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20億円超を過大受給か?大阪の就労継続支援A型「絆HD」の就労移行支援体制加算を取得する仕組みを解説【36ヶ月プロジェクト】

2025年11月、読売新聞による報道が障害福祉業界に衝撃を与えました。

「障害者就労支援の加算金、再雇用を繰り返し20億円超を過大受給か…大阪市の事業所グループ内で」

大阪市内の福祉関連会社「絆ホールディングス(HD)」グループが、障害のある人の就労支援に対する加算金を20億円超過大に受給していた疑いを報じたのです。制度の「すき間」を突いた繰り返し雇用で、就労以降支援体制加算を水増しした疑いがあります。

この問題は、共同通信配信記事や朝日新聞、毎日新聞など複数の大手メディアも取り上げており、市の推計額は報道によって「20億円超」「約27億円」「数十億円規模」と幅がありますが、いずれも2024年度以降の給付金を対象にした大阪市の監査段階の試算とされています。

本記事では、公的資料と信頼できる報道に基づき、

  • 絆HDグループに向けられている「過大受給の疑い」とは何か?
  • 問題のカギとなる「就労継続支援A型」と「就労移行支援体制加算」の仕組み
  • どのようなスキームで加算が水増しされたと報じられているのか?
  • 今後の制度改正と国・自治体の対応

を整理します。

本件は大阪市の監査・調査が進行中の段階であり、現時点では「疑い」の段階です。以下の内容は公的資料と報道をもとにした整理であり、特定の企業や個人の違法行為を断定するものではありません。

目次

大阪・絆ホールディングスの「過大受給疑惑」とは

絆ホールディングスの役員が理事を務めるNPO法人リアンが運営する就労継続支援A型事業所「リアン内本町」と、絆ホールディングスの子会社が運営する就労継続支援A型事業所「レーヴ」、「リベラーラ」で障害のある方の就労支援の対価として支払われる訓練等給付を20億円以上課題受給していた可能性が指摘されています。

20億〜27億円規模の過大受給疑惑

共同通信配信の記事(沖縄タイムス+プラス掲載)によると、

大阪市の福祉関連会社「絆ホールディングス(HD)」が2024年度以降、傘下の事業所で障害のある人の就労支援にかかる給付金(報酬)を数十億円規模で過大に受給していた疑いがある

として、大阪市が障害者総合支援法に基づき監査に着手し、返還請求も検討していると報じられました。

朝日新聞は「障害者就労の加算金、20億円超を過大受給か 大阪市が返還請求検討」として同様の内容を伝えています。

山陰中央新報は、同じ事案について「2024年度以降、給付金を約27億円過大に受給していた疑い」と報じています。

TBS NEWS DIGなどの続報では、絆HDグループの就労継続支援A型事業所は少なくとも5事業所が対象となっていると報じられており、過大請求を受けた市町村は全国14都府県の104市町村に及ぶ可能性があるとも伝えられています(2025年11月18日時点の報道ベース)。

また、2025年11月18日に読売新聞は、「大阪市内の居住者は半数に満たず、全国14都府県、あわせて104の市町村に請求が行われていたことが新たにわかりました。」と報じています。

いずれも大阪市が行っている監査・調査にもとづく暫定的な情報であり、最終的な金額は今後の手続きによって変わる可能性があります。

報道に対する絆ホールディングスのコメント

共同通信の記事によれば、絆ホールディングスは取材に対して

「事実確認を行い、対応する。今後も法令を遵守の上、障害者の就労支援に真摯に取り組む」

とコメントしており、現時点で不正を認めているわけではありません。

公式ウェブサイト上でも「一部報道について」(2025年11月2日付)および「一部報道について(第二報)」(同年11月4日付)と題したお知らせを公表し、関係行政機関の助言・指導を受けながら、法令を遵守して適正な事業所運営と自立支援・就労支援に取り組んでいく姿勢を示しています。

そもそも「就労継続支援A型」とは?

絆HDグループが運営しているのは、「就労継続支援A型事業所」です。

就労継続支援A型は、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスであり、

  • 一般企業での雇用が難しい障害のある人と雇用契約を結び
  • 生産活動等の機会と、就労に必要な知識・能力を高めるための訓練を提供し
  • 最低賃金以上の賃金を支払う

ことが求められるサービスです。

また、就労継続支援A型の利用期間には上限がなく、利用者の希望や能力に応じて、できる限り一般就労への移行と定着を目指すことが制度の趣旨とされています。

「就労移行支援体制加算」は企業への就職を評価する加算

就労継続支援A型では、基本報酬に加えて、さまざまな「加算」が設定されています。その1つが、今回の問題の中心にある「就労移行支援体制加算」です。

  • 就労移行支援A型・B型事業所を利用した人が
  • 一般企業などに就職し6カ月を超えて継続して働いている場合
  • 1日あたり決まった単位数を事業所が全利用者分について加算できる

という加算になります。

つまり、「一般就労への移行」と「6カ月以上の就労継続」という結果を出している事業所ほど、1日あたりの報酬単価が大きくなる仕組みです。

就労系サービス共通の報酬・基準について

就労以降支援体制加算については、パパゲーノの事業計画を参考事例として以下のYouTubeの動画でも解説しています。

制度をハックした「過大受給」の仕組み

共同通信配信記事(沖縄タイムス掲載)は、関係者の話として次のようなスキームを報じています。

  • 絆HDは、A型事業所で働く利用者を、グループ内の会社でデータ入力などの業務に従事させ、形式上「一般就労」として雇用
  • 6カ月以上経過した段階で、利用者を再びA型事業所の利用者に戻す
  • その後、再びグループ内での一般就労という形に切り替えることを繰り返していた

この結果、同じ利用者について、「一般就労への移行+6カ月以上定着」という条件を何度も満たしているように見せかけ就労移行支援体制加算を繰り返し算定し、給付金を水増ししていた疑いが持たれています。

毎日新聞も、少なくとも3つの事業所が利用者を半年間一般就労として雇い、その後A型の利用者に戻し、加算を利用者1人につき複数回算定していたと報じています。

障害のある方の意向を無視した就職と退職の繰り返し

朝日新聞の報道によると、大阪市は以下のような見解です。

利用者からの情報提供も踏まえ絆HD側が障害のある人の意向を十分に確認しないまま、繰り返し一般就労させていたケースがあるとみており「就労を支援する制度の趣旨に反する」との認識を示している

就労移行支援体制加算の制度の趣旨は「一般就労へのステップアップと定着」を評価する加算ですが、実態としては「グループ内での形式的な雇用」と「短期間での退職と就職の繰り返し」だったとすれば、本来想定された「本人の希望や適性に沿ったキャリアの実現」とはほど遠い運用といえます。

同じ人で「就労移行支援体制加算」を何度も取って良いのか?

絆ホールディングスが実施していたとされる「就職」と「退職」をグループ会社内で繰り返して、就労移行支援体制加算を取得する行為は「違法」だったのでしょうか?

この加算の解釈をめぐっては、2024年度の報酬改定に合わせて厚生労働省がQ&Aを公表し、次の点を明確化しました。

  • 同じ利用者について、就労継続支援事業所と一般企業との離職・再就職が複数回あった場合でも、原則として過去3年間で複数回算定することは想定していない
  • これは「一般就労への移行」という事実だけでなく、「その後の定着を見据えた支援」を評価する加算であるため
  • 過去3年間に同一利用者についてすでに加算を算定している場合には、再度算定することを想定していないことを、報酬告示上も位置付けた

このように、同じ人を短い周期で行ったり来たりさせて加算を何度も取ることは、制度の想定外であることが、厚生労働省の見解として公式に示されています。

令和7年度障害福祉サービス等報酬改定等に関するQ&A VOL.7

自治体に対しても、事業所の情報だけでなく利用者・他事業所・就労先などから広く情報を集め、加算の妥当性を総合的に判断するよう求めています。

しかしながら、実際の運用は自治体の判断に委ねられており、大阪市がどう対応するかを注視する必要があります。

大阪市が今回の疑惑に対して監査に踏み切った背景には、報酬改定とQ&Aによる「3年ルール」の明文化と、制度の乱用を放置しないという姿勢の強化があると考えられます。(資料からの推測であり、市の公式見解ではありません)

令和4年度指定障害福祉サービス事業者等集団指導資料

(出所:令和6年度障害福祉サービス等報酬改定等に関するQ&A VOL.7:令和7年1月 24 日

絆ホールディングス問題で考えるべき4つの論点

1. 就労移行支援体制加算の制度趣旨に反するのではないか?

  • 制度:一般就労と定着を促すために、成果を出した事業所を評価する仕組み
  • 疑惑:グループ内で形式的な就職と退職を繰り返し、同じ人を何度も「成果」としてカウント

というギャップが報じられています。障害のある人のキャリア形成ではなく、事業所の収益最大化が優先されてしまえば、制度の信頼性は大きく損なわれます。制度の趣旨に反して「ハック」する姿勢は、業界全体にとっても非常に大きな悪影響が出ることが想定されます。

2. 障害のある方の「選択」や「意向」が尊重されていないのではないか?

厚生労働省は就労系サービス全体の見直しの中で、「本人の希望・能力・適性に応じた就労選択支援」の重要性を繰り返し強調しています。

しかし朝日新聞の報道によると大阪市は、障害のある人の意向を十分に確認しないまま一般就労とA型利用を繰り返させたケースがあったとみており、本人中心の支援が機能していなかった可能性が指摘されています。

就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)における留意事項について

3. 組織的に不正を隠蔽するよう「口止め料」が設計がされていたのではないか?

今回の疑惑は、利用者や元職員からの情報提供、そして自治体の監査が契機になっています。

  • 利用者・家族・支援者が「おかしい」と感じたときに相談できる窓口
  • 自治体による定期的な実地指導・監査
  • 報酬の算定方法や加算の実績に関する、一定の情報公開

こうした仕組みがきちんと機能していなければ、制度の乱用は長期間見過ごされてしまいます。

その背景として、就職と退職を繰り返す度に時給がアップする設計になっていたことで、利用者やご家族への口止め料のように機能していたのではないかと指摘されています。また、スタッフの給与も高額に設定されていたことで、同じく「口止め料」のように機能したことで、組織的に不正を隠蔽するようにされていたのではないかと想像されます。

4. 就労継続支援A型・B型の「実態のない支援」をどう監査するべきか?

大阪市では、絆ホールディングスの件もあってか、「就労移行支援体制加算」の制度がある大阪府の障害福祉サービスの事業所1649ヶ所を対象に実態調査を実施しています。

  • 就労継続支援A型:288事業所
  • 就労継続支援B型:925事業所
  • 生活介護:364事業所
  • 自立訓練:72事業所

事業所に対してアンケート調査をするような方法で、果たして「実態のない支援」を適切に監査できるでしょうか?

おそらくほとんど実効性のない調査になるだろうと考えられます。

今後求められてくるのは、より客観的で多角的な監査や指導です。具体的には売上を立てている契約書の内容や稟議プロセスの監査、取引先へのヒアリング、利用者へのヒアリングによる監査が必要なのではないかと思います。

これから注視すべき3つのポイント

「1つの会社がとんでもない不正をした」という話で本件を片付けず、いち国民として以下3つの点を今後も注視し続けてほしいです。

【1】大阪市の監査結果と返還額がどうなるのか?

今後の大阪市の監査結果で、20億円規模なのか、それよりも多いのか、最終的な金額と根拠がどのように整理されるのかに国民は注視する必要があります。また、この問題は大阪市だけの問題ではありません。

全国14都府県・100以上の市町村にて過大請求が行われていた可能性が高いため、各自治体の対応がどうなるかも続報を待つ必要があります。

【2】国の制度と自治体の運用の見直しがどうされるのか?

3年以内に再就職した場合は就労移行支援体制加算を取得できないというルールの明文化に加えて、就労実績の確認方法やグループ内雇用の扱いなど、より踏み込んだルール整備が行われるかを国民は注視する必要があります。

また、制度だけでなく監査体制の見直しも必須でしょう。20億円になるまで大阪市が監査をせず野放しにされてきた現状を踏まえると、国と自治体の「監査の運用」の課題が浮き彫りになった結果と思わずにはいられません。

【3】障害のある方の声が、どう制度設計に反映されるか?

最後に、障害当事者の声がどのように組み入れられるのかです。監査や制度の見直しを進めていく上で、障害当事者やそのご家族の意向を必ず聞くべきです。当事者不在の監査や、当事者不在の制度設計にはならないよう、見守っていく必要があります。

制度やオペレーションの迅速な見直しが必要

絆ホールディングスをめぐる報道は、就労継続支援A型と就労移行支援体制加算という専門的な制度の「すき間」を突いた、前例の少ない大規模な過大受給疑惑です。

就労移行支援体制加算の制度は「一般就労への移行と定着を後押しする」という明確な目的を持ち、本来は障害のある方の選択肢を広げるためのものです。再発防止策を迅速に議論し、制度やオペレーションの適切な見直しがされていくことを心より願っています。

参考文献・参照資料

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この記事を書いた人

株式会社パパゲーノ代表取締役CEO / 「生きててよかった」と誰もが実感できる社会を目指して、東京で「パパゲーノ Work & Recovery(就労継続支援B型)」の運営や、支援現場のDXアプリ「AI支援さん」を開発。精神障害のある方との事業開発がライフテーマ。

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