
就労継続支援B型は、工賃も低いし、本当に意味があるのだろうか…



通ってはいるけれど、利用者さんが“自分なんていない方がいい”と言うことがあり、どう支えればいいか分からない…
そんなモヤモヤを感じている支援者・家族の方も多いのではないでしょうか。この記事では、自殺研究で知られるジョイナーの「対人関係理論」という心理学の理論を手がかりに、就労継続支援B型(以下、B型)の存在価値をあらためて考えていきます。
【この記事で分かること】
- ジョイナーの対人関係理論の基本(専門用語をかみくだいて解説)
- B型が「所属感」と「迷惑をかけている感覚」にどう働きかけられるか
- 支援者が日々のかかわりで意識したいポイント
- 当事者・家族がB型を選ぶときに見るとよい視点
生産性や工賃だけでは測れない、B型の「生きるためのインフラ」としての価値を、一緒に言葉にしていきましょう。
ジョイナーの対人関係理論とは?
自殺リスクを高める3つの要因
ジョイナーの対人関係理論は、「人がなぜ自ら命を絶つところまで追い込まれるのか」を説明しようとした理論です。専門的にはいろいろな議論がありますが、ここでは福祉現場で使いやすいように、次の3つに整理して紹介します。
所属感の欠如(孤立感)= thwarted belongingness
- 「自分はどこにも居場所がない」
- だれともつながっていない」と感じる状態
周囲に迷惑をかけているという感覚(負担感)= perceived burdensomeness
- 「自分は家族や社会の足を引っぱっている」
- 「自分がいない方が、みんなのためになる」と感じる状態
自分を傷つけることへの恐怖が弱まっていること(自死の“実行能力”)= acquired capability for suicide
- 何度も自傷行為などを繰り返す中で、痛みや恐怖に慣れてしまうこと など
この理論では、①所属感の欠如と②迷惑をかけているという感覚が強くなり、さらに③が重なると、自死のリスクが高まると考えられています。
福祉・支援領域でのポイントは2つ
福祉や就労支援の現場で、すべての自殺要因をコントロールすることはできません。
その中で、比較的アプローチしやすいのが「所属感」と「迷惑感(負担感)」の2つです。
この2つの感覚を、日々の支援の中で少しずつ育てていくことが、結果として自殺リスクを下げ、「生きていてもいいのかもしれない」と感じられる土台づくりにつながるとされています。
就労継続支援B型の基本と、よくある誤解
就労継続支援B型の制度の概要(かんたん解説)
B型は、障害福祉サービスの一つです。
厚生労働省の説明を要約すると、次のようなサービスだとされています。
一般企業などで働くことが難しい障害のある方に対して雇用契約を結ばずに
作業や生産活動などの「就労の機会」を提供しその経験を通して、生活リズムの維持・向上など、日常生活の安定も実際の運営では重視されています。
つまり、「会社で働く人と同じように雇用されること」よりも、安心して通える場と、社会とつながる機会を提供することに重点が置かれているサービスです。
「工賃が低いから意味がない?」という声
B型に対して、こんな声が聞かれることがあります。



最低賃金にも満たないから、働いている実感がない



家族としては、もっとお金を稼げる場に行ってほしい



“作業所”という言葉のイメージが強く、ステップアップにならない気がする
たしかに、B型の工賃は多くの場合、一般就労に比べてかなり低い水準です。
そのため、「お金を稼ぐ」という尺度だけで見ると、存在価値が見えにくくなりがちです。 しかしジョイナーの理論を手がかりにすると、B型の価値は「収入」以外のところに大きく広がっていることが見えてきます。
「所属感」を育む場としてのB型
毎日通える「居場所」であることの意味
ジョイナーの理論では、「自分はだれにも必要とされていない」「居場所がない」という感覚が、自殺リスクを高める要因の一つとされています。 B型は、次のような形で日常的な「居場所」を提供しやすいサービスです。
週に複数回、決まった時間に通うことができる
顔なじみの職員や利用者さんと、日々あいさつを交わせる
作業や休憩を通じて、さりげない会話が生まれやすい
こうした日常の積み重ねは、「自分はここにいていい」「自分の椅子がここにある」という感覚を育てます。これは、単に作業スキルを身につけることとは別の、非常に大きな意味を持ちます。


仲間・スタッフとの関係が孤立を防ぐ
所属感は、「そこに人とのつながりがあるかどうか」と深く関係しています。
同じ作業をする仲間がいる
困ったときに声をかけられる職員がいる
お互いの「できたこと」「苦手なこと」を知り合える
こうした経験は、「自分だけがダメなんじゃない」「同じようにがんばっている人がいる」という実感につながります。その結果、極端な孤立感や“自分だけが取り残されている”という感覚が、少し和らぎやすくなると考えられます。
「迷惑をかけている」という感覚をやわらげる
作業や役割を通じた「貢献感」
ジョイナーの理論でいう「周囲に迷惑をかけているという感覚」は、自尊心を大きく傷つけます。 B型では、たとえ生産性が高くなくても、次のような形で「自分にもできることがある」という貢献感を支えやすい環境です。
ポイントは、「結果としての工賃」よりも、「プロセスの中で果たしている役割」に注目することです。
評価・フィードバックの伝え方を工夫する
同じ作業をしていても、声のかけ方一つで「迷惑感」が強まることも、弱まることもあります。
良いフィードバックの例
- 「この作業を丁寧にしてくれるから、次の工程がとてもやりやすくなっています」
- 「前よりも集中して取り組める時間が増えましたね」
- 「今日は体調が悪い中でも来てくれてありがとう。休み休みで大丈夫ですよ」
避けたいフィードバックの例
- もっと早くできる人もいるから、がんばらないと」
- 「それくらいは、普通はできるよ」
- 「今日は役に立っていないから、もう帰っていいよ」
同じ事実を伝えるにしても、「あなたがいてくれることで助かっている」というメッセージを乗せることで、「自分は迷惑な存在だ」という感覚を和らげる助けになります。


支援者が意識したいポイント(ジョイナー理論の視点から)
面談や日常会話でチェックしたいサイン
ジョイナーの理論を踏まえると、次のような言葉が増えていないか、日々のかかわりの中で気に留めておくことが大切です。
「どうせ自分なんて、いない方がいい」
「家族に迷惑しかかけていない」
「ここに来ても意味がない気がする」
「友だちなんていないし、作るつもりもない」
こうした発言は、所属感の欠如や迷惑感が強まっているサインかもしれません。
医療や専門機関との連携も視野に入れながら、チームで情報を共有していく必要があります。
所属感を高めるための支援アイデア
日課・ルーティンを一緒につくる
- 「朝はこの人と一緒にお茶を飲む」
- 「週に一度は、このグループ活動に参加する」
など、「自分の定位置」や「いつもの関わり」を意図的につくることは、所属感を育てるうえで有効です。
小さな役割を「名前付き」でお願いする
- 「今日のお茶当番をお願いしてもいいですか?」
- 「新しく来た方に、作業スペースを案内してもらえますか?」
役割に「〇〇さんだからお願いしたい」という意味づけをそえると、貢献感が高まりやすくなります。
「迷惑感」を減らす言葉がけ・環境づくり
「助けて」と言えることを肯定する
- 「分からないときに聞いてくれて助かりました」
- 「しんどいときに“休みたい”と言えるのは大事な力ですよ」
と伝えることで、「頼る=迷惑」という思い込みを少しずつゆるめていくことができます。
比べない・競わせない作業設計
- 個々のペースを尊重し、スピードではなく「続けられたこと」を評価する
- 作業量に差が出ても、「それぞれの役割」として意味づける
「できる人」に合わせた基準だけで評価すると、「自分は足を引っぱっている」という感覚が強まりやすいため、注意が必要です。
当事者・家族がB型を選ぶときに考えたいこと
「生きる土台」を整える期間と考える
B型は、一般就労に向かうためのステップという側面もありますが、それだけに限らない存在です。
まずは生活リズムを整える
人との関わりに少しずつ慣れていく
「ここにいてもいい」と感じられる場所を持つ
こうした「生きるための土台」を整える期間としてB型を位置づけると、「工賃が低いから意味がない」という見方だけではなくなってきます。
工賃以外の価値に目を向ける
B型を検討するとき、次のような質問を自分に投げかけてみるのも一つの方法です。
この事業所で、本人が安心して過ごせそうか
職員や利用者さんとの関係から、所属感が育ちそうか
本人が「自分にもできることがある」と思えるような役割を用意してくれそうか
ジョイナーの視点から見ると、これらは自殺リスクを下げ、「生きていこう」と思える力にに寄与しうると考えられます。
B型にできること・できないこと(限界と連携の必要性)
B型だけで全てを支えようとしない
ジョイナーの理論が教えてくれるのは、自殺リスクには多くの要因がからんでいるということでもあります。
B型の支援だけで、心の問題や医療的な課題をすべて解決することはできません。
このような場合は、医療機関や専門の相談機関との連携が不可欠です。
支援者自身のケアも大切に
自死リスクの高い話題を聞き続けることは、支援者自身の心にも負担になります。
支援者が消耗しきってしまうと、所属感や貢献感を育むような、ていねいなかかわりを続けることが難しくなります。
「支援者が支えられる仕組み」も、広い意味での自死予防の一部だと考えてよいでしょう。
まとめ:B型は「生きていていい」と感じるための
インフラ
最後に、ジョイナーの対人関係理論から見たB型の存在価値を整理します。
- B型は、日常的な通所を通じて「ここにいていい」という所属感を育みやすい場です。
- 作業や小さな役割を通して、「自分にも役に立てることがある」という貢献感を支えることができます。
- これらは、ジョイナーの理論でいう「所属感の欠如」や「迷惑感」を和らげ、自死リスクを下げる方向に働くと考えられます。
- 支援者は、面談や日常会話の中で孤立感・迷惑感のサインをとらえ、言葉がけや作業設計を工夫することが重要です。
- 当事者・家族は、工賃だけでなく、「安心できるか」「所属感や役割が育ちそうか」といった視点でB型を選ぶことが、長期的な回復や生活の安定につながります。
B型の価値は、「いくら稼げるか」だけでは測れません。
ジョイナーの理論をヒントに、「生きていていいと思える感覚」を支える場所としてのB型の意味を、現場や家族の中で言葉にしていけるとよいのではないでしょうか。
※もし、この記事を読んでいる今、「死んでしまいたい」と強く感じている場合は、一人で抱え込まず、お住まいの地域の相談窓口や医療機関などの専門機関に早めに相談してください。この記事の内容は、個別の診断や治療に代わるものではありません。



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もし「自分の居場所がない」「迷惑ばかりかけている」と感じてつらいときは、一人で抱えこまず、身近な人や専門職、自治体の相談窓口などを頼ってみてください。この記事が、その一歩を考える小さなきっかけになれば幸いです。



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