障害者雇用における声 ― 「チャレンジドユニオン」とは
社会のなかで障害のある人が働き続ける――。その実現には、雇用する側の理解や配慮だけでなく、働く本人の権利と立場を守るしくみが重要です。
そんな中で注目を集めているのが、障害者雇用で働く人々や支援者によって結成された労働組合、チャレンジドユニオンです。首都圏青年ユニオンの障害者雇用分会として位置づけられ、当事者と支援職が一緒になって声を上げているのが大きな特徴です。

チャレンジドユニオンの概要
チャレンジドユニオンは、障害者雇用で働く当事者と、当事者を支える支援職の双方で構成される労働組合です。
障害者雇用をとりまく厳しい環境をよくするために、当事者の立場から、支援者の立場から、そして政治や制度の枠組みから、社会に働きかけることを目的としています。

具体的には、次のような役割を担っています。
- 障害者雇用の実態改善
- 賃金・雇用条件など待遇の改善
- 障害を理由とする差別や不利益の是正
- 制度や政策への提言・働きかけ
とりわけ、公式サイトでは「組合員の多くは精神障害のある人」とされており、東京民報の報道でも、精神や発達に障害のある労働者が主な対象とされています。こうした「目に見えにくい障害」のある人が安心して働ける環境づくりは、ユニオンの重要なテーマのひとつです。
チャレンジドユニオンは、首都圏青年ユニオンの中の「障害者雇用分会」という位置づけで、2025年3月に正式に発足しました。2025年5月に行われた第2回の分会では、「チャレンジドユニオン」という名称を定め、今後の活動方針が話し合われています。
なぜ必要とされているか — 背景と課題
不当な評価や低賃金の問題
障害者雇用においては、「周囲と同じようにできない」と見なされることを理由に低い勤務評価をされる、あるいは「配慮されない」「配慮が見えづらい」ことで不利益が生じるケースがあります。
公式サイトでも、
- 「ちゃんとできない」
- 「こちらの意図を察しない」
といった抽象的で主観的な評価のもとで、低い勤務評価や処分を受けてしまうことがあると指摘されています。
しかし、本来こうした場面で必要なのは「能力不足だ」と決めつけることではなく、どのような合理的配慮があれば、その人が力を発揮できるのかを一緒に考えることです。
チャレンジドユニオンは、これらの状況を「障害があるから仕方ない」とあきらめるのではなく、合理的配慮がなされていない結果としての不利益と捉え、企業に改善を求めています。組合員から丁寧に聞き取りを行い、「どのような工夫があれば働きやすくなるのか」を整理した上で、会社との話し合いの場をつくる取り組みも行っています。
法制度上の「合理的配慮」との関係
「合理的配慮」とは、障害のある人が日常生活や社会生活で直面する社会的な障壁を取り除くために、個々の状況に応じて行われる配慮のことです。内閣府は、合理的配慮を「社会の中にあるバリアを取り除くために、行政機関等や事業者が負担が重すぎない範囲で行う必要かつ合理的な対応」と説明しています。
また、雇用分野では障害者雇用促進法にもとづき、事業主に対して合理的配慮の提供が義務づけられています。これは、「障害のある方が働くうえで生じる困難を、可能な限り一緒に解決していきましょう」という法的な枠組みでもあります。
しかし、法制度が整えられても、現場で十分に理解されていなかったり、個別の場面で適切な話し合いがなされなかったりすることがあります。チャレンジドユニオンは、こうした法制度と実際の現場とのギャップを埋める役割も担っていると言えるでしょう。
杉並区での最低賃金をめぐる事例
実際、最低賃金を大きく下回る賃金で障害のある労働者を働かせていた事業所に対して、チャレンジドユニオンが問題提起を行った例も報告されています。
例えば、東京都杉並区から区の障害者交流館の清掃作業を受託していた「区障害者団体連合会」が、知的障害のある清掃員を東京都の最低賃金1,163円の約半分(582円)で雇っていたという告発がありました。
この告発については、チャレンジドユニオン声明によれば新宿労働基準監督署が最低賃金法違反として告発を受理したことが報じられています。チャレンジドユニオンは、この件に関して声明文を公表し、「最低賃金の半分という極端に低い賃金水準は、障害のある人の労働を軽んじる行為であり、決して許されない」と強く問題提起しています。
このような事例は、「障害があるから賃金が低くても構わない」という誤った感覚が、いまだに社会の一部に残っていることを示していると考えられます。チャレンジドユニオンは、個別の事件に対応するだけでなく、その背景にある構造的な問題にも目を向けています。
社会的に目立ちにくい困難

特に精神障害や発達障害など、一見すると「わかりにくい障害」を持つ人たちは、支援や配慮がなされにくい傾向があります。
仕事の手順の工夫や、指示の出し方、休憩の取り方など、少しの調整で働きやすさが大きく変わる場面でも、その必要性が周囲から理解されない場合があります。
東京民報の報道でも、障害者雇用の現場では以下のような課題が指摘されています。
- 有期雇用が多く、雇用が不安定である
- 賃金が低く、昇給もなく、自立した生活が難しい
- 合理的配慮の不足が横行している
チャレンジドユニオンは、こうした「見えづらい困難」を可視化し、正当な評価と配慮を求めるための窓口として機能しています。
主な活動内容
労使相談・交渉支援
職場での労働条件、待遇、評価に関する問題を、当事者の声として企業側と協議し、必要に応じて団体交渉を行います。
- 指示の出し方や評価方法が障害特性に合っていない
- 有期雇用の更新や雇止めが不透明で不安が大きい
- 職場のルールやマナーが一方的に押しつけられている
といった悩みを、「個人の問題」ではなく「職場全体の課題」として捉え直し、改善を求めるのが特徴です。
個別事例:特例子会社での雇止め団交
ユニオンのブログでは、実際の争議事例も紹介されています。
たとえば、特例子会社で契約社員として働いていた組合員が、勤続1年のタイミングで雇止めを言い渡されたケースがあります。
このケースでは、
- 元々、髪型やひげなどの身だしなみ規定の改善
- 注意指導の仕方を、障害特性に配慮した形に改めてほしい
といった要求を会社に伝えた後、ほどなくして雇止めが通知されました。ユニオンは、不当労働行為の可能性も視野に入れて団体交渉を行い、最終的に雇止めの撤回には至らなかったものの、再就職に向けた支援金として2か月分の給与額を勝ち取る和解に至ったと報告しています。
この事例は、
- 有期雇用がどれだけ不安定か
- 合理的配慮が不十分なまま「規律」が優先されてしまう現状
を示す一方で、チャレンジドユニオンに相談することで、個人では難しい交渉や支援を受けられる可能性があることも示しています。
事例の公開と啓発
チャレンジドユニオンでは、実際にあった不当な扱いや差別的な事例をブログや声明文として公開し、社会や他の事業者にも問題を提起しています。
杉並区の最低賃金をめぐる事件に関する声明もその一つで、具体的な数字や経緯を示しながら、「障害のある人の労働を安く見積もることは、社会として決して認めてはならない」というメッセージを発信しています。
こうした情報発信は、
- 同じような状況で悩んでいる人が「自分だけではない」と知る
- 社会全体が課題を共有し、改善策を考えるきっかけになる
という重要な役割を果たしています。
制度・政策提言
障害者雇用の制度や運用に関わる改善・見直しの提言を行い、働きやすい社会を実現するためのアドボカシー活動を展開しています。
公式サイトでは、政府に対して提案した具体的な政策アイデアの紹介も行われており、個々の職場だけでなく、制度そのものを変えていくことも視野に入れた活動をしています。
支援職者も含めた包摂的な組合活動
障害のある当事者だけでなく、就労移行支援・就労継続支援などの支援職の人たちも組合員とすることで、雇用環境全体を支える体制を作ることをめざしています。
支援現場で働く人たちは、
- 「この支援のやり方で本当にいいのか」
- 「制度の制約のせいで、本人の希望に十分応えられていないのではないか」
といった葛藤を抱えることがあります。支援職もユニオンに参加することで、支援現場の悩みや制度の限界を共有し、より良い支援のあり方を一緒に考えていく場が生まれます。
チャレンジドユニオンへの加入と相談の流れ
チャレンジドユニオンの公式サイトには、
- 働いている中での困りごとを相談できる労使相談フォーム
- 組合員として活動に参加するための加入フォーム
が用意されています。
障害者雇用で働く当事者・支援職を問わず、「つらいこと」「困ったこと」「このままではいけないと思うこと」があれば、まずは相談フォームから状況を伝えることができます。
そのうえで、
- 組合としてできる支援内容の説明
- 必要に応じた会社との交渉や同席
- 今後の見通しやリスクの整理
などを一緒に考えていく流れになります。
なぜ「当事者 + 支援者」の組合なのか
多くの労働組合は、通常「企業で働く労働者」が中心ですが、チャレンジドユニオンではそれに加え「支援職」も組合員とすることで、職場や支援のあり方を全体で考える仕組みを作ろうとしています。
これにより、たとえば支援現場で働く人たちが抱える違和感やジレンマ、あるいは制度の限界を可視化し、「支援のあり方」や「職場の理解」を構造的に改善していく可能性があります。
障害のある人の働きやすさは、支援職の理解や環境づくりにも大きく依存します。当事者と支援者が一緒に声をあげることで、より現場に根ざした改善が進みやすくなる点は、このユニオンの大きな強みと言えるでしょう。
なぜ今、チャレンジドユニオンに注目が集まっているのか
障害者雇用の拡大とともに、雇用の形・働き方も多様化してきました。精神・発達障害など、目に見えにくい障害を持つ人も増えており、従来の「就労支援」「障害枠」という枠組みだけでは対応しきれない問題が浮き彫りになっています。
一方で、企業側にとって「合理的配慮」や「適正評価」は必ずしも制度化・標準化されておらず、「当たり前」が職場ごとにバラバラです。こうした背景があるからこそ、当事者自らが声をあげ、権利を守る必要性が高まっています。
社会全体の意識も、ただ「雇う」だけでなく、
- 働き続けられること
- 納得をもって評価されること
- 安心して暮らせる収入を得られること
という「質」の保障へと移りつつあります。
チャレンジドユニオンのような組合の存在は、その新しい流れの一端を担う取り組みとして注目されています。
チャレンジドユニオンへの加入を考えるには
もしあなたが障害者雇用で働いていて、
- 「評価がおかしい気がする」
- 「配慮がない、または足りていないと感じる」
- 「待遇が不公平ではないかと思う」
といったモヤモヤを抱えているなら、チャレンジドユニオンは相談先のひとつになり得ます。
加入を通じて、職場改善のための交渉や支援を受けたり、同じような立場の仲間と情報交換をしたりすることができます。
また、障害のある方の雇用支援に携わる支援者であっても、支援現場での問題意識や改善したい制度の課題があるなら、ユニオンに参加することで声をあげることができます。
ただし、「加入すれば必ず問題が解決する」という保証があるわけではありません。あくまで、集団として「声をあげ、交渉する」ための手段であることを理解しておくことが大切です。
結びに — 「働きやすさ」は一人ひとりの実感から
障害があるかないかにかかわらず、「働きやすさ」「公正な評価」「安心できる収入」は、誰にとっても大切なものです。
しかし、障害のある人にとっては、それを当たり前にするために、周りの理解だけでなく、制度や社会の仕組みを変えなければならないこともあります。
チャレンジドユニオンは、そうした「見えにくい声」を集め、「声にしづらい困難」を可視化し、変えていくための一つの場です。
もし今、職場で困っていることがあるなら――。
一人で悩まず、仲間とともに声をあげる選択肢のひとつとして、チャレンジドユニオンへの加入や相談を検討してみてはいかがでしょうか。

