問看護まで疑いの目で見られてしまいます。その影響を受けるのは、まじめに支援を続けている現場であり、何よりも支援を必要としている利用者です。

何が問題視されているのか

ここで問題になるのは、訪問看護の必要性ではなく、一部の事業所で、実際の支援内容に見合わない請求や、必要性を十分に説明できない訪問回数の増加が疑われていることです。

たとえば、実際には短時間しか訪問していないのに、より長い時間訪問したものとして請求する。必要な看護というより、形式的な見守りに近い訪問を何度も繰り返す。利用者の状態や目標に基づくのではなく、あらかじめ決められた回数を機械的にこなす。こうしたことが行われていれば、制度の趣旨から外れてしまいます。

また、ホスピス型住宅や高齢者向け住宅など、同じ建物の中に多くの利用者がいる場合、訪問看護を効率的に行いやすくなります。効率的な体制そのものは、必要な人に支援を届けるうえで大切です。

一方で、その仕組みが過剰な請求につながらないようにすることも重要です。同じ建物の中で必要以上に訪問回数を増やしたり、短時間の訪問を重ねたりすれば、公的な財源への負担が大きくなる可能性があります。経営上の効率や収益が優先されすぎると、「本人に必要な支援かどうか」よりも「どれだけ請求できるか」が先に立ってしまうおそれがあります。

訪問看護で大切なのは、利用者本人の意思や状態に基づいて、必要な支援を考えることです。どのような生活を望んでいるのか、どのような支援が状態の安定につながるのかを見ながら、訪問回数や内容を決めていく必要があります。本人の状態や希望が置き去りになれば、本人のための支援という本来の目的から離れてしまいます。

精神科訪問看護そのものが問題なのではない

報道では、精神疾患のある人を対象にした訪問看護も調査対象として取り上げられました。精神科訪問看護では、身体的な処置と違い、支援の必要性や成果が外から見えにくいことがあります。

精神疾患のある人への訪問看護は、地域での暮らしを支える重要な支援の一つです。服薬の中断や生活リズムの乱れ、孤立など、地域生活にはさまざまな課題があります。訪問看護が早い段階で変化に気づき、医療や福祉につなぐことで、入院を防げる場合もあります。

たとえば、本人の話を聴き、生活状況や服薬、体調の変化を確認しながら、不安を受け止めることも大切な関わりです。ただし、記録や計画が不十分だと、必要な看護だったのか、形式的な訪問だったのかが判断しにくくなります。

そのため、本人の状態や訪問時に確認したこと、今後必要な対応などを丁寧に残しておくことが重要です。記録があることで、支援の必要性を説明しやすくなり、医師や関係機関とも支援の流れを共有しやすくなります。

精神疾患のある人への支援は、数値だけでは測れません。だからこそ、支援の質を守るためにも、記録と説明責任が欠かせません。

訪問看護の適正化に向けた制度見直し

訪問看護をめぐっては、不正請求や過剰請求への対応だけでなく、支援の質を確保し、必要な人に訪問看護を届け続けるための制度見直しも進められています。

ここでは主に、医療保険で行われる訪問看護、いわゆる訪問看護療養費等に関する見直しを取り上げます。

令和8年度診療報酬改定では、訪問看護が漫然としたもの、画一的なものにならないよう、看護目標や訪問看護計画に沿って行うことが求められています。記録についても、訪問看護記録書に実施時間などを残すことに加え、ステーションの日々の記録に、実際の訪問開始時刻と終了時刻を残すことが明確化されています。

これは、訪問看護の必要性や支援の内容を、より説明しやすくするための見直しです。訪問看護は、ただ「行った」という事実だけでは十分ではありません。いつ訪問し、どのくらいの時間、何を確認し、どのような支援を行ったのか。そうした記録があることで、利用者にとって必要な支援だったことを確認しやすくなります。

また、経済的な利益によって、特定の訪問看護ステーションの利用を促すような行為を防ぐことも求められています。利用者が本当に必要な支援を選ぶのではなく、事業者同士の利益関係によってサービスが決まってしまえば、本人中心の支援とは言えません。

さらに、同じ建物に住む複数の利用者への訪問看護についても、報酬のあり方が見直されています。厚生労働省の資料でも、建物内の利用者数や訪問日数に応じて、より実態に合った評価となるよう見直しが示されています。

たとえば、ホスピス型住宅や高齢者向け住宅などでは、同じ建物内の利用者を続けて訪問できる場合があります。こうした仕組みの中で、訪問回数や時間が利用者の状態に合ったものになっているかを確認しやすくし、必要以上の訪問や過剰な請求につながらないようにする狙いもあると考えられます。

また、訪問看護を必要とする人は、都市部だけでなく、過疎地域や訪問に時間がかかる地域にも暮らしています。そのため、遠方への訪問に伴う負担に配慮した評価の見直しも行われています。これは、地域によって訪問看護を受けにくくなることを防ぎ、必要な支援を届ける体制を保つためにも重要です。

こうした見直しは、訪問看護の利用を制限するためではありません。不適切な運用を防ぎながら、支援の質を高め、必要な人に必要な訪問看護が届くようにするためのものです。記録や説明責任を明確にすることは、制度の信頼を守るだけでなく、利用者にとっても安心につながります。

不正請求がもたらす影響

不正請求や過剰請求が問題なのは、医療費が無駄に使われるからだけではありません。

第一に、利用者本人の生活がゆがめられる可能性があります。必要以上の訪問が組まれることで、本人の生活の自由が減ることがあります。本人が望んでいない時間に訪問が入り、生活のペースが乱れることもあります。支援は多ければ多いほど良いわけではありません。本人ができることまで支援が入りすぎれば、自立の機会を奪ってしまうこともあります。

第二に、誠実な事業所が不利益を受けるおそれがあります。必要な訪問だけを丁寧に行い、記録を整え、スタッフの教育に力を入れている事業所ほど、短期的には大きな利益を出しにくい場合があります。一方で、不適切な請求によって収益を伸ばす事業所があれば、公平な競争が成り立たなくなります。結果として、誠実な事業所が疲弊し、地域の支援体制が弱くなるおそれがあります。

第三に、制度全体への信頼が損なわれます。訪問看護は、医療保険や介護保険などの公的な財源によって支えられています。不正が広がれば、「訪問看護は本当に必要なのか」「報酬を下げるべきではないか」という議論が強くなる可能性があります。その結果、必要な支援まで削られてしまえば、最も困るのは利用者です。

福祉制度は、社会からの信頼によって成り立っています。訪問看護も、公的な財源で支えられている制度です。だからこそ、必要な人に必要な支援が届き、費用が適切に使われることが大切です。不正請求は、その信頼を傷つける行為です。

利用者や家族が確認できること

利用者や家族が、請求の細かい仕組みをすべて理解する必要はありません。診療報酬や訪問看護療養費の制度は専門的で、一般の人が簡単に判断できるものではないからです。

ただし、安心してサービスを利用するために、確認できることはいくつかあります。

まず、訪問看護の目的が説明されているかどうかです。なぜ訪問が必要なのか。どのような状態を確認するのか。どのような目標に向けて支援するのか。本人や家族が納得できる言葉で説明されていることが大切です。

次に、訪問回数や時間に違和感がないかを確認することも大切です。本人の状態に比べて訪問が多すぎると感じる場合や、実際の訪問時間と説明されている時間に差があると感じる場合は、遠慮せず事業所や関係機関に確認することが大切です。

また、訪問看護計画書や報告内容を確認することも大切です。どのような計画に基づいて支援が行われているのか、定期的に見直されているのか、本人の希望が反映されているのか。こうした点は、支援の質を考えるうえで重要です。

不安がある場合は、訪問看護ステーションだけでなく、主治医やケアマネジャー、相談支援専門員、市区町村の窓口などに確認してみることもできます。精神障害のある人の場合は、医療機関の精神保健福祉士や相談支援事業所も相談先になります。

大切なのは、本人や家族が納得して訪問看護を利用できることです。そのためにも、丁寧な説明と確認は欠かせません。

・訪問の目的は説明されているか
・回数や時間に違和感はないか
・計画書の内容は共有されているか
・困った時の相談先はあるか

事業者に求められる姿勢

訪問看護ステーションに求められるのは、単に「不正をしない」という最低限の姿勢だけではありません。これからは、必要な支援であることを説明できる運営が求められます。

まず、訪問看護計画に基づいた支援が必要です。利用者ごとに状態や目標は異なります。病状の観察が中心の人もいれば、服薬支援が重要な人、家族支援が必要な人、終末期の苦痛緩和が中心となる人もいます。支援の内容は、本人の状態と目標に合わせて組み立てる必要があります。

次に、記録の正確さが重要です。訪問開始時刻と終了時刻、実施した内容、本人の状態、支援による変化、今後の課題などを丁寧に残すことは、制度上必要な手続きであると同時に、支援の質を守るためにも大切です。記録があることで、チームで支援内容を共有し、必要な支援を継続しやすくなります。

また、支援内容は、事業所側の都合ではなく、本人の状態や必要性に基づいて決められることが大切です。訪問件数や運営上の事情が先に立ってしまうと、本人のための支援という本来の目的から離れてしまいます。現場スタッフが「この訪問は本当に必要なのか」と感じたときに、安心して相談できる組織文化も必要です。

さらに、医療機関、高齢者住宅、障害福祉サービス事業所などとの関係性にも透明性が求められます。紹介や連携は地域支援に不可欠ですが、金銭的な見返りや不透明な利益関係によってサービスの選択が左右されれば、本人中心の支援が損なわれます。

制度の厳格化は、誠実に運営している事業所にとっても負担に感じられる面があるかもしれません。しかし、記録を正確に残し、支援の必要性を説明できる体制をつくることは、結果的に良質な支援を守ることにつながります。不適切な運営と誠実な運営を区別するためにも、透明性は欠かせません。

大切なのは、訪問回数ではなく必要性

今回の問題は、福祉全体にも通じるテーマを含んでいます。訪問回数が多いか少ないかだけでなく、その支援が本人にとって本当に必要なものかどうかを考えることが大切です。

訪問回数が多いことは、必ずしも悪いことではありません。病状が重い場合や急変のリスクがある場合、終末期や精神症状が不安定な場合などには、状態に応じてこまめな訪問が必要になることがあります。大切なのは、回数を一律に減らすことではなく、本人の状態に合った支援かどうかを見極めることです。

一方で、訪問回数が多いことだけで安心とは言えません。本人の状態や希望に合っているか、目的が明確か、支援内容がきちんと記録されているかが大切です。

福祉や医療の支援は、人の暮らしに深く関わります。だからこそ、多すぎても少なすぎても問題が起こることがあります。必要なときに必要な支援が入り、本人ができることや望んでいることを大切にしながら、状態に応じて見直されることが重要です。

これからの訪問看護に求められるのは、単に「何回訪問したか」ではなく、「その訪問が本人の生活にどのような意味を持ったか」を説明できることです。訪問回数ではなく、本人にとっての必要性を見ていくことが大切です。

精神保健福祉の現場から見た課題

精神保健福祉の視点から見ると、今回の問題で気をつけたいのは、精神科訪問看護への誤解が広がることです。

精神科訪問看護では、本人と話をする時間そのものが大切な関わりになることがあります。生活の乱れや再発のサインに早く気づき、孤立を防ぐこと。不安を一人で抱え込まないよう、言葉にできる場をつくること。こうした関わりは、地域での暮らしを支えるうえで重要です。

外から見ると「ただ話しているだけ」に見えるかもしれません。しかし、本人にとっては、入院を防ぎ、地域生活を続けるための大切な時間になる場合があります。

だからこそ、精神科訪問看護の適正化では、「話を聴くこと」や「生活の変化を見守ること」の意味が伝わるようにしていく必要があります。不適切な請求を防ぐことは大切ですが、その過程で、必要な精神科訪問看護まで控えられてしまえば、地域で暮らす人たちが困ることになります。

制度を守ることは、利用者を守ること

不正請求の問題では、不適切な運用があれば厳正に対応する必要があります。公的な財源で支えられている制度である以上、ルールに沿って適正に運用されることは欠かせません。

そのうえで、福祉の視点で考えると、制度のルールは事業所を縛るためだけのものではありません。必要な人に必要な支援を届け続けるための土でもあります。

訪問看護は、医療や福祉、介護が連携しながら、地域での暮らしを支える仕組みの一つです。入院や施設中心の支援から、地域での生活を支える方向へと支援のあり方が広がる中で、訪問看護の役割は今後も大きくなっていくでしょう。

だからこそ、支援の内容や請求の根拠が不透明なままでは、制度への信頼が揺らぎます。反対に、支援の必要性を説明できる運営が広がれば、利用者や家族も安心して訪問看護を利用しやすくなります。

制度を適正に運用することは、利用者の選択肢を保ち、誠実に働く看護師や支援者を支えることにもつながります。その積み重ねが、病気や障害があっても地域で暮らし続けられる社会を支える力になります。

まとめ

訪問看護をめぐる不正請求や過剰請求の問題は、単なるお金の問題ではありません。地域で暮らす人を支える制度への信頼に関わる問題です。

一方で、訪問看護そのものは、病気や障害があっても住み慣れた場所で暮らし続けるための大切な支援です。必要なのは、訪問看護を一律に疑うことではなく、不適切な運用を防ぎながら、必要な支援を届け続けることです。

支援の目的を丁寧に説明し、内容を正確に記録し、本人の希望や状態に合わせて見直していくこと。その積み重ねが、利用者の安心と、誠実に支援を続ける現場を守ることにつながります。

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この記事を書いた人

株式会社パパゲーノ代表取締役CEO / 「生きててよかった」と誰もが実感できる社会を目指して、東京で「パパゲーノ Work & Recovery(就労継続支援B型)」の運営や、支援現場のDXアプリ「AI支援さん」を開発。精神障害のある方との事業開発がライフテーマ。

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