支援現場で「メンタルヘルスのアプリを勧めて良いのか」悩んでいませんか?

利用者さんがメンタルヘルスのアプリを使っているけれど、支援者としてどう関わればいいか分からない



CBT(認知行動療法)のアプリがよいと聞くが、医療行為にならないか心配。安易に勧めてもよいのだろうか。
このような戸惑いを感じている支援者の方は多いのではないでしょうか。
近年、気分記録・睡眠管理・ストレス対処などをうたうメンタルヘルス系アプリが増えています。うまく活用できれば、利用者さんのセルフケアを後押しする心強い「補助ツール」になり得ます。
一方で、
といったリスクもあります。
この記事では、
- CBTアプリやメンタルヘルス管理アプリの種類や特徴
- 支援現場でアプリを使うことのメリットとリスク
- 支援者がアプリを導入する際の注意点
など、福祉・相談支援などの現場でCBTアプリやメンタルヘルス管理アプリを「セルフケアの補助ツール」として活用する際に役立つ情報を整理してお伝えします。


認知行動療法(CBT)アプリ・メンタルヘルス管理アプリとは?
CBT(認知行動療法)の基本的な考え方
認知行動療法(CBT)は、「考え方(認知)」と「行動」に注目しながら、気分やストレスとの付き合い方を整えていく心理療法です。
- 出来事そのものより「捉え方」が気分に影響する
- 小さな行動の変化が、気持ちや生活の変化につながる
といった視点を大切にします。
CBT(認知行動療法)は、うつ病や不安症などに対して、国内外の研究で一定の有効性が報告されています。日本うつ病学会のうつ病診療ガイドラインでも、「心理社会的治療の選択肢の一つ」として位置づけられています。
CBTアプリでよくある機能
CBTの考え方を取り入れたアプリには、次のような機能がよく見られます。
- 気分・感情の記録
- 出来事と「その時浮かんだ考え」のメモ
- 「別の見方」を一緒に考えるワーク
- 行動計画(小さな目標設定)のサポート
- ストレス対処法の解説やチェックリスト
対面のCBTで行う「ホームワーク(宿題)」の一部を、アプリが手元で支えてくれるイメージです。
メンタルヘルス管理アプリの主な種類
CBT色が強くない一般的なメンタルヘルス管理アプリも、支援現場でセルフケアの補助として活用できます。
代表的なタイプは次の通りです。
- 気分・感情の記録アプリ
簡単なアイコンやスコアで、その日の気分を残すもの。 - 睡眠・生活リズムの管理アプリ
就寝・起床時間や活動量を分かりやすく可視化するもの。 - マインドフルネス・呼吸法アプリ
音声ガイド付きで、呼吸法や瞑想を練習できるもの。 - ストレスチェック・セルフモニタリングアプリ
ストレス度の簡易チェックや、セルフケア情報の提供を行うもの。
国立精神・神経医療研究センターも、こころの健康づくりの中でストレス対処やセルフケアの重要性を示し、相談先情報などとあわせて発信しています。
支援現場でアプリを「補助ツール」として使うメリット
日々のセルフモニタリングを支える
福祉・相談支援の現場では、利用者さんと会える回数や時間には限りがあります。
アプリを使うことで、面接の合間の生活場面でも
- その日の気分
- 睡眠や活動量
- ストレスを感じた出来事
といった情報を、本人のペースで簡単に記録できます。 これはCBTでいう「セルフモニタリング」にあたります。
自分の状態を振り返る習慣は、それだけでセルフケアの第一歩になりやすいです。
面接の振り返り・宿題の補助になる
アプリの記録を、面接の場で一緒に眺めることで
「先週より朝起きられた日が増えていますね」
「このあたりから気分が落ち込み始めていますね」
といった具体的な振り返りがしやすくなります。
また、CBT的な面接で「一週間、気分を1日1回メモしてみましょう」といった宿題を出す際にも、紙のシートよりアプリの方が続けやすい人もいます。
支援者の負担軽減と情報共有の質向上
アプリの記録があることで、支援者側にもメリットがあります。
ただし、後述する通り、「支援者がどこまで見るか」という線引きはとても重要です。


支援者が知っておくべきアプリのリスク・限界
危機介入や診断の代わりにはならない
アプリはあくまで「セルフケアの補助ツール」です。
- 希死念慮が強いとき
- 現実検討に大きな困難があるとき
- 激しい混乱や興奮が続くとき
などの危機状況では、アプリの利用だけに頼ることは極めて危険だと考えられます。
また、アプリのチェックリストやスコアは、医師の診断の代わりにはなりません。
支援者は、アプリの結果をもとに診断名を推定したり、治療方針を決めたりしないという線引きが必要です。
個人情報・プライバシーのリスク
メンタルヘルス系アプリでは、心の状態や悩みを記録するため、以下のようなプライバシー性の高い情報が含まれることがあります。
- 気分の波
- 睡眠や生活リズム
- 職場や家庭でのストレス
- 病名や服薬の有無
そのため、情報漏えい・不正アクセスが起きた場合、名前が出なくても、内容から本人が特定されてしまうリスクがあります。
また、利用規約やプライバシーポリシーが不明確な場合、収集したデータが広告配信やマーケティング、提携企業への提供など、利用者本人が想定していない形で使われる可能性があります。
支援者が導入を勧める際には、少なくとも
- どこの国の企業が運営しているか
- 情報がどこに保存されるか(端末内かクラウドか)
- 第三者提供や広告利用があるか
といった点を、利用規約やプライバシーポリシーを見ながら、「分かる範囲で一緒に確認する」姿勢が大切です。
またスマホ自体のロックが甘いと、家族や同僚など身近な人にアプリの記録を見られてしまうリスクもあります。そのため、必要以上の情報は入力しない・端末やアカウントを強固なパスワードで保護するといった対策も重要です。
デジタル格差・操作負担への配慮
アプリの利用には
・スマートフォンやタブレットの所有
・通信環境
・文字入力やタップ操作への慣れ
が必要です。
すべての利用者さんにとって、アプリ利用が「楽」になるとは限りません。
- 入力が負担になり、かえってストレスになる
- 読み書きが苦手で、文字中心のアプリは使いづらい
- 通信量やバッテリー消費が家計の負担になる
といったケースもあります。
アプリを使わない選択も尊重し、紙の記録用紙や口頭での振り返りなど、複数の選択肢を提示することが重要です。
アプリ依存や「自己責任感」の高まり
アプリに頼りすぎると、
- 記録できなかった日を「失敗」と感じてしまう
- 数値やグラフに一気一憂してしまう
- 「うまくいかないのは自分の努力不足だ」と自分を責めてしまう
といったことが起きる場合があります。支援者は、
- 毎日続けられなくて当たり前
- アプリは道具。しんどいときは休んで良い
といったメッセージを、意識的に伝えていく必要があります。


支援者はどこまで関われる?アプリを支援に活用する際の留意点
医療行為との線引きと、専門職へのつなぎ
福祉・相談支援の立場からアプリを活用する際は、一般に「診断や投薬の判断などの医療的な判断は行わない」という大前提があります。
・診断名の判断
・投薬の必要性の判断
・治療方針の決定
などは、医師などの医療専門職の役割です。
アプリの記録から
・気分の落ち込み
・自殺念慮の記載が増えている
・生活機能の低下が著しい
といった兆候が見られた場合は、医療機関への受診や、すでに関わっている主治医への相談を早めにつなぐことが重要です。
利用者の同意と「見る範囲」の取り決め
支援者がアプリ利用に関わる際は、
・支援者はアプリの画面を見るのか
・どの程度、記録内容を共有するのか
・見せたくない記録は見なくてよいのか
といった点を、事前に話し合っておくことをおすすめします。 例えば、
- 「面接のときに、1週間の気分のグラフだけ一緒に見る」
- 「細かいメモ内容は、見せたいと思ったときだけ共有する」
といった約束にするなど、利用者さんに選択権がある形を心がけます。
アプリ導入時の5つのステップ。無理なく効果的に支援に活用しよう!
ステップ1:ニーズと目的を一緒に整理する
まずは、アプリを使う目的を利用者さんと一緒に言語化します。
- 気分の波を知りたいのか
- 生活リズムを整えたいのか
- ストレス対処法を増やしたいのか
目的によって、選ぶ機能やアプリは変わります。
「なんとなく良さそうだから」ではなく、「何のために使うのか」を共有することが大切です。
ステップ2:無理なく継続できる頻度・ルールを決める
アプリを始めるときは、
【頻度】1日1回だけ、寝る前に入力
【時間】1分以内で終わる内容に絞る
【期間】まずは1〜2週間だけ試してみる
といった「小さく始める」設定が望ましいです。 支援者が「毎日必ず入力しましょう」と強く勧めてしまうと、負担になりやすくなります。
「できた日はラッキー」「できない日があっても当たり前」というスタンスを、支援者側も共有しておくと良いでしょう。
また最初から多機能をフル活用しようとすると、続かない可能性が高いです。
- まずは「気分記録だけ」
- 余裕があれば「行動目標を一つだけ追加」
といった形で、使う機能を絞るのがおすすめです。
ステップ3:最初の1〜2週間は「一緒に振り返る」
導入初期の1〜2週間は、面接の場でアプリの画面を一緒に見ながら、「やってみてどう感じたか」を丁寧に聴く時間をとるとよいでしょう。
- 入力のしづらさ
- 頻度の多さ・少なさ
- 画面の見やすさ
など、実際に使ってみて初めて分かることが多くあります。
ステップ4:うまくいかない時の見直しポイント
「続かなかった」ときの見直しポイントは、次の3つです。
- 頻度が多すぎないか
→週3回や、気が向いたときだけでも良い - 入力項目が多すぎないか
→気分スコア1つだけに減らすなど、調整する - アプリ自体が合っていない可能性
→別のアプリ、または紙の記録に切り替えても良い
「続けられなかった=失敗」ではなく、「自分に合う方法を探す実験だった」と一緒に意味づけを変えていくことが大切です。
ステップ5:やめる選択肢も含めて柔軟に
最も重要なことは「アプリを使うこと自体が目的にならない」ことです。
- しばらく使ってみて合わなければ、やめてよい
- 体調が悪い時期は、意図的に休む
- 状態が安定してきたら、頻度を減らす
といった柔軟さを、支援者からも提案していきましょう。


アプリだけに頼らない!相談先と緊急時の対応方法の共有
公的な相談窓口を一緒に確認する
アプリの利用を勧めるときは必ず
- 地域の精神保健福祉センター
- 自治体の相談窓口
- 夜間・休日も対応する電話相談
- かかりつけの医療機関
など、人に直接相談できる窓口の情報も、セットで確認しておきましょう。
多くの自治体では、こころの健康に関する相談窓口情報が案内されています。
支援者としてどこまで対応できるかを伝える
支援者自身の専門性や勤務体制によって、対応できる範囲には限界があります。
- 面接の曜日・時間帯
- 夜間や休日は対応が難しいこと
- 危機時には、医療や公的機関と連携する必要があること
などを、あらかじめ利用者さんと共有しておくと、「アプリと支援者だけに頼り切ってしまう」リスクを下げることができます。
人の支援とデジタルの力で、セルフケアを後押ししよう!
最後に、この記事のポイントを整理します。
- アプリはあくまで「セルフケアの補助ツール」であり、診断や治療、危機対応の代わりにはなりません。
- 気分・睡眠・行動などのセルフモニタリングに使うことで、面接の振り返りやCBT的な支援を後押しできます。
- 導入時は、プライバシー・医療行為との線引き・デジタル負担などのリスクを、利用者さんと一緒に確認します。
- 支援者は「目的の共有→小さく始める→一緒に振り返る→必要ならやめる」という柔軟なスタンスを持つことが大切です。
次のアクションとしては
- 自分の支援現場で、アプリが役立ちそうな場面を具体的に一つ挙げる。
- 実際に自分でも1~2週間、簡単な気分記録アプリを試してみる。
- 同僚やチームで、アプリ活用時のルールや留意点を話し合う。
というステップから始めてみてください。
アプリにすべてを任せるのではなく、「人の支援」と「デジタルの道具」をうまく組み合わせることで、利用者さんのセルフケアを、現実的な形で支えていけるはずです。









