臨時の介護報酬改定が浮上 ― 2026年の可能性と背景
日本政府は2025年11月に閣議決定した「『強い経済』を実現する総合経済対策」の中で、2026年度に介護報酬の賃金部分を臨時に改定する方針を示したと報じられています。通常は3年ごとに実施される報酬改定ですが、今回は“前倒し”で行う異例の対応です。

背景には、介護・福祉職の人材不足が深刻化し、物価高や賃金上昇の影響が現場に強くのしかかっていることが挙げられます。特に介護職の賃金は他産業に比べて伸びが遅く、働き続けることが難しい状況が続いてきました。
そのため、政府としても「通常サイクルを待てない」という判断に至り、臨時改定を検討する流れが生まれています。

なぜ「今」改定か — 背景にある現状と政策判断
介護職の賃金の遅れと人材流出の深刻化
令和7年11月の厚生労働省による常勤介護職員を対象とした調査では、処遇改善加算を取得している事業所で働く介護職の平均給与は、2024年9月〜2025年7月にかけて 月あたり約6,840円(約2.0%)増加したとされています。賃金が上がっていることは事実ですが、他産業に比べると見劣りします。
たとえば、2025年春闘では、連合の集計による民間主要企業の平均賃上げ率が約5.25%と報告されています。介護分野はこの伸び率に届かず、依然として賃金格差が存在しています。
賃金の低さは、若手の離職や転職の一因となり、人材流出に拍車をかけています。都市部では利用者数が増える一方で働き手が不足し、サービス提供の継続が難しい地域も増えています。このままでは“介護崩壊”につながるという危機感が、臨時改定に向けた動きを後押ししました。
制度サイクルを破る“前倒し改定”の決断
介護報酬改定は本来3年ごとに行われ、前回は2024年度に実施されました。本来のサイクルであれば、次の本格的な改定は2027年度の予定ですが、これを待たずに2026年度中に「期中(臨時)の介護報酬改定」を行う方針が示されています。
しかし今回はわずか2年後に臨時改定が検討されています。
これは、介護現場がこれ以上の先送りに耐えられないとの認識と、賃上げを通じて人材確保につなげたいという政策判断が背景にあります。
「緊急措置」として制度サイクルを崩す判断は、過去の介護政策でも非常に珍しい対応です。

改定によって見込まれる内容と論点
賃上げ・処遇改善が中心テーマ
政府は今回の臨時改定で、以下の方向性を示しています。
- 介護職の賃金底上げ
- 処遇改善加算の見直し
- 加算対象の拡大(訪問介護・居宅支援・訪問看護など含む)
特に注目されているのは、介護従事者全般を対象に「月1万円の賃上げを6か月分支援する」措置が示された2025年度補正予算案です。これは臨時的な措置ですが、長期的な報酬改定につなげる“つなぎ策”として位置づけられています。
さらに、訪問介護や居宅支援(ケアマネジャー)、訪問看護など、これまで処遇改善加算の対象外だったサービスについても、「月1万円」の臨時賃上げ支援の対象に含める方針が示されています。今後の臨時改定においても、加算対象の見直しや拡大が議論される見込みです。
ただし「賃上げ」の実効性・課題も指摘
報酬が上がっても、「実際に職員の給与へ反映されるか」は別問題です。
制度の設計次第では、事業所の運営費に吸収されてしまい、職員の手取りに届きにくいという指摘があります。
主な課題は次の通りです。
- 賃金に充てたかどうかをどのように「見える化」するか
- 加算対象の拡大に伴う事業所の運営変更への負担
- 人員基準の見直しが現場に与える影響
- 一時的な賃上げに終わらせず、継続性をどう担保するか
特に訪問介護やケアマネ、訪問看護などは、従来の加算体系の影響で賃金が上がりにくかったため、今回の対象拡大は大きな期待があります。一方で、制度変更に伴う事務負担の増加も想定され、現場の体制整備が求められます。

賃上げの実現は「見える化」と「制度設計」がカギ
臨時改定が効果を発揮するには、以下の点が非常に重要です。
引き上げた報酬が職員へ届く「透明性」
報酬アップが賃金に反映されたかどうかを明確にする仕組みが必要です。
職員の納得感を高めるだけでなく、利用者や家族に対しても説明責任が求められます。
すべての職種を対象にした公平な設計
訪問介護やケアマネなど、これまで評価が低かった分野にも光が当たる制度設計が必要です。
特定の事業所だけが恩恵を受けるのではなく、現場全体に効果が波及するような仕組みが求められます。
職場環境・教育体制の強化
賃金改善と並行して、研修制度やキャリアパスの整備、働きやすい環境づくりも重要です。
特に若手が長く働ける構造をつくることが、業界の持続可能性につながります。
財源の安定確保
介護報酬は公費と保険料で賄われるため、財源の議論は不可避です。
国民負担をどう位置づけるかという社会的合意が欠かせません。
今後の展望:介護・福祉現場はどこへ向かうか
臨時改定が実現すれば、介護・福祉職の待遇改善に向けて大きな一歩となります。
- 人材流出の抑制
- 離職率の改善
- 求職者の増加
- 訪問系サービスなど不足が深刻な分野での改善
こうした効果が期待されています。
しかし、報酬アップが実感できなければ「名ばかり賃上げ」という批判も避けられません。
賃金だけでなく、働き方・キャリア・施設環境の改善によって総合的に支えていくことが求められます。
また、2026年の臨時改定は“つなぎ”であり、真価が問われるのは 2027年度の本格改定 です。ここでどこまで制度が見直されるかが、今後10年の介護業界のあり方を左右すると言えます。
結論:「賃上げ」は可能だが、安定と「持続する制度設計」が前提
2026年の臨時介護報酬改定は、介護・福祉職の待遇改善に向けた大きなチャンスです。しかし、それを実質的な賃金改善につなげるには、制度側と事業所側双方の工夫が不可欠です。
- 報酬の上昇が職員に届く仕組み
- ケアマネ・訪問介護など取り残された分野の底上げ
- 働き続けられる職場環境づくり
- 財源の安定性の確保
こうした要素がそろって初めて、“持続可能な処遇改善”が実現します。
今後、改定内容の詳細や加算の仕組みが明らかになるにつれ、現場での影響もより具体的に見えてくるでしょう。介護・福祉に関わるすべての方にとって、注視すべき重要な局面が続きます。

