
利用者さんに寄り添いたいと思うほど、距離が近くなりすぎていないか不安になる……
断れずにお願いを引き受けてしまい、気づくと自分の生活が苦しくなっている……
福祉・支援の仕事をしていると、このようなモヤモヤを抱えることは少なくありません。
寄り添いは大切ですが、行きすぎると「共依存」に近い関係になり、本人の自立や支援者自身の健康を損なうことがあります。
この記事では、
- 共依存とは何か、支援との違い
- 「寄り添い」が共依存に変わりつつあるサイン
- 共依存を防ぐための具体的な支援スキル
- 一人で抱え込まないための仕組みづくりとAIの活用
を、福祉分野の初学者の方にも分かりやすく解説します。
「やさしさ」を手放さずに、健全な支援関係を守るヒントとしてご活用ください。
※この記事では、福祉現場の『支えすぎ・抱え込みすぎ』の問題に焦点を当てて共依存を説明しています。
なぜ「寄り添い」が大切なのか
福祉現場で求められる「寄り添い」とは
福祉の仕事では、「寄り添う支援」がよく語られます。
ここでいう寄り添いとは、単に「優しくする」ことではありません。
- 本人の気持ちや価値観を尊重する
- 否定せずに、まず「そう感じていること」を受け止める
- 本人のペースや選択をできる限り大事にする
こうした姿勢のことを指す場合が多いです。
障害福祉や相談支援の制度でも、本人の意思決定や自己選択を尊重することが基本理念とされています。
寄り添いは、その理念を日々の関わりで実現するための大切な土台です。
当事者の安心感・信頼感をつくる力
人は、安心できる相手でないと本音を話せません。
一方的なアドバイスや指示が続くと、「どうせ分かってもらえない」と心を閉ざしてしまいます。
丁寧に話を聴き、評価や善悪を急いでつけない。
つらさや戸惑いに「そう感じるのは自然なことですよ」と言葉を添える。
こうした寄り添いがあることで、
- 「この人には弱音を出しても大丈夫だ」と感じられる
- 自分の気持ちを整理しやすくなる
- 新しい一歩に挑戦しようという意欲が出てくる
といった変化が生まれやすくなります。
「自己決定」と「支え」のバランス
一方で、「本人の意思を尊重する」と「本人に丸投げする」は違います。
また、「支える」と「代わりに全部決めてしまう」ことも別です。
支援では、次のようなバランスが大切になります。
- 本人が決められる部分は、できるだけ本人に決めてもらう
- ただし、情報が足りない場合は分かりやすく説明する
- 危険が大きい場合は、必要な安全配慮をしながら一緒に考える
寄り添いは、このバランスをとるための姿勢です。
しかし、この「支えすぎ」と「任せすぎ」のラインがあいまいになると、共依存に近い関係になっていきます。
共依存とは何か?支援とどう違うのか
共依存の基本的な考え方
共依存とは、お互いがお互いに過度に依存し合う関係を指す言葉です。
もともとはアルコール依存などの家族関係の文脈で使われてきましたが、支援者と利用者の関係でも起こるとされています。
典型的には、次のような特徴があります。
- 一方が相手の問題や感情を「自分の責任」と感じすぎる
- 相手が困っている状態が続くことで、自分の存在価値を感じてしまう
- 相手のためと言いながら、実は自分もその関係にしがみついている
表面上は「とても熱心な支援」に見えることもあり、外からは気づきにくい場合もあります。
※ここでいう「共依存」は、医学的な正式診断名ではなく、心理・福祉の分野で用いられる概念的な用語です。
定義にはいくつかの立場がありますが、「お互いの境界があいまいになり、過度に依存し合ってしまう関係」を指す言葉として用いています。
支援関係で起こりやすいパターン
福祉・相談の現場では、次のような形で共依存的な関係が生まれやすいとされています。
- いつも同じ職員だけが特定の利用者を担当している
- 支援者が「自分しかこの人を理解できない」と感じている
- 利用者がその支援者にだけ強く依存し、他の職員とは関わろうとしない
- 支援者が休みの日や勤務時間外にも、個人的に対応してしまう
本人や支援者の「いい人でいたい」「役に立ちたい」という気持ちが強いほど、共依存の落とし穴にはまりやすくなります。
「やさしさ」と「手出ししすぎ」の境界線
共依存と健全な支援の違いは、表面からは分かりにくいことがあります。
ポイントになるのは、「その関わりが、長い目で見て本人の力を育てているかどうか」です。
例えば、次のように比べてみるとイメージしやすくなります。
- 【支援】
本人ができる部分は時間をかけて見守り、必要なサポートだけを一緒に考える - 【共依存に近い関わり】
本人が不安そうにするとすぐに代わりにやってしまい、その状態が続いている
結果として、本人の「できること」が増えているか。
あるいは、むしろ「できない」「頼らないと不安」という気持ちが強くなっていないか。
ここが大きな違いになります。


その「寄り添い」、共依存に近づいていないかチェック
支援者側のサイン(感情・行動)
まずは支援者自身の状態に目を向けてみましょう。
次のようなサインがいくつも当てはまる場合、共依存的な関わりに近づいている可能性があります。
- その人のことを考えると、仕事以外の時間も頭から離れない
- 断ると嫌われるのではないかと不安で、お願いを断れない
- 「あの人の状態は自分の支援の良し悪しで決まる」と感じてしまう
- 同僚がその人と関わると、どこかイライラしたり不安になる
- 体調が悪くても「自分が行かないと」と無理をしてしまう
これらは、「責任感が強い」とも言えます。
一方で、自分の境界線があいまいになり、心身の負担が大きくなっているサインでもあります。
利用者側のサイン(変化が止まっていないか)
次に、利用者の変化に目を向けてみます。
- その支援者がいないと、何も決められない・動けないと言う
- 「◯◯さんじゃないと嫌だ」と他の職員を強く拒否する
- 支援が続いているのに、生活や行動の自立度がほとんど変わらない
- 困りごとが解決しても、新たな「問題」を次々に持ち込んでくる
こうした状態が長く続く場合、「支援が本人の力を育てる形になっていない」可能性があります。
支援が「安心できる関係」にとどまり、「変化を起こす関係」になっていないのかもしれません。
関係性全体のサイン(チームから見た違和感)
共依存は、当事者同士では気づきにくいこともあります。
チームや第三者から見たときに、次のような違和感があれば要注意です。
- 特定の利用者の支援が、ほぼ一人の職員に集中している
- 記録を見ても、その職員以外との関わりが極端に少ない
- ケース会議で、当事者以外が意見を言いづらい雰囲気になっている
- 支援内容が「その人とその職員にしか分からない」状態になっている
こうした兆候がある場合は、「本人のため・支援者の健康のため・組織のため」にも、関わり方を見直すタイミングと考えてよいでしょう。
共依存を防ぐための実践スキル
境界線(バウンダリー)を言葉にする
共依存を避けるキーワードが「境界線(バウンダリー)」です。
これは、支援者として「どこまでを自分の役割とするか」を明確にすることです。
- 勤務時間外の連絡にはどう対応するか
- 金銭の貸し借りや個人的なプレゼントをどうするか
- どこから先は専門職や他機関につなぐのか
これらを「なんとなく」ではなく、事業所としてルール化しておくことが大切です。
本人にも、できるだけ分かりやすく説明しておくと、トラブルや誤解を防ぎやすくなります。
「代わりにしてあげる」から「一緒にやってみる」へ
支援の場面では、「時間がないから」「失敗したらかわいそうだから」と、支援者が代わりにやってしまいがちなことがあります。
- 書類を代わりに書いてあげる
- 電話の内容をすべて支援者が話してしまう
- 手続きの選択を支援者が決めてしまう
必要な場面もありますが、いつも代わりにやっていると、本人の「できるようになる機会」を奪ってしまいます。
そこで意識したいのが、
- 最初は一緒にやってみる
- 苦手な部分だけ支援者が補う
- うまくいったところを一緒に振り返る
というステップです。
少し時間はかかりますが、長い目で見ると本人の力が増え、支援への依存は減っていきます。
支援計画と記録を「関係性の地図」にする
支援計画や記録は、単なる「書類仕事」ではありません。
どんな目的で、どのような関わりをしているのかを、チーム全体で共有するための「地図」のようなものです。
- 目標が「安心して話せる関係をつくる」だけで終わっていないか
- 「できるようになったこと」「自分で選べたこと」が記録されているか
- 特定の支援者とだけ深く関わっていないか
このような視点で見直すことで、関係性が共依存に傾きつつないかを、早めにキャッチできます。
AIを使って記録を要約し、「誰との関わりが多いか」「どんな支援が多いか」を俯瞰する、といった活用も考えられます。


一人で抱え込まないための仕組みづくり
スーパービジョン・ケース会議の活かし方
支援について悩んだとき、「自分の関わり方が悪いのでは」と抱え込んでしまう方も多いです。
しかし、支援は一人で完結させるものではありません。
- 上司や先輩とのスーパービジョン(支援の振り返りと助言を受ける時間)
- 定期的なケース会議・事例検討会
こうした場で、「どこまで関わるか」「どこからは任せるか」を一緒に考えてもらうことが大切です。
自分では「普通」と思っている関わりでも、他の人から見ると「少し抱え込みすぎかも」と気づけることがあります。
感情のケアとセルフコンパッション
支援者も一人の人間です。
利用者のつらさや家族の状況を見聞きする中で、無力感や怒り、罪悪感を感じることは自然なことです。
重要なのは、その感情を「なかったこと」にしないことです。
- 同僚と、守秘義務を守りつつ感情を共有する
- 自分のしんどさを否定せず、「それだけ真剣に向き合っている証拠だ」と受け止める
- 必要に応じて、専門職によるカウンセリングや相談を利用する
自分に対しても、利用者と同じように「寄り添う」視点(セルフコンパッション)が、共依存を遠ざける助けになります。
組織としてできる予防策
個人の意識だけで共依存を防ぐのは限界があります。
組織として、次のような取り組みが有効です。
- 特定の職員に支援が集中しないよう、複数担当制やチーム制にする
- 勤務時間外の連絡対応ルールを明確にし、現場に周知する
- 感情面も含めた相談がしやすい文化をつくる
- 教育・研修の中で、共依存や境界線について扱う
こうした仕組みがあることで、「自分が頑張りすぎていないか」を振り返りやすくなります。
AIやICTは「距離感の調整」に役立つのか
記録・振り返りツールとしてのAI活用
AIは、直接人を支援する主体ではありません。
しかし、支援者が自分の支援を振り返るツールとして活用することはできます。
例えば、
- 支援記録の要約や整理をAIに手伝ってもらう
- 記録の中から「誰との関わりが多いか」「どんな支援が続いているか」を整理する
- 自分の言葉遣いの傾向(命令形が多い、励ましが多いなど)を客観的に見る
といった使い方です。
これにより、「この利用者さんと私だけが深く関わりすぎていないか」などを客観的に確認しやすくなります。
ただし、AIの分析結果はあくまで一つの見方にすぎず、必ずしも完全ではありません。最終的な判断は、自分やチームで確認しながら行う必要があります。
※個人情報の取り扱いには十分な注意が必要です。
実際にAIを使う際は、事業所のルールや法令、プライバシー保護の観点を必ず確認してください。
感情に流されにくい「第三の視点」として
AIには感情がありません。
そのため、感情的に混乱しているときに、状況整理の相手として使うこともできます。
- 現在の状況や自分の気持ちを書き出し、AIに「整理」を依頼する
- 「この支援方針のメリット・デメリット」を一度文章化して検討する
こうすることで、自分の中にある「助けたい気持ち」と「不安や罪悪感」を少し距離を置いて眺めやすくなります。
ただし、最終的な判断は、必ず人が行う必要があります。
AI活用時の注意点(倫理・プライバシー)
福祉分野でAIを使うときには、次の点に注意が必要です。
- 利用者が特定できる個人情報は、安易に外部サービスに入力しない
- AIの回答を「正解」とせず、あくまで検討材料として扱う
- 法律・制度の解釈や個別の医療判断は、必ず専門家に確認する
AIはあくまで「支援者を支えるツール」です。
支援関係の主役は、これまで通り「本人」と「人による支援」であることを忘れないようにしましょう。


「寄り添い」を手放さずに、共依存を避けるために
支援者自身の価値観を見つめ直す
共依存的な関係になりやすい背景には、「支援者自身の価値観」が影響していることもあります。
- 役に立てない自分には価値がないと感じてしまう
- 断ること=冷たいこと、だと思ってしまう
- 頼られることがうれしくて、つい頑張りすぎてしまう
こうした価値観は、決して「悪いもの」ではありません。
むしろ、多くの支援者が持っている優しさの表れでもあります。
大切なのは、その価値観に自分で気づき、必要に応じて「ちょうどよい使い方」に調整していくことです。
そのプロセスを、一人ではなく、チームやスーパービジョンの中で進めていけると安心です。
「できたこと」に一緒に気づく関わりへ
共依存を避けつつ寄り添う支援のポイントは、「できていないところ」ではなく、「できたところ」「変化したところ」に一緒に目を向けることです。
- 以前よりも、自分で選べたこと
- 前はできなかったが、今日は一部だけでも挑戦できたこと
- 困ったときに、「助けて」と言えるようになったこと
こうした小さな変化を支援者と一緒に確認できると、本人は「自分にも力がある」と感じやすくなります。
その結果、支援者への過度な依存ではなく、「自分の力を使いながら支援も活用する」関係へと近づいていきます。
まとめ:やさしさを守りながら、健全な支援関係を育てるために
最後に、この記事のポイントを整理します。
- 寄り添いは支援の土台ですが、「支えすぎ」「任せすぎ」のバランスが崩れると共依存に近づきます。
- 支援者・利用者・チームそれぞれに現れるサインから、「抱え込みすぎていないか」を定期的に振り返ることが大切です。
- 境界線を言葉にし、「代わりにやる」ではなく「一緒にやる」支援へシフトすることで、本人の力を育てられます。
- スーパービジョンやケース会議、組織のルールづくりを通じて、一人で抱え込まない仕組みを整えることが予防につながります。
- AIは支援記録の整理や振り返りの補助として、「第三の視点」を提供するツールとして活用できますが、最終判断は必ず人が行う必要があります。
もし、今かかわっている支援で「距離が近すぎるかも」と感じていたら、
それはあなたが真剣に向き合っているからこそ生まれた感覚でもあります。
その感覚を大切にしながら、同僚や上司と共有し、一緒に関わり方を見直していく。
それが、利用者さんの自立と、支援者自身の健康を守る、第一歩になるはずです。









