
障害者手帳を持っていることを伝えたうえで、一般雇用枠で働きたい
と希望する新卒も少なくありません。背景にあるのは、制度上の区分よりも、「必要な配慮」と「望むキャリア」を両立させたいという強いニーズです。
一方で企業側では、



「一般枠なら配慮は不要なのでは?」
「手帳を持っているなら障害者枠に誘導してよい?」
といった誤解が起きやすいのも現実です。国のQ&Aでは、募集・採用の段階で合理的配慮を提供し、障害のない人と同じように機会を確保したうえで選考することが示されています。
この記事では、調査結果と制度の要点を整理しながら、企業が採用でどこを見直すとよいかを具体的にまとめます。
新卒の「一般枠×オープン就労」は3割という調査結果
障がい学生を対象にした調査では、就職活動後の働き方として、一般雇用枠でオープン就労を選ぶ人が3割程度いることが示されています。(※ワークリアによる調査)
一方で、一般枠でクローズ就労を選ぶ人も一定数います。
ここで大事なのは、「一般枠か障害者枠か」という二択ではなく、配慮とキャリアの両方を成立させるために「開示」を選ぶ人が一定数いる点です。企業側は、好意や偶然に頼るのではなく、採用の進め方として整えておく必要があります。




なぜこれまで「クローズ就労」が多かったのか
特に、外見からは分かりにくい精神障害、発達障害、難病などでは、「伝えたら不利になるのでは」という不安がつきまといます。
クローズ就労が選ばれやすかった背景には、例えば次のような事情があります。
- 障害者枠では、業務負担は軽くなりやすい一方で、任される仕事の幅が限られるのではないか。給与や雇用の安定性が心配だと感じる人がいる
- 診断名や通院歴を伝えた途端に、偏見によって選考が進みにくくなるのではという懸念がある
新卒の調査で、オープン就労を選ぶ人が一定数いることは前向きに受け止められますが、同時に「採用側の言動や体制次第で、またクローズに戻ってしまう」可能性も含んでいます。
一般枠でも「差別禁止」と「合理的配慮」は外せない
採用担当が最初に押さえるべきは、対象が手帳所持者だけに限られないという点です。雇用の場面では、手帳がない場合でも、症状や困りごとがあり、配慮が必要になるケースはあり得ます。
障害者差別解消法 第2条(障害者の定義)
また国のQ&Aでは、募集・採用に関連して次の考え方が示されています。
- 手帳を持つ人を、一般求人から外して「障害者専用求人でのみ受け付ける」ことは、差別に当たり得る
- 合理的配慮を提供し、機会を確保したうえで選考し、能力・適性の判断の結果として不採用になること自体は、直ちに差別とはいえない
障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮
に関する Q&A 2024年(令和6年)第三版
つまり、「採る/採らない」より前に、配慮を前提に、公平に選べる状態をつくれているかが問われます。
相談が高止まりする今、知らなかったでは済まない
「前職(あるいは学校)でメンタル不調があったと聞いたので見送った」など、属性だけで判断するような選考は、差別の問題と隣り合わせです。
実際に、厚生労働省が公表した令和6年度の「個別労働紛争解決制度の施行状況」では、総合労働相談件数が高止まりしており、助言・指導の申出件数と、あっせんの申請件数はいずれも前年度より増加しています。
採用や受け入れの対応は、法令順守にとどまらず、企業への信頼にも影響しうるテーマです。


企業が今すぐ見直したい「採用」での5つのポイント
ここからは、採用の現場で「何を変えるとよいか」を具体的に整理します。
1)求人票や採用ページに「できる配慮」を書けているか
候補者が最初につまずきやすいのは、「どんな配慮が可能か分からない」ことです。たとえば、次のような情報があるだけでミスマッチが減ります。
- 通院のための調整(勤務時間・休暇の扱い)
- 指示の出し方(口頭/チャット/手順書など)
- 仕事をしやすい環境(静かな席、在宅の可否など)
- 相談できる窓口(人事・現場の担当、相談の頻度)
2)配慮の話は、選考のどの段階で、誰が確認するか
面接でいきなり「必要な配慮を全部言ってください」と求めると、候補者側の負担が大きくなります。
おすすめは、最初は能力・志向を中心に確認し、選考が進んだ段階で配慮を具体化するなど、段階を分けて進めることです。
3)「手帳=障害者枠へ誘導」になっていないか
本人が一般枠を希望しているのに、事実上、障害者枠にしか応募できないような扱いになっていないかは要注意です。意図がなくても、運用の結果として排除になっているケースがあります。
4)評価の考え方が「配慮を踏まえた業務遂行」になっているか
ポイントは「配慮があると実力が出せる」という前提で、どんな成果・行動を評価するかを決めておくことです。
配慮の有無と評価軸が混ざると、「配慮を求めたこと自体が不利になる」構図を生みやすくなります。
5)面接官の言動が、担当者によってばらつかないか
差別的な言動は、悪意ではなく「無自覚」で起きることがあります。
面接官向けに、聞いてよいこと/避けたいことの例、想定問答、同席ルールなどを用意して、人によって対応が変わりすぎないようにしておくと安心です。
面接での「聞き方」例
※法的助言ではありません。面接での確認の仕方の一例です。
配慮を確認するための聞き方
- 「仕事を進めるうえで、指示はどういう形が分かりやすいですか?」
- 「通院や体調管理のために、勤務時間の調整が必要になることはありますか?」
- 「配慮があると力を発揮しやすい場面があれば教えてください」
注意したい聞き方
- 「病名は?いつ治りますか?」(プライバシーに踏み込みやすい)
- 「うつで辞めたなら、うちも無理では?」(属性だけで判断しやすい)
定着のためにまず確認したいポイント
採用で丁寧にすり合わせても、配属後に「相談先がない」「指示が人によって違う」などが起きると定着が難しくなります。最低限、次を形にしておくと安定します。
- 相談先を決める(人事/現場で担当を固定)
- 指示と評価の出し方をそろえる(文章化、週次のふり返りなど)
- 定期的に困りごとを確認し、必要に応じて配慮を更新する


配慮を「特別対応」にしないために
AIは、判断を代替するものというより、「抜け漏れを減らす」「やり方をそろえる」ところで力を発揮します。
- 求人票:配慮の書き方をひな形にして、情報不足を防ぐ
- 面接:質問例・避けたい質問例をメモとして共有し、担当者ごとの差を小さくする
- 配属後:困りごとや工夫を記録し、次の改善につなげる
配慮は「特別扱い」ではなく、能力を発揮するための環境づくりです。
問われているのは「枠」ではなく、採用の進め方
一般枠でオープン就労を選ぶ新卒が一定数いる今、企業側が見直すべきなのは、採用人数というより「公平に選べる状態をつくれているか」です。
- 求人段階で情報を出せているか
- 選考で配慮をどう確認するか決めているか
- 評価軸が「配慮を踏まえた実力」に寄っているか
- 面接官の言動にばらつきがないか
この見直しを進めることが、法令順守だけでなく、信頼を積み上げる採用にもつながります。





