障害のある人の働き方を語るとき、これまでは「一般就労」か「福祉的就労」か、という二択で整理されることが少なくありませんでした。そんな中で、東京都が力を入れているのがソーシャルファームです。ソーシャルファームは、就労に困難を抱える人が必要なサポートを受けながら、ほかの従業員と一緒に働く社会的企業のこと。一般企業として事業収入を得ながら運営される点に特徴があります。
東京都は、この仕組みを後押しするために条例を制定し、認証や補助、情報提供・セミナー開催・コンサルティング支援などを進めてきました。就労に困難を抱え、個別の事情に応じた支援が必要な方の働く場を広げる新たな枠組みとして注目されています。
ソーシャルファームとは?
東京都の公式サイトでは、ソーシャルファームを「自律的な経済活動を行いながら、就労に困難を抱える方が、必要なサポートを受け、他の従業員と共に働いている社会的企業」と説明しています。ポイントは、福祉サービスの一環ではなく、あくまで事業収入を主な財源として成り立つ「社会的企業」であることです。
また、東京都の案内や募集要項の記載を踏まえると、ソーシャルファームの認証要件は
①事業からの収入を主たる財源として運営していること、
②就労困難者と認められる者を相当数雇用していること、
③就労困難者が他の従業員と共に働いていること、
の3点が示されています。
つまり、「支援の場」であるだけでなく、「共に働く場」であり、「事業として継続する場」であることが重要なのです。
ルーツはイタリア、東京都は全国初の条例化
ソーシャルファームは、東京都の説明によると1970年代にイタリアで誕生し、その後ドイツ、イギリス、フランスなどに広がりました。東京都は、ヨーロッパ全体で約10,000社、韓国でも約3,000社が存在すると紹介しています。海外では、障害のある人など就労に困難を抱える人が、ほかの従業員と一緒に働く場として発展してきました。
東京都はこうした流れを踏まえ、2019年12月に全国初の条例である「都民の就労の支援に係る施策の推進とソーシャルファームの創設の促進に関する条例」を制定しました。条例は、都民一人ひとりが個性と能力に応じて就労し、誇りと自信を持って活躍できる社会の実現を目的に掲げ、誰もが地域社会の一員として包摂されるという、ソーシャル・インクルージョンの考え方に立って就労支援を進めるとしています。
なぜ「第三の選択肢」と呼ばれるのか
ソーシャルファームが注目される理由は、一般就労か福祉的就労か、という従来の整理だけでは拾いきれない働き方を提示しているからです。一般企業で働くことにハードルがある一方で、「福祉の場」だけに限定されない働き方を望む人にとって、ソーシャルファームは現実的な選択肢になり得ます。東京都の条例も、就労困難者の多様な就労の実現を図る中で、ソーシャルファームの創設と活動の促進を位置づけています。
とくに大きいのは、「必要なサポートがあること」と「他の従業員と共に働くこと」が両立している点です。支援の有無か、一般企業か福祉か、という二項対立ではなく、事業性と包摂性をあわせ持つモデルとして理解すると、ソーシャルファームの意義が見えやすくなります。

東京都認証ソーシャルファームのポイント
東京都の報道発表では、東京都認証ソーシャルファームについて、自律的な経済活動の下、就労に困難を抱える方を全従業員の20%以上雇用する社会的企業だと説明しています。条例上の「就労困難者」はより広い概念であり、募集要項では「就労困難者と認められる者」という用語が用いられていますが、東京都の認証制度では、こうした方々の雇用を具体的な形で後押ししていることがうかがえます。
ここで重要なのは、ソーシャルファームが単なる理念ではなく、認証要件・認証基準を満たした事業所を都が認証する制度として運用されていることです。募集要項では、事業の成り立ちや雇用のあり方に関する認証要件に加え、事業所についての認証基準も定められています。東京都は条例に基づいて認証を行い、2021年3月には都の支援対象となる認証ソーシャルファームが初めて誕生しました。
東京都はどんな支援をしているのか
東京都と東京しごと財団は、ソーシャルファームの創設や運営を支えるために、主に認証、補助金、情報提供、セミナー開催、コンサルティング支援などを行っています。公式サイトでは、創設を検討している事業者への情報提供や、就労困難者の雇用ノウハウに関する相談対応、認証後の経営や雇用に関する助言などが案内されています。
東京都の初回認証時の発表では、支援策として、事業所改修経費や人件費などへの補助に加え、中小企業診断士や社会保険労務士などの専門家によるコンサルティング支援も示されました。つまり、東京都は「雇えば終わり」ではなく、立ち上げから運営までを支える仕組みとしてソーシャルファームを育てようとしているのです。
さらに現在も、ソーシャルファーム事業所と就労支援機関をつなぐマッチング会や、実務的なテーマを扱うセミナーが案内されており、制度が現在進行形でアップデートされていることがうかがえます。
どんな仕事・業種があるのか
ソーシャルファームというと、特定の福祉職や軽作業だけをイメージする人もいるかもしれません。しかし、東京都の認証事業者一覧や事例紹介を見ると、実際の業種はかなり多様です。たとえば、便利屋・リサイクルショップ・カフェを運営する事業者、障がい者専門芸能事務所やスクール、バリアフリーネイルサロンを展開する事業者などが認証事業者として掲載されています。
事例紹介でも、地域の中で働ける場づくりを目指す事業所、飲食店、DTP関連事業、ロースタリー、デジタル分野など、さまざまな現場が紹介されています。ソーシャルファームは「業種」ではなく、「誰もが働ける職場をどう事業として成立させるか」という考え方だと捉えるとわかりやすいでしょう。

障害者雇用との関係をどう見るべきか
ソーシャルファームは、障害者雇用そのものを置き換える仕組みではありません。むしろ、障害者雇用の実践を含みながら、そこに就労に困難を抱える多様な人たちも含めていく枠組みです。東京都の条例では、「就労困難者」を、さまざまな事由により就労が困難で、実情に応じた支援が必要な人と広く定義しています。
その意味でソーシャルファームは、障害者雇用を福祉だけのテーマに閉じ込めず、地域の産業や事業の中でどう包摂していくかを考えるモデルでもあります。障害のある人が働く場を増やすだけでなく、「働きづらさ」を抱える人が地域社会の一員として働ける環境をつくる点に、制度の広がりがあります。
今後の課題と期待
一方で、ソーシャルファームを広げていくうえでは、社会性と事業性をどう両立するかが大きなテーマになります。東京都が補助金や経営相談、雇用ノウハウ提供、セミナーなどを整えていることからも、現場では「良い理念」だけでなく、継続可能な経営が求められていることがわかります。
それでも、東京都が全国に先駆けて条例化し、認証制度と支援策を動かしてきた意義は大きいはずです。ソーシャルファームは、障害者雇用の新しい選択肢であると同時に、「働くこと」をもっと多様に捉え直すための実践でもあります。今後、東京都の取り組みが他地域へどう広がっていくのかも注目されます。
まとめ
ソーシャルファームとは、就労に困難を抱える人が必要なサポートを受けながら、ほかの従業員と共に働く社会的企業です。東京都は2019年12月に全国初の条例を制定し、認証、補助金、コンサルティング支援などを通じて、その創設と運営を後押ししてきました。
障害者雇用を考えるとき、一般就労か福祉的就労かという二択では見えにくかった現実があります。ソーシャルファームは、その間にある「共に働く」ための具体的な仕組みとして、これからますます存在感を増していくかもしれません。

