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クリームスキミングとは何か?就労継続支援A型・B型事業所が抱える倫理的ジレンマ【工賃・就職の罠】

「利用者の就労実績(就職・定着)や工賃・労働時間などの“成果の数字”が上がると、報酬や評価が良くなる仕組みがある」。
こうした事情から、支援の負担が少なく成果が出やすい利用者のみを優先的に受け入れる
――これが“クリームスキミング”です。

就労継続支援A型・B型の本来の目的は、障害のある人々が働く機会を得て自立と社会参加を進めることにあります。
しかし、事業所運営の現実や報酬制度が、倫理的なジレンマを生み出しています。

なお、「クリームスキミング」という言葉は法律上の用語ではなく、福祉・医療・教育などの分野で、成果や採算性を重視する仕組みのもとで起こりうる利用者選別の問題を指す、専門的な概念として用いられています。

この記事では、クリームスキミングの定義と典型例、なぜ発生するのかの制度的背景、利用者や地域にもたらす影響、事業所・支援者・行政が取り得る具体的対策を初心者向けにわかりやすく解説します。

目次

クリームスキミングとは何か?

クリームスキミングの定義と具体例

クリームスキミングのイメージ画像

クリームスキミングとは、サービス提供者が事業の効率や実績を高める目的で、支援負担の軽い利用者や成果が出やすい利用者ばかりを選んで受け入れる行為を指します。

結果として、手厚い支援を必要とする利用者が利用機会を失い、地域の支援格差が拡大します。

例えば、就労継続支援A型やB型事業所が、比較的就労移行が見込める軽度の発達障害や身体障害のある人を優先し、精神障害や認知機能の低下がある人、高齢で複数の支援ニーズを抱える人の受け入れに消極的になる、あるいは断らざるを得ないといった事例や懸念が指摘されています。

その結果として、「比較的工賃の高い利用者が多く集まる事業所」と、「工賃は低く見えるものの、重度の障害がある人への支援を多く担っている事業所」という構図が生まれ、数字上の工賃格差が強調されてしまうおそれがあります。

類似の概念との違い

類似の問題として「選別的募集」「アクセスの不平等」があります。
クリームスキミングは事業者側の意図的な選別行為である点が特徴です。

「選別的募集」とは、事業所が募集要項や説明会、面談などの場で特定の特性を持つ応募者だけを想定して募集情報を出す行為を指します。

具体例としては、募集要項に「作業の早い方歓迎」「短期での定着を重視」と記載したり、説明会で「こういう方が合う」といった発言をすることで、支援を多く要する人を事実上遠ざける場合です。

選別的募集は募集時点での対応に限られる点が特徴で、クリームスキミングと重なる部分は多いものの、範囲がやや異なります。

「アクセスの不平等」とは情報不足や移動手段の不備といった地域の事情でサービスを受けづらくなるケースのことを言います。

どちらの場合も、利用希望者が本来受けられる支援機会を失うおそれがあります。
行政や支援者は募集情報の透明化、面接時の配慮、地域での受け皿整備などを通じて、利用機会を確保する対応が必要です。

なぜ発生するのか — 背景と仕組み

報酬制度と評価指標の影響

報酬の仕組みや事業所の評価が、就職・定着の実績、工賃、労働時間、利用者数の増加など「短い期間で数字として把握しやすい成果」を重視する形になっていると、結果として「事業として収益や評価につながりやすい利用者」を優先しやすくなります。

とくに、成果に応じて報酬が増える制度や、評価指標を公表する仕組みがある場合、事業所にとっては、外から見て分かりやすい成績を良くすることが経営上有利になってしまいます。


運営コストと人材不足

支援ニーズの高い利用者に対応するためには、専門的なアセスメントや丁寧な個別支援、場合によっては介助体制の確保が必要になります。

こうした支援には時間も人手もかかるため、人員に余裕のない小規模事業所や、運営資金が限られている事業所では十分に対応しきれないことがあります。

その結果、負担の大きいケースを受け入れることに慎重になり、リスクを避けようとする判断が生まれやすくなります。

地域競争と市場原理の影響

同じ地域に事業所が複数あると、どうしても利用者の獲得競争が起きやすくなります。

そのなかで、支援負担の少ない“魅力的な利用者”を多く集めた事業所ほど外部からの評価が高まり、口コミや紹介も増え、さらに利用者が集まるという循環が生まれます。

結果的に、この競争構造が“負の連鎖”を生み、支援がより必要な利用者が相対的に受け入れられにくくなるリスクがあると指摘されています。

誰が被害を受けるのか — 利用者と地域への影響

排除される利用者の増加

支援の手間がかかる人々がサービスから排除されると、適切な働く機会を失い、生活基盤の不安定化や社会的孤立を招く恐れがあります。

特に、複数障害や精神疾患を抱える人、長期にわたるトラブル歴がある人は就労までのプロセスが長いため、支援の継続性が重要です。

工賃の見かけ上の差

クリームスキミングが起きると、比較的支援の手間が少ない利用者を多く受け入れている事業所では、生産性が高まり、その分工賃も高くなりやすくなります。

一方で、重度の障害がある人への支援を多く担っている事業所では、時間も人手も必要になるため生産性が下がり、結果として工賃が低く見えてしまいます。

しかし、この工賃の差は“本来必要としている支援の負担”を反映したものではなく、利用者や事業所の間で不公平感を生み出す要因になります。

地域包括性の低下

特定の支援ニーズをもつ利用者が地域の支援からこぼれ落ちてしまうと、その人たちだけが孤立するだけでなく、地域全体の支援ネットワーク自体が弱まってしまいます。

行政のサービスも均等に行き渡らなくなり、結果として“誰も取り残さない”という社会的包摂の考え方が後退してしまう恐れがあります。

事業所側の倫理的ジレンマ

持続可能な運営 vs. 包括的支援

持続可能な運営 vs. 包括的支援のイメージ画像

事業所は経営的側面を無視できません。
収支を確保するために効率的な運営を行うことは必要です。

しかし、その過程で利用者選別が行われると、福祉の理念に反する結果を生みます。

事業所運営者は持続可能性と社会的責任のバランスを常に問われます。

個別支援計画と実際の提供サービスの乖離

個別支援計画は、本来、利用者一人ひとりの状況や目標に合わせて最適な支援を提供するための重要な指針です。

しかし、実際の現場では、受け入れ段階での選別やスタッフの不足、専門性を持つ人材の確保が難しいといった制約により、計画に書かれた支援が十分に実施できないケースが生じます。

こうした“計画と実際のサービス”のギャップが続くと、利用者は事業所に対する信頼を失い、支援の継続や就労への意欲にも影響が出かねません。
計画の形式だけが整っていても、その内容が実際の支援に反映されなければ、利用者にとっては大きな不利益となってしまいます。

監督・評価の現状と課題

制度上の監視機能の限界

現行の監査や評価指標は、事業所の「成果」を測ることに重きが置かれる場合があります。

これに対して、支援の難易度や継続的な支援の重要性をどう評価指標に反映するかが課題です。

制度として用意されている監査や評価指標は、どうしても事業所がどれだけ「目に見える成果」を出したかに重点が置かれてしまう傾向があります。

その一方で、対象となる利用者の状態によって支援の難易度が大きく異なることや、すぐに成果が数字に表れにくい「長期的・継続的な支援」の価値は、現行の指標では十分に評価されていない場合があります。

支援のプロセスや背景にある困難さ、時間をかけて信頼関係を築くような支援の重要性を、どのように評価項目やスコアに反映していくのかが、今後の大きな課題となっています。

情報公開と透明性の必要性

事業所がこれまでの支援実績や、受け入れ対象とする利用者の条件・基準を分かりやすく示すことで、利用を検討する本人や家族、そして相談支援専門員などの支援機関が、自分たちに合った事業所をより適切に選択しやすくなります。

こうした情報を一度出して終わりにするのではなく、定期的に実績や方針を公表し、その内容について説明責任を果たす仕組みを整えることで、「一定の人だけを優先的に受け入れているのではないか」といった不信感を軽減できます。

このような継続的な情報公開と透明性の確保は、利用者の選別を行おうとする動きを事前に抑える、有効な抑止力として機能し得ると考えられています。

具体的な対策と現場でできること

行政レベルの対応

  • 報酬や評価指標の見直し:就職率だけでなく、支援の難易度や長期的な定着支援を評価する項目を導入する。
  • モニタリング強化:受け入れ状況や選別の有無について、定期的なモニタリングを実施する。

事業所レベルの取り組み

  • 受け入れ基準の明文化と公開:誰をどのように受け入れるかを透明化する。
  • 協働体制の構築:医療機関・相談支援事業所・家族会と連携し、専門性を補完する。
  • 人材育成と専門スタッフ配置:支援ニーズの高い利用者に対応できる専門性を高める。

支援者・利用者側ができること

  • 支援ニーズを適切にアセスメントし、マッチングの精度を上げる。
  • 地域の複数事業所の情報を集め、選択肢を広げる。
  • 地域の連絡会や当事者会で事例を共有し、公的機関への相談・報告を行う。

現場で使える簡易チェックリスト(事業所向け)

チェックリストのイメージ画像
  • 受け入れ基準は公開されているか?
  • 定期的に重度ニーズの利用者受け入れ実績をレビューしているか?
  • 個別支援計画は実行可能な内容になっているか?
  • 外部機関との連携体制は整備されているか?
  • 公的報告(工賃・就職実績)に支援難易度の注記を付けているか?

クリームスキミングは、事業所の運営上の現実と福祉の理念が衝突した結果として生まれる問題です。

これにより、支援が必要な人がサービスから排除されるリスクや、工賃の見かけ上の格差、地域の支援体制の弱体化が発生します。

対策として、

  • 行政が評価基準を見直すこと
  • 事業所が情報を分かりやすく公開すること
  • 専門性のある職員を配置すること
  • 地域の関係機関と連携を強めること

が重要です。

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この記事を書いた人

株式会社パパゲーノ代表取締役CEO / 「生きててよかった」と誰もが実感できる社会を目指して、東京で「パパゲーノ Work & Recovery(就労継続支援B型)」の運営や、支援現場のDXアプリ「AI支援さん」を開発。精神障害のある方との事業開発がライフテーマ。

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