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SHIFTの障害者雇用への取り組み ――「生成AI大賞2025」受賞から見える、インクルーシブな働き方の設計図

「IT企業で、障害のある人はどんなふうに働いているのだろう?」
「テクノロジー企業ならではの障害者雇用の工夫を知りたい」

そのような疑問をお持ちの方に向けて、本記事ではソフトウェアテストを主力事業とする株式会社SHIFTの取り組みを整理します。

とくに、SHIFTが2025年12月15日に公表した「生成AI大賞2025」特別賞受賞のニュースリリースを手がかりに、“障害者雇用×生成AI活用”を、福祉・人事の現場でも応用できる形に分解して解説します。

【この記事で分かること】

  • SHIFTが障害者雇用を「戦力化」として設計しているポイント
  • 業務を広げる鍵になっている「社内BPO」「業務分解」「テンプレAI」の考え方
  • 生成AIが“支援”になりやすい場面/逆に注意がいる場面
  • 福祉・支援者・人事が持ち帰れる「仕組み」のヒント

※本記事は、SHIFTの公式発表・公式採用サイト・公的資料に基づく整理です。取り組みの評価ではなく、事実関係と構造の解説に主眼を置きます。

目次

SHIFTとはどんな会社か

ソフトウェアの品質保証・テストを担う企業

SHIFTは、ソフトウェアの品質保証・テストを主力とする企業です。
アプリやWebサービスが「正しく・安全に」動くかを点検し、品質向上を支える役割を担っています。

この領域の仕事は、プロジェクトの中に作業が細かく存在します。
そのため、タスクを分解しやすい(=役割を設計しやすい)という特徴があります。

「多様な人が働ける」前提の採用設計が見える

SHIFTの障がい者採用サイトでは、2024年3月時点で障がいのある従業員が170名在籍し、270を超える定常業務があること、約9割が1年以上継続して働いていることが示されています。

SHIFTの障がい者雇用における在籍人数・定常業務数・継続率のイメージ

ここで重要なのは、人数そのものよりも、
「業務が多数あり、挑戦やキャリアアップも想定され、評価も行う」という設計思想です。

なぜIT企業(とくにテスト領域)は障害者雇用と相性がよいのか

法定雇用率を「達成」するだけでは不十分

一定規模以上の企業には障害者雇用率制度があり、民間は段階的に引き上げられています(例:令和6年度2.5%、令和8年度2.7%)。

ただし現場で本当に難しいのは、採用後に安定して働き続けられる設計です。
厚生労働省の集計でも、雇用者数は増え続ける一方で、達成企業割合など課題も併存します。

だからこそ「数合わせ」ではなく、
業務設計・育成・評価まで含めた“戦力化”が論点になります。

テスト業務は「強みが活きる形」に分けやすい

ソフトウェアテストは、手順書に沿った確認、観察、記録、報告などの積み重ねです。
SHIFTの業務紹介でも、アプリ・Webテストでは不具合を見つけて報告書を作成し品質を上げる、と説明されています。

この種の仕事は、次のように切り分けが可能です。

  • 反復的な確認(同じ手順を丁寧に実行)
  • 表記ゆれ・表示崩れなどの“違和感”検知
  • 報告文の型に沿った記録
  • チェックリスト運用(抜け漏れ防止)

「一人に全部やらせる」より、「役割を組み合わせる」ほうが品質が上がる。
この構造が、合理的配慮(必要な調整)とも噛み合いやすいポイントです。

デジタルツールは「負担の偏り」を減らしやすい

IT企業では、チャット・オンライン会議・業務管理ツールが前提になりやすく、
通勤負担や対面コミュニケーションの負荷を調整しやすい側面があります。

SHIFTの障がい者採用の環境ページでも、

  • 週2〜3日在宅勤務可能
  • 週30時間〜の短時間勤務が相談可能
  • ノートPC貸与
  • 専用システムで毎日の健康チェック
  • 月1回以上の面談(定期面談・支援機関面談など)

が示されています。

在宅勤務と短時間勤務など柔軟な働く環境のイメージ

「在宅ができる」だけでなく、健康チェック+面談+支援機関連携まで“運用”として書かれている点が、定着に効きます。

SHIFTの障害者雇用を支える「業務のつくり方」

キーワード1:社内BPOで“業務の受け皿”をつくる

SHIFTのニュースリリースでは、障がいのある従業員が取り組む業務の幅と量を拡大するために、社内各部署の業務の一部を代行する「社内BPO」を進めてきた、と説明されています。

BPOは一般に「業務プロセスの外部委託」を指します。
一方ここで言う社内BPOは、社内の業務を社内で再配分し、専門チームが担う形です。

この発想には2つのメリットがあります。

  • 各部署の“細切れ業務”を集約し、安定した業務量にする
  • 業務を標準化し、教育・品質管理をしやすくする

つまり、障害者雇用を「単発の配属」ではなく、
業務生産の仕組みとして成立させる方向です。

キーワード2:業務分解(タスク分解)で“できる形”に整える

業務分解とテンプレAIで業務を進める流れの概念図

ただしSHIFTは、社内BPOを進める中で、
「業務が単純作業に偏りやすく、やりがいや成長機会を得づらい」という課題もあったと明記しています。

ここが掘り下げポイントです。
障害者雇用の現場では、善意で「簡単な仕事」だけを渡し続けると、次が起きやすくなります。

  • 仕事が“作業”で止まり、スキルの階段が作れない
  • 評価が曖昧になり、本人も周囲も成長実感を持ちにくい
  • 結果として定着が難しくなる(本人に合っていても、意味が薄れる)

だから必要なのは、作業を“難しく”することではなく、
成長につながる粒度でタスクを再設計することです。

SHIFTの業務紹介ページでも、テストエンジニアはテスト実行だけでなく庶務業務も行い、さらにテスト設計への挑戦や案件リーダーへのキャリアアップも想定すると記載があります。

庶務サポートでも「人事採用アシスタント」「社内ツールを使う業務」「英語を使う業務」など、段階的なチャレンジが示されています。

つまりSHIFTは「入口の仕事」だけで終わらせず、
次のステップが見える業務カタログを用意している、と読み取れます。

キーワード3:ユニークなプロジェクトで“役割”を拡張する

SHIFTの障がい者採用サイトでは、ビジネスサポート部の活動として、花卉プロジェクト、Artプロジェクト、オフィスサービスプロジェクトなどが紹介されています。

これらは「福祉的活動」ではなく、

  • 社内コミュニケーション
  • 帰属意識
  • 仕事としての分業

といった組織課題にも接続しています。

障害者雇用を「テスト業務」だけに閉じず、
才能の活かし方を複線化する試みとして参考になります。

生成AI大賞2025から見えるSHIFTの工夫

ここからが本題です。
SHIFTは「生成AI大賞2025」(主催:一般社団法人Generative AI Japan、共催:日経ビジネス)で、特別賞を受賞したと公表しています。

生成AI大賞2025とは何か

SHIFTの発表によると、生成AI大賞は2024年から開催されている生成AI活用事例を表彰するアワードで、2025年度が2回目の開催です。
SHIFTは113社・団体の応募からファイナリスト8組に選出され、特別賞を受賞しました。

「表彰そのもの」以上に、注目すべきは受賞プロジェクト名です。
生成AI×社内BPOで拓く「障がい者雇用」の新常識。

この名前だけで、SHIFTが
「AI導入」ではなく「雇用の仕組み(BPO)×AI」で再設計していることが分かります。

SHIFTが生成AIを“人に寄り添わせる”ためにやったこと

SHIFTは、ノープロンプト生成AIツール「天才くん」を2024年に自社開発し、社内展開を開始したと説明しています。

そして障がい者雇用推進の専門チームが、生成AI活用推進チームと連携し、
障がいのある従業員の働き方の質を高めるための取り組みを始めた、とされています。

ここでのポイントは、次の3点です。

  • 徹底した業務分解と、AI適用業務の仕分けを行った
  • 個別業務に特化したAIテンプレートを量産し、知見・経験の有無によらず精度の高い結果を得られる環境を整備
  • AI活用を前提とした業務フローやガイドラインを整え、適性に応じた活用をしやすくした

これは福祉・人事の言葉に置き換えると、
「属人的な支援」ではなく「再現性のある支援設計」に近いです。

  • “プロンプトが書ける人だけが得する”状態をなくす
  • 手順やルールを先に整え、迷いを減らす
  • 仕事を個人の努力に押し付けず、仕組みで支える

この発想が「人に寄り添う生成AI活用」として評価された、とSHIFTは述べています。

障害のある従業員の業務を支援する活用例

SHIFTは成果として、活用開始から半年で業務生産性が1.7倍年間1,800時間相当の工数削減、さらに働きやすさ・生産性向上を実感したメンバーが7割以上と公表しています。
また、AIを活用することで従来は困難だった業務に挑戦するメンバーが現れたとも説明しています。

個別の業務名(例:メール作成、議事録作成など)を「障害のある従業員向けの活用」として特定する記述までは、ニュースリリース本文では確認できませんでした。
ただし、業務分解→テンプレ化→ガイドライン整備により、経験差に左右されにくい形で業務挑戦を促した、という構造は明確です。

掘り下げると、ここは「合理的配慮」にも接続します。
配慮を“人の優しさ”に依存させず、テンプレとルールに埋め込むと、支援の質が安定しやすいからです。

「AIだけに頼らない」ための注意点

生成AIは便利ですが、職場導入ではリスクもあります。
SHIFT自身も「業務フローやガイドライン」を整備したと述べています。

福祉・人事の現場に置くなら、最低限押さえたいのは以下です。

  • 最終確認は人が行う(社内文書・対外文書は特に)
  • 個人情報・機密情報の入力ルールを決める
  • うまくいかなかったときの相談先を用意する(孤立防止)

言い換えると、AIは「代替」ではなく、
たたき台・理解補助・自己解決の補助輪として位置づけるのが現実的です。

障害者雇用の好循環を生むマネジメント(SHIFTの構造から学ぶ)

「できる仕事」を増やす評価とフィードバック

SHIFTの障がい者採用サイトでは、挑戦やキャリアアップの可能性、成果の評価が示されています。

障害者雇用で好循環を作るには、「配慮する/守る」だけでなく、次の3点が効きます。

  • 小さく始め、できたことを具体的に言語化する
  • 次のタスクを“半歩だけ”上げる(急に難しくしない)
  • できる範囲が広がったら、評価・役割・処遇に反映する

人事・現場・支援機関の連携を“運用”に落とす

SHIFTの環境ページには、月1回以上の面談支援機関面談が明記されています。

この情報が示すのは、
「連携している」ではなく、定期運用として組み込んでいるという点です。

支援者・企業側が持ち帰るなら、例えばこう整理できます。

  • 共有すべき情報:体調変化、業務負荷、コミュニケーション上の困りごと
  • 共有の頻度:定期+突発(いつ/誰が/どう連絡)
  • 記録の残し方:面談メモ、業務の手順変更履歴、配慮事項の更新

“属人的な口頭共有”から卒業し、
仕組みに変えるほど、定着は安定しやすくなります。

SHIFTの取り組みから学べるポイント(他社・支援者向けに)

ここまでを、福祉・人事が使える形に要約します。

ポイント1:仕事は「分けるほど」人が活きる

SHIFTの受賞プロジェクトでも、業務分解が中心に置かれています。
業務を分解すると、次がやりやすくなります。

  • 得意な部分から任せる
  • 苦手な部分はチームで補う
  • 標準化して教育しやすくする

ポイント2:マニュアル・チェックリストは“支援ツール”になる

SHIFTのテストや庶務は、手順化と相性がよい業務です。
支援の現場でも、次の工夫は再現しやすいです。

  • 文章だけでなく画像・例を入れる
  • チェックボックスで抜け漏れを防ぐ
  • よくあるミスを先回りして書く

ポイント3:生成AIは「テンプレ+ルール」で初めて武器になる

SHIFTは、テンプレ量産とガイドライン整備で、経験差に左右されにくい環境を作ったと述べています。

福祉・人事に置き換えるなら、いきなり“自由入力”させるのではなく、

  • 定型の用途(報告文、要約、言い換え等)から始める
  • 禁止事項(個人情報等)を明文化する
  • 困ったときの相談先を決める

が、現実的です。

ポイント4:働き方の柔軟さは「制度」より「運用」が大事

SHIFTは在宅勤務、短時間勤務、健康チェック、面談などを明記しています。
制度があっても、運用が回らないと形骸化します。

  • 体調に合わせた調整ができるか
  • 調整の相談を言い出せるか
  • 調整しても評価が不利にならないか

この3点は、導入時点で設計しておくと揉めにくいです。

まとめ:SHIFTから見える、これからの障害者雇用

SHIFTの事例から見えるのは、「配慮」だけではなく、業務設計とツール設計で“働きがい”と“生産性”を両立させようとする姿勢です。

  • SHIFTは2015年から障がい者雇用を進め、2019年発足のビジネスサポート部が採用と活躍機会の創出に取り組んでいると説明しています。
  • 2025年12月には「生成AI大賞2025」特別賞を受賞し、業務分解・テンプレAI・ガイドライン整備で働き方の質を高めたと公表しました。
  • 半年間で生産性1.7倍、年間1,800時間相当の工数削減、7割以上が働きやすさ・生産性向上を実感した、という成果も示されています。
  • 他社や支援者にとっては、「仕事の見える化」「ツール活用の型」「面談・連携の運用設計」が持ち帰りポイントです。
やすまさ

次のアクションとしては、まず自社・支援先で「業務分解できる仕事」を棚卸しし、
“テンプレ化できる部分”を1つだけ選んで試すところから始めてみてください。

参考リンク

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この記事を書いた人

株式会社パパゲーノ代表取締役CEO / 「生きててよかった」と誰もが実感できる社会を目指して、東京で「パパゲーノ Work & Recovery(就労継続支援B型)」の運営や、支援現場のDXアプリ「AI支援さん」を開発。精神障害のある方との事業開発がライフテーマ。

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