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「IPS(個別就労支援モデル)」とは?最も効果が出る就労支援モデルの原則と考え方

「精神障害があっても、できれば一般企業で働きたい」
そう願う人は多い一方で、訓練中心の就労支援だけでは、なかなか希望どおりの就職につながらないケースも少なくありません。

その中で、世界的に「従来型より就職率・就労継続に優れているエビデンスベースのモデル」の一つとして注目されているのが、IPS(Individual Placement and Support:個別就労支援モデル)です。
この記事では、IPSの基本的な考え方や8つの原則、日本の制度との関係、現場で取り入れる際のポイントを、初学者の方にも分かりやすく整理します。

目次

IPS(個別就労支援モデル)とは?

IPSの基本的な定義

IPS(Individual Placement and Support)は、主に精神障害のある人を対象とした就労支援モデルで、「できるだけ早く一般企業に就職し、働きながら支援を受ける」ことを特徴とします。

国立精神・神経医療研究センターは、IPSを「援助付き雇用の一種で、支援の内容や進め方を具体的に定めたプログラム」と説明しており、利用者の希望やスキル、困難さを丁寧に聴き取ったうえで、就職前から就職後まで一貫して支援するモデルと位置づけています。

従来型の就労支援との違い(train-then-place vs place-then-train)

しかし日本リハビリテーション医学会の総説では、この方法では訓練で身につけたスキルが実際の職場にうまく汎化せず、精神障害のある人の就労には必ずしも効果的ではないとされています。コクランレビューなどの国際レビューでは、事前の職業訓練のみでは一般就労への効果が限定的と報告されていま

従来の職業リハビリテーションでは、
「保護的な環境で訓練してから就労する(train-then-place)」
という考え方が一般的でした。

一方IPSは、
「できるだけ早く実際の職場に出て、働きながら必要な訓練や支援を行う(place-then-train)」
という考え方に立つ援助付き雇用プログラムです。

日本での呼び方と位置づけ

日本では、IPSは以下のような名称で紹介されることがあります。

  • 個別就労支援プログラム
  • 個別職業紹介とサポートによる援助付き雇用
  • 個別型援助付き雇用 など

いずれも、
「一般就労(競争的雇用)を目標に、本人の希望に沿って個別に支援する」
という点で共通しています。

国立精神・神経医療研究センターや、精神保健福祉分野の専門職団体のハンドブックでは、IPSを援助付き雇用の代表的モデルとして紹介しており、日本の就労移行支援事業所や精神科デイケア、医療機関など、2024年9月時点で33機関にまで広がっているとされています。

なぜIPSは「従来型より就職率・就労継続に優れているエビデンスベースのモデルの一つ」と言われるのか

国内外の研究で確認された就労率の高さ

国際的な研究では、援助付き雇用(特にIPS)は、
「職業準備訓練」や「就労継続支援事業所での就労(保護的雇用)」と比べて、

  • 一般企業での就職率
  • 一般就労として働き続けた期間(週数)

のいずれも有意に高いことが、コクラン共同計画によるシステマティックレビューで示されています。

このレビューは2016年までの研究を対象としており、最新の研究動向をすべて反映しているわけではありませんが、「IPSを含む援助付き雇用は、従来型支援より就職と職場定着に効果的」という傾向は、多くのランダム化比較試験(RCT)で一貫して報告されています。

研究で得られたヒント・エビデンスを当事者や現場の方々にも活用してもらえるよう紹介するサイトです。

長期的な就労継続・生活の質への影響

日本社会福祉学会のシステマティック・レビューでは、IPSを用いた長期追跡研究(4〜12年)をまとめた結果、
介入としてIPSを利用した精神障害者の40〜70%が、追跡期間中に少なくとも一度は就労(主に一般就労)を経験していることが報告されています。

このレビューは2013年のものであり、最新データではない点に注意が必要ですが、
「重度の精神障害があっても、IPSのような個別的で継続的な支援によって、長期的な視点でも就労が可能になりうる」
という重要な示唆を与えています。

日本での研究・実践の広がり

厚生労働科学研究では、千葉県市川市で日本版IPS(IPS-J)を用いた無作為比較試験が行われ、
従来の支援と比べて、6ヶ月時点で一般就労率が有意に高かったことが報告されています。

また国立精神・神経医療研究センターは、日本でIPSを実践する事業所の実態調査やフィデリティ(モデルの忠実度)評価ツールの開発を進めており、国内でもエビデンスに基づいた実践と評価が蓄積されつつあります。

IPSの8つの原則

IPSには、世界的に共有されている「8つの原則」があります。
ここでは、日本の専門職団体が整理している内容をもとに、ポイントをまとめます。そして8原則のうち、就労支援の現場で特に押さえたい4つの柱を紹介します

ゼロ除外と「一般就労」をめざす姿勢

1つ目の柱は、「ゼロ除外」と「一般就労(競争的雇用)を目標とする」ことです。

  • 障害の重さや症状の有無で利用者を除外しない(働きたい人は誰でも対象)
  • 就労継続支援事業所での就労などだけでなく、一般企業で最低賃金以上が支払われる仕事を目指す

といった考え方が強調されます。

医療・福祉と一体となったチーム支援

2つ目の柱は、「医療・生活支援との統合」です。

  • 就労スペシャリスト(就労支援員)と、主治医・看護師・精神保健福祉士などがチームを組む
  • 症状や服薬、生活リズムの課題があれば、医療スタッフと連携しながら職場での調整を行う

といった形で、「働くこと」を治療や生活支援と切り離さず、セットで考える点が特徴です。

希望・強みを尊重した仕事探し

3つ目の柱は、「本人の希望と強みを中心にした支援」です。

  • 「どんな仕事をしたいか」「どんな働き方が合いそうか」を丁寧に聴き取る
  • 過去の職歴や得意なこと・好きなことから、その人に合いそうな仕事を一緒に考える
  • 就労条件(職種・収入・勤務時間・通勤時間・障害開示など)の希望と、実際の仕事のマッチ度を重視する

国立精神・神経医療研究センターの研究では、IPS利用者を2年間追跡した結果、「希望条件とのマッチ度が高いほど就労期間が長くなる」ことが示されており、当事者の希望を優先する姿勢の重要性が科学的に裏付けられています。

研究で得られたヒント・エビデンスを当事者や現場の方々にも活用してもらえるよう紹介するサイトです。

早期の職探しと就職後も続くサポート

4つ目の柱は、「早期の就職活動」と「時間制限のない継続支援」です。

  • 長い職業訓練の後に就活するのではなく、「働きたい」と思った段階からすぐに求人探索を始める
  • 採用面接への同行や職場見学など、早い段階から「現場」に関わる
  • 就職後も、必要とされる限り、本人と職場の双方を継続的に支援する

こうした進め方により、「訓練のための訓練」で終わらず、実際の就職につながりやすくなります。

これら主要な4つの柱以外に下記のものもあります。

  • 「就職に伴う年金・生活保護など収入全体の見通しを一緒に確認する『保障カウンセリング』」
  • 「企業への継続的な訪問や情報収集を通じて、系統的に職場開発を行うこと」

IPSの支援プロセス(利用者の視点から)

1)働きたい気持ちの確認とアセスメント

  • 「どんな仕事をしてみたいか」「どんな生活を送りたいか」を、支援者と一緒に言語化する
  • 病気や障害の状態だけでなく、「得意なこと」「苦手な環境」「支えになっている人」などを整理する
  • 家族や関係者の意見も、本人の同意を得たうえで聞き取り、支援計画に活かす

この段階で、「無理に働かせる」のではなく、「どんな働き方なら自分らしさを活かせるか」を一緒に探る姿勢が大切です。

2)仕事探しと企業とのマッチング

  • 本人の希望や強みをもとに、具体的な求人情報を探す
  • 就労スペシャリストが企業に直接働きかけ、仕事内容や配慮事項について対話する
  • 必要に応じて職場見学や実習を行い、「ここならやってみたい」と思える職場かどうかを一緒に確認する

このプロセスでは、「支援者の都合で紹介する」のではなく、「本人が選ぶ」ことを尊重することがIPSの特徴です。

3)就職後のフォローと職場との調整

  • 仕事が始まってからも、定期的に面談し、困りごとや体調の変化を共有する
  • 必要に応じて、勤務時間の調整や業務内容の見直しなどを、企業側と一緒に検討する
  • 本人が職場内の相談先(上司・同僚・産業医など)を使えるように支える

就労スペシャリストは、本人だけでなく、職場側への助言や調整も行い、「人」と「職場」の両方を支える役割を担います。

IPSが大切にする「考え方」

病気や障害より「その人らしさ」に目を向ける

IPSでは、「病名」や「障害等級」よりも、まず目の前の人を一人の人間として尊重する姿勢が重視されます。

  • 症状や診断だけで「この人は働けない」と決めつけない
  • その人の価値観や、人生で大切にしたいことを理解しようとする
  • その人なりのペースでチャレンジできる環境を整える

JEED(障害者職業総合センター)が紹介する援助付き就業の考え方でも、「できないこと」ではなく「できること(能力)」に焦点を当てる重要性が強調されており、IPSも同じ価値観に立っています。

失敗を前提にしたチャレンジと学び

IPSでは、「一度の就職で完璧にうまくいくこと」を目標にしません。

  • 途中で離職しても、「失敗」とみなさず、次に活かす学びとして整理する
  • どのような職場や働き方が本人に合わなかったのかを一緒に振り返る
  • 必要であれば、再び仕事探しからサポートをやり直す

この「やり直しを前提にした支援」は、精神障害のある人にとって大きな安心材料となります。

家族・関係機関との協働

IPSでは、本人の同意を前提に、家族や関係機関との連携も重視します。

  • 家族の不安や期待を聞き取り、情報共有や相談の場を設ける
  • 相談支援専門員、就労移行支援事業所、医療機関、地域生活支援事業などと連携する
  • 「支援ネットワーク全体で、その人の働き方を支える」イメージで関わる

こうした多職種・多機関連携は、日本版IPSの開発や普及を担ってきた研究チームでも、重要な要素として取り上げられています。

日本の制度・就労支援との関係

障害者総合支援法のサービスとのつながり

日本では、IPSそのものは法定サービス名ではありませんが、

  • 就労移行支援事業所
  • 医療機関(精神科デイケア、訪問看護など)
  • その他の地域生活支援事業

などの枠組みの中で、IPSモデルを取り入れた就労支援が行われています。

厚生労働科学研究でも、こうした既存の社会資源とIPSを統合したモデルの有効性が検証されており、将来的な制度設計への活用が期待されています。

医療機関・就労移行支援事業所でのIPS活用

  • 精神科病院やクリニックが、外来やデイケアの一環としてIPS型の就労支援を実施
  • 就労移行支援事業所が、訓練中心から「早期の職探し+職場定着支援」へとシフトする際にIPSを参考にする

といった実践例が報告されています。

福祉現場でIPSを取り入れるときのポイント

福祉事業所や医療機関がIPSを取り入れる際には、次のような点がカギになります。

  • 「ゼロ除外」「一般就労を最初の選択肢とする」といった理念をスタッフ間で共有する
  • IPSフィデリティ尺度(日本版個別援助付き雇用フィデリティ尺度など)を活用し、サービスの質を定期的に振り返る
  • 医療・福祉・企業・家族など、関係者との連携体制(ミーティングや情報共有の仕組み)を整える

IPSを活用したい支援者・当事者へのアドバイス

支援者として意識したい視点

支援者の立場でIPSを学ぶときには、次のような問いを自分に向けてみることが役立ちます。

  • 「この人は本当に働けるのか?」と無意識に可能性を制限していないか
  • 「まず訓練」ではなく、「まず希望を聴く」「まず現場に近づく」支援になっているか
  • 自分たちのサービスの質を、客観的な尺度(フィデリティ評価など)で見直しているか

IPSは、ソーシャルワークの基本に立ち返るための「鏡」としても活用できると言われています。

当事者として知っておきたいこと

当事者の方にとって、IPSを知ることには次のような意味があります。

  • 「働きたい気持ちそのもの」が大切にされる支援モデルがあると知ること
  • 障害の重さや診断名だけで、就労の可能性を諦める必要はないと理解すること
  • 自分の希望や条件を遠慮なく伝えてよい、という前提で支援を受けられること

「自分らしく働きたい」という思いがある方は、地域の就労支援機関や医療機関に、「IPSや援助付き雇用のような支援はありますか?」と聞いてみることも、一つの行動のきっかけになります。

これからの就労支援に求められること

少子高齢化が進む中で、「誰もが地域で働き続けられる社会」を実現することは、日本全体の課題でもあります。

IPSは、海外では、精神障害のある人だけでなく、PTSDや若者の精神障害、慢性疼痛、脊髄損傷、ホームレス状態の人など、多様な背景の人への応用研究が増えていると報告されています。

今後の就労支援には、

  • 当事者の希望と強みに基づく個別支援
  • 医療・福祉・企業がチームとなるネットワークづくり
  • エビデンスに基づいたサービス評価と改善

がますます重要になっていくでしょう。IPSは、その一つの具体的なモデルといえます。

まとめ(要点と次のアクション)

記事の要点

  • IPS(個別就労支援モデル)は、「一般就労を目標に、できるだけ早く職場に出て、働きながら支援を続ける」就労支援モデルです。
  • 国内外の研究で、従来型支援よりも高い就職率・就労継続が示されており、「最も効果が高い就労支援モデル」の一つとされています。
  • IPSの8つの原則は、ゼロ除外、一般就労志向、本人の希望と強みの尊重、早期の就職活動、医療・生活支援との統合、長期的なフォローなどから構成されています。
  • 日本でも、就労移行支援事業所や医療機関など約20か所でIPSが実践されており、フィデリティ評価ツールの開発など、エビデンスに基づく普及が進んでいます。
  • IPSは、単なる技法ではなく、「その人らしく働く権利」を尊重するソーシャルワークの考え方を体現するモデルでもあります。

次のアクションの例

  • 支援者の方は、自身の事業所の支援が「train-then-place」型に偏っていないかを振り返り、IPSの原則のどこから取り入れられそうか検討してみてください。
  • 当事者やご家族の方は、地域の就労支援機関や医療機関に「IPS型の援助付き雇用」について相談し、自分に合った支援の可能性を一緒に探ってみてください。
  • 事業所単位では、IPSフィデリティ評価や研修プログラムの情報を収集し、組織としての支援の質を高める取り組みを検討してみてください。
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この記事を書いた人

株式会社パパゲーノ代表取締役CEO / 「生きててよかった」と誰もが実感できる社会を目指して、東京で「パパゲーノ Work & Recovery(就労継続支援B型)」の運営や、支援現場のDXアプリ「AI支援さん」を開発。精神障害のある方との事業開発がライフテーマ。

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