ホスピス型有料老人ホーム問題とは、終末期の高齢者やがん・難病のある人を支える「新しい住まい」が急速に広がる一方で、医療・介護の質やお金の流れ、制度とのズレが表面化している状況そのものを指します。
本記事では、公的機関の資料・企業の公式報告書・信頼できるメディアの記事などをもとに、この問題をできるだけ整理してお伝えします(2025年12月時点の情報です)。
ホスピス型有料老人ホームが注目される背景
高齢多死社会と「どこで最期を迎えるか」の悩み
内閣府「高齢社会白書」によると、60歳以上の人に「治る見込みのない病気になった時、最期を迎えたい場所」を聞いたところ、約半数(51.0%)が「自宅」と回答しています。
次いで「病院・介護療養型医療施設」が約3割という結果でした。
| 最期を迎えたい場所 | 割合 (%) |
|---|---|
| 自宅 | 51.0 |
| 病院・介護療養型医療施設 | 約30.0 |
一方で、現実には
- 家族の負担の大きさ
- 自宅での医療・介護体制の不足
- 病院の長期入院制限
などから、「自宅か病院か」以外の選択肢として、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などの“住まい+ケア”の場が広がっています。
厚生労働省の資料によると、有料老人ホームは令和5年6月時点で全国約1万6,500施設、入居定員は約64万人と、制度開始以来一貫して増加しています。
国も「住み慣れた地域で、自分らしく人生の最終段階を迎えられること」をめざし、在宅や介護施設等を含めた看取りの体制整備を進めています。
こうした流れの中で、「終末期の療養や看取りを行うこと」を前面に打ち出したのが、いわゆる「ホスピス型有料老人ホーム」です。
「ホスピス型有料老人ホーム」とは何か
法律上の正式な区分ではない
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まず押さえておきたいのは、「ホスピス型有料老人ホーム」という名前は法律上の区分ではないという点です。
法律上は「有料老人ホーム」(介護付き・住宅型)や「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」として位置づけられ、
そのうえで事業者が独自に「ホスピス型」「ホスピスホーム」「ナーシングホーム」「医療特化型」などの名称で広告しているケースが多いと指摘されています。

国立がん研究センターのがん情報サービスでは、
「ホスピス」は本来、国が定める基準を満たした医療機関の緩和ケア病棟などとほぼ同様の意味で使われており、痛みやつらさの軽減を主な目的とする医療機関側の概念です。
つまり、名前は「ホスピス」でも、
制度上はあくまで有料老人ホームやサ高住であり、病院の緩和ケア病棟とは別物
であることが多い、という前提を知っておくことが重要です。
典型的なサービスのイメージ
ホスピス型有料老人ホームと呼ばれている施設は、概ね次のような特徴を持つケースが多いとされています。

| 対象 | 住まいの形 | ケアの体制 | 役割のイメージ |
|---|---|---|---|
| 末期がん | 主に「住宅型有料老人ホーム」や「サ高住」の形態 | 施設内に併設、または密接に連携する訪問看護ステーション・訪問介護事業所が入居者を回る | 病院と在宅の「中間」のような存在 |
| 難病(パーキンソン病など) | 施設内で24時間スタッフ常駐をうたうところも多い | 24時間スタッフ常駐をうたうところも多い | 自宅では難しい医療的ケアも受けつつ、家庭的な環境で暮らすと説明されることが多い |
| 人工呼吸器など医療的ケアが必要な人 | 施設内で難しい医療的ケアを受ける | 施設内で難しい医療的ケアを受ける | 自宅では難しい医療的ケアも受けつつ、家庭的な環境で暮らすと説明されることが多い |
このビジネスモデル自体がすべて悪いわけではなく、実際に質の高い看取りやケアを提供している事例もあります。

ただし、急速な拡大の裏側で、制度とのズレやお金の流れをめぐる問題が明らかになってきました。
これが「ホスピス型有料老人ホーム問題」と呼ばれるものです。
「ホスピス型有料老人ホーム問題」とは何か
訪問看護の「不正・過剰請求」問題
もっとも大きく報じられているのが、訪問看護の診療報酬をめぐる不正・過剰請求の疑いです。
ニッセイ基礎研究所のレポートによると、
末期がんや難病の入居者に対して併設の訪問看護ステーションがサービスを提供する形で、
- 制度上の上限「1日3回」の訪問を、必要以上に多くの人に一律で設定する
- 実際には数分しか訪問していないのに、30分以上滞在したと記録する
- 実際は看護師1人で訪問しているのに、「複数名で訪問した」と記録して加算を請求する
といった手法で、報酬を水増ししていた疑いが報じられていると整理しています。

こうした仕組みは、
いわゆる「囲い込み」(外部サービスの選択肢が事実上ない状態で、自社グループの訪問看護・訪問介護を集中的に利用させること)とも関係していると指摘されています。
実際に、
東証プライム上場のホスピス型住宅大手で、特別調査委員会の調査により数十億円規模の不正請求が認定されたとする報道や、
末期がん・難病患者向け有料老人ホーム「医心館」を展開する企業で、訪問看護において実態のない診療報酬の請求が約6,300万円分あったと特別調査委員会が報告した、
との報道が相次ぎました。

これらは、
「高い医療的ニーズに応える」という理念のもとに作られたはずの仕組みが、
一部では「手っ取り早く儲かるビジネスモデル」として悪用されてしまっている可能性を示しています。

「ホスピス」を名乗ることによる誤解
前述の通り、「ホスピス型有料老人ホーム」は法的な医療機関のホスピス・緩和ケア病棟とは別物です。
しかし名称だけを見ると、
医師・看護師が常駐していて、病院の緩和ケア病棟と同等の医療が受けられる
と誤解してしまうご家族も少なくありません。
厚生労働省の補助事業報告書では、近年増加している「主としてがん末期や指定難病等の高齢者を受け入れる住宅型有料老人ホーム(いわゆるホスピスホーム)」について、
- 実態を把握するための基礎データが十分でない
- 指導監督上の課題がある
とし、自治体への予備調査や「ホスピスホーム」向けの実態調査を別途行う必要性が示されています。
また、消費者庁は有料老人ホームの広告表示に関して、
医療・介護サービスを過大に強調したり、実際には提供していないサービスを提供可能であるかのように表示することは景品表示法上問題となる可能性がある
と注意喚起しています。
囲い込み・高額紹介料など構造的な問題
厚生労働省の「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会 とりまとめ(案)」では、
- 一部の住宅型有料老人ホームにおける過剰な介護サービス提供(いわゆる囲い込み)
- 高齢者住まいの入居者紹介事業者に対する高額な紹介手数料
- 「住宅」と「介護・医療サービス」が同一グループ内で事実上一体運営されている事業モデル
などが課題として挙げられています。
また、2024年秋には、住宅型有料老人ホームで給与未払いにより職員が一斉退職し、短期間で全入居者が転居を余儀なくされた事案も起きており、事業者の経営悪化が入居者の安全や生活基盤を直撃するリスクも浮き彫りになりました。
ホスピス型有料老人ホームは、医療的ニーズの高い人を多く受け入れるため、訪問看護・訪問介護の利用量が多くなり、事業者側から見ると収益性が高いビジネスになりやすいと分析されています。

その結果、
- 利用者本位というより「報酬を最大化するためのサービス設定」
- 入居者や家族に十分な説明がされないまま、グループ内サービスの利用を事実上強制する
といった構造的な問題が生じやすい
と指摘されているのです。
国が見ている「有料老人ホーム全体の課題」
ここまでの問題はホスピス型に限らず、住宅型有料老人ホーム全体の問題とも深くつながっています。
届出制と指導監督の限界
有料老人ホームは、老人福祉法に基づき都道府県等への「届出」が必要ですが、医療機関のような「許可制」ではありません。
厚生労働省の検討会とりまとめ案では、
- 現行の届出制のもとでは、自治体による指導監督に限界がある
- 有料老人ホームの運営の透明性や、サービスの質の確保に関する課題がある
と明確に指摘されています。
また同資料では、
- 住宅型有料老人ホームの入居者に対する虐待判断件数の構成比が増加していること
- 高齢者住まい紹介事業者との関係など、契約構造が複雑で、入居者や家族には分かりにくいこと
も課題として挙げられています。
「ホスピスホーム」の実態把握へ
厚生労働省の補助事業では、全国の自治体を対象に
- 「主としてがん末期や指定難病等の高齢者を受け入れ、看護・介護サービスを提供する住宅型有料老人ホーム(ホスピスホーム)」がどの程度存在するか
- 指導監督上、どんな問題が生じているか
を確認する予備調査を実施しています。
これは、これまで「ホスピス型」「疾患特化型」といった名称で広がってきた施設について、
国としても実態を把握し、必要なルール整備を検討する段階に入ったことを意味します。
家族がホスピス型有料老人ホームを検討するときのチェックポイント
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問題点ばかりを見ていると不安になりますが、重要なのは
「ホスピス型だから危ない」
という単純な話ではなく、
それぞれの施設の中身を具体的に見ること
です。
ここからは、施設を見学・検討するときに確認したいポイントをまとめます。
医療・看取り体制はどうなっているか
- 主治医(在宅医)や連携病院はどこか
- 夜間・緊急時の連絡体制(看護師が常駐か、オンコールか)
- 苦痛の緩和(疼痛管理や呼吸苦への対応)について、どこまで対応可能か
- 看取りの実績(年間の看取り件数や、看取りの方針)
厚生労働省は、人生の最終段階において、本人・家族と医療・介護側がよく話し合い、希望に沿った場所での看取りを行う体制づくりを求めています。
「ホスピス」を名乗っていても、医療体制が病院の緩和ケア病棟と同等とは限りません。「どこまで、何ができるのか」を遠慮せず具体的に確認しましょう。
訪問看護・訪問介護の契約とサービス内容
ホスピス型有料老人ホームの多くは、住まい(有料老人ホーム・サ高住)と、外付けの訪問看護・訪問介護を組み合わせたモデルです。

確認したいポイントは次の通りです。
- 訪問看護・訪問介護事業所は施設の運営法人と同じグループか、別法人か
- ケアマネジャー(介護支援専門員)は施設側が指定しているのか、利用者が自由に選べるのか
- 訪問看護の頻度・時間・内容は、医師の指示書やケアプランに基づいて個別に決められているか(「全員1日3回」など一律になっていないか)
- 利用者や家族にも、訪問回数や料金の根拠が丁寧に説明されているか
「うちは1日3回、365日訪問看護がつきます」「必ず複数名で訪問するので安心です」など、回数や回数の多さだけを強調する説明には注意が必要です。
必要以上のサービスは、本人の負担にも、保険財政にもマイナスです。
料金・契約内容の透明性
- 入居金・月額費用(家賃・管理費・食費など)の内訳
- 介護保険・医療保険で支払う部分と、自費負担部分の違い
- 途中退去時の精算方法や、前払金の返還ルール
- 加算(オプションサービス)の内容と料金
は、必ず書面(重要事項説明書・契約書)で確認しましょう。
厚生労働省の検討会でも、入居契約の透明性や情報公表の充実が課題として挙げられています。
説明の場で少しでも「よく分からない」「質問しづらい」と感じたら、その感覚は大事にしていいと思います。
職員の顔ぶれ・雰囲気
公式資料にはなりにくいですが、実際に見学したときの印象もとても重要です。
- 看護師・介護職の人数と経験年数
- スタッフが入居者に対して、名前で呼びかけているか
- 質問したとき、丁寧に答えてくれるか
- 職員が疲れ切っていないか、現場に余裕があるか
など、現場の空気から見えることも多くあります。
まとめ:問題の本質は「ニーズと制度のギャップ」
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ホスピス型有料老人ホーム問題は、一言でいうと
高齢多死社会の中で「医療の必要な人の住まい」が急速に求められるようになったのに、
制度やルールの整備が追いつかず、
その隙間で一部の事業者による不適切なビジネスが広がってしまった
という構図だと考えられます。

国は今まさに、
- 有料老人ホーム全体の指導監督の強化
- 囲い込みや高額紹介料への対応
- 「ホスピスホーム」を含む新しい形態の実態把握
に動き始めています。
一方で、
- 在宅だけでは不安
- 病院から早く退院しなければならない
- 医療的ケアが必要だけれど、家族だけでは支えきれない
というご本人や家族の切実なニーズに応えてきた側面も確かにあります。

だからこそ、
- 「ホスピス型」という言葉に安心し過ぎない
- 具体的な医療・介護体制と契約内容をよく確認する
- 必要であれば、地域包括支援センターやケアマネジャー、主治医など第三者にも相談する
という、情報に基づいた選択が大切になります。
参考文献・出典(抜粋)
本文で紹介した主な公的資料・信頼できる情報源です。



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