「最近、就労継続支援A型がどんどん潰れているらしい」「この先も働き続けられるのか不安」
そんな声が、現場やニュースで増えています。
2024年度の報酬改定以降、とくにA型事業所の廃業や大規模な解雇が社会問題として取り上げられるようになりました。
厚生労働省の集計では、2024年度にハローワークが把握した障害のある方の解雇者は9,312人。そのうち7,292人が就労継続支援A型事業所の利用者でした。
この記事では、
- そもそも就労継続支援A型とは何か
- なぜ今、A型事業所の廃業が急増しているのか
- 背景にある制度・お金・人材の問題
- 利用者・家族・事業所が今からできる備え
を、福祉や制度にあまり詳しくない方にも分かるように解説します。
「不安だけが増えてしまう」のではなく、「状況を理解したうえで、次の一歩を考えられる」ことを目指しています。
就労継続支援A型とは?基本の整理
A型の目的と対象となる人
就労継続支援A型は、障害のある方と事業所が雇用契約を結び、最低賃金以上の賃金を支払いながら働く場を提供する福祉サービスです。
「一般企業で働くのは難しいけれど、雇用契約で働きたい」「将来的に一般就労を目指したい」という方が主な対象です。
- 事業所と雇用契約を結ぶ
- 最低賃金以上の賃金が保証される
- 社会保険に加入するケースも多い
- 一般就労へのステップアップを目指す支援も含まれる
という点で、「訓練」色の強い他の福祉サービスより、“労働”としての要素がかなり強いのがA型の特徴です。
B型との違いをざっくり整理
よく比較されるのが就労継続支援B型です。違いを整理すると、次のようになります。
| A型 | 事業所と雇用契約を結び、最低賃金以上のお給料が出る働き方 |
|---|---|
| B型 | 雇用契約は結ばず、作業に応じて工賃が出る働き方 |
B型では、利用時間や作業量に応じて「工賃」が支払われますが、最低賃金の決まりはありません。
一方、A型は一般企業と同じように人件費(賃金+社会保険料など)が発生するため、事業所側にとっては経営的な負担が大きいサービスです。
事業所数と利用者数の推移
厚生労働省の資料によると、就労継続支援A型の事業所数は2010年代にかけて増加してきました。直近の統計では、全国でおおむね4,000か所規模で推移しており、ここ数年は横ばいから微減の傾向が見られます。
利用者数は長期的には増えてきましたが、2024年度以降、事業所の廃止や解雇の増加が全体の動きを揺さぶっています。
「廃業急増」は今なにが起きているのか
2024年〜2025年に何が起きたのか
厚生労働省によると、2024年度(令和6年度)にハローワークが把握した障害のある方の解雇者数は9,312人で、そのうち約8割にあたる7,292人が就労継続支援A型事業所の利用者とされています。
ある福祉関係団体は、2024年春以降、短期間で多数のA型事業所の閉鎖と利用者の解雇・退職が生じていると指摘しています。
つまり、「一部の事業所の問題」ではなく、全国レベルでA型が大きく揺れている状況です。
解雇理由の多くは「事業廃止」と「事業縮小」
福祉系の報道によれば、解雇理由としてもっとも多いのは「事業廃止」、次いで「事業縮小」とされています。

- 事業所そのものが閉鎖される
- 定員や雇用人数を減らさざるを得ない
といった動きが、解雇の背景にあります。
とくに、2024年4月の障害福祉サービス等報酬改定をきっかけに、経営が悪化した事業所の廃業やB型への転換が相次いだと報告されています。

A型事業所の廃止に対する国・自治体の対応
A型事業所の廃止が相次いだことを受けて、厚生労働省は2024年以降、
- A型事業所を廃止する際の留意点の再周知
- 廃止に伴う利用者の受け皿確保を、自治体やハローワークと連携して行うこと
- 生産活動収支が赤字の事業所に対する経営改善モデル事業の実施
などを通知し、自治体や事業所に対して対応を促しています。

ビジネスモデルの難しさと「構造的な赤字」
「生産活動収支」と「賃金総額」の関係
就労継続支援A型では、利用者の賃金は主に生産活動の売上から支払われます。
2017年の指定基準の見直しで、
生産活動に関する収入から必要経費を引いた額(=生産活動収支)が、利用者に支払う賃金の総額以上であること
が求められ、これを下回ると、経営改善計画の提出を求められる仕組みになりました。
つまり、
- 利用者に払う賃金
- 生産活動にかかる材料費・家賃・光熱費など
をきちんと賄えるだけの売上を自分たちで作り続けないといけない構造になっています。
物価高騰と最低賃金アップのダブルパンチ
近年、全国的に最低賃金が毎年のように引き上げられています。
それに伴い、A型で働く利用者の賃金も上昇しますが、売上単価が簡単に上げられるとは限りません。
- 下請けの軽作業などは単価が低い
- 物価高騰で材料費や光熱費も上がる
- 生産活動の単価はすぐには見直せない
といった事情が重なり、「売上はあまり増えないのに、賃金や経費だけが増える」状態になっている事業所が少なくありません。
もともと利益率が低いサービス
厚生労働省が発表した「令和5年障害福祉サービス等経営実態調査」では、令和4年度の決算データをもとに、各サービスについて「どれくらい利益が出ているか」を示す指標(収支差率)が紹介されています。
就労継続支援A型の収支差率は、2.9%(コロナ関連補助金除く)と、障害福祉サービス全体の中でも低めの水準にとどまっています。
これは、
- 少し売上が落ちる
- 人件費が上がる
- 加算が取れなくなる
といった変化があると、一気に赤字に転落しやすい構造であることを意味します。

2024年度報酬改定がもたらしたインパクト
スコア方式の見直しで「生産活動」と「労働時間」がより重く
2024年度(令和6年度)の障害福祉サービス等報酬改定では、就労継続支援A型のスコア方式が大きく見直されました。
自治体向けの解説資料では、このスコア方式について、次のように説明されています。
生産活動収支や平均労働時間、一般就労に向けた支援の取組など、いくつかの指標ごとにスコアが付けられ、その合計点に応じて基本報酬が決まる仕組みです。
つまり、「利用者にどれだけ働いてもらい、どれだけ売上を出し、その結果として賃金が支払われているか」が、以前にも増して報酬に直結する仕組みになったのです。
「賃金が低い事業所」の報酬が大きく下がった
報道や業界分析では、今回の改定により、
- 利用者の平均賃金が低い
- 生産活動収支が赤字で改善が進んでいない
といった事業所では基本報酬が減少しやすくなったと指摘されています。
もともと利益率の低いA型にとって、
「少しのスコア低下 → 基本報酬の減少 → さらに赤字が拡大」
という悪循環が起きやすくなり、結果として廃業やB型への転換が増えたと考えられます。
生産活動収支が赤字のA型事業所で、解雇が集中して起きている
大規模な解雇が生じたA型事業所では、生産活動収支が赤字となっているケースが多いと報告されています。
つまり、
- もともと赤字だった
- 報酬改定でスコアが下がり、収入がさらに減った
- 継続が難しく、事業廃止や大規模解雇に踏み切った
という流れが、多くの事業所で起きていると推測されます。
人材不足・制度変更など「周辺環境」の変化
支援員・サービス管理責任者の採用難
障害福祉の分野では、以前から人材不足が深刻だと指摘されています。
特にA型では、
- サービス管理責任者
- 職業指導員
- 生活支援員
など、一定の資格や経験を持つ人材が必要です。
報酬改定で求められる支援の質が上がる一方で、
- 採用が難しい
- 人件費を上げないと人が集まらない
という現実もあり、人件費と人材確保の板挟みになっている事業所が少なくありません。
社会保険の適用拡大への不安
2022年と2024年の法改正により、短時間で働く方や中小企業に勤める方も社会保険の適用対象が広がってきています。
あるA型事業所は、「社会保険の適用拡大に伴う人件費増加への対応が困難」として、早めの廃止を決断したと公表しています。
今後、
- 利用者の社会保険料事業主負担
- 職員の処遇改善
- 物価・光熱費の高騰
など、中長期的にコストを押し上げる要因が控えていることも、将来の廃業を見越した動きにつながっています。
小規模事業所ほど事務負担が重くなる構造
障害福祉サービス全体として、小規模な事業所が多く、
- 会計・労務・制度対応の専門人材がいない
- 経営改善計画やスコア管理を、現場の支援者が兼務している
といったケースも目立ちます。
報酬改定のたびに求められる書類や体制が増えるなか、
「支援の質を上げつつ、事務と経営もこなす」ことを少人数で求められていることが、廃業のリスクを高めていると言えるでしょう。
2010年代の急増と「揺り戻し」
法改正を背景にA型が一気に増えた
障害者総合支援法施行以降、就労継続支援A型の事業所数・利用者数は増加傾向が続きました
その結果、
- 「福祉+ビジネス」をうたい、短期間で多店舗展開する事業者
- 補助金・報酬を前提にしたビジネスモデルで拡大した事業者
も増え、地域によっては仕事の奪い合いや人材の取り合いが起きるほどの「A型の乱立」が生まれました。
不正受給・指定取消と基準の厳格化
一方で、
- 実態のない雇用契約
- 最低賃金を守らない
- 生産活動収支の不適切な処理
などの問題も明らかになり、2017年前後には不正受給や指定取消が報道されるようになりました。これを受けて厚労省は、
- 生産活動収支が賃金総額を下回る場合の経営改善計画義務化
- 事業の収支状況の報告
- 指定基準の見直し
といった「適正化」に舵を切りました。
「誰でも参入」から「続けるのが難しい事業」へ
こうした流れの結果、
参入ハードルが比較的低く、事業所数が急増
生産活動収支や経営改善計画が重視される
スコア方式で、成果が報酬によりダイレクトに反映
という変化を経て、「始めるのは容易でも、福祉とビジネスの両立を続けるのが非常に難しい事業」になってきたといえます。

利用者・家族・事業所が今からできること
利用を検討している方が確認したいポイント
これからA型の利用を考える方にとって、「本当に大丈夫な事業所なのか?」という不安は大きいと思います。
個別の事業所の評価は専門家の領域ですが、一般的な確認ポイントとしては次のようなものがあります。
- 相談支援専門員や支給決定の担当者に、地域の状況や評判を聞く
- 見学・体験のときに、支援内容と働き方のバランスを確認する
- 一般就労への支援(求人開拓、定着支援など)の説明を受ける
- 事業所の「強み(得意な仕事・取引先)」が具体的に語られているか
廃業リスクを完全にゼロにすることは難しいですが、
「どんな支援や仕事を大切にしている事業所か」を丁寧に聞くことは、自分に合う場所を見つける第一歩になります。
すでに利用している方が押さえておきたいこと
もし通っているA型で、
- 経営状況の説明会が開かれた
- 事業所の今後について話が出ている
といった場合には、可能であれば以下のような行動も検討してみてください。
- 相談支援専門員に状況を共有し、代替サービスや一般就労の選択肢について情報をもらう
- 家族や支援者と一緒に説明会に参加し、分からない点を質問する
- 「もし廃業になった場合の移行先」について、早めに確認しておく
制度としては、事業所を廃止する側には利用者のサービス継続に向けた調整を行う責務が定められています。
不安があるときほど、一人で抱え込まず、相談支援専門員・自治体・ハローワークなど複数の窓口を活用することが大切です。
事業所側が意識したい「生き残りのポイント」
運営側にとっても、今のA型は非常に厳しい環境です。
ここではあくまで一般論として、経営や支援の両面でよく語られているポイントを挙げます。
- 生産活動収支の「見える化」と、早めの経営改善計画
- 特定の取引先に依存しすぎない仕事づくり
- 利用者の力を生かせる業務設計(ITや軽作業など強みの整理)
- 支援記録・スコア管理をチームで共有し、属人化を避ける
- 地域の企業・支援機関との連携による一般就労へのルートづくり
国も、赤字のA型事業所を対象にした経営改善モデル事業などを通じてノウハウの集約と普及を進める方針を示しています。
まとめ:A型廃業急増をどう受け止め、次の一歩を考えるか
最後に、本記事のポイントを整理します。
- 就労継続支援A型は、雇用契約と最低賃金を前提とした「福祉+労働」のサービスであり、もともと利益率が低い構造です。
- 2017年以降、生産活動収支と賃金総額のバランスが厳しくチェックされ、赤字事業所には経営改善計画が義務づけられてきました。
- 2024年度の報酬改定で、労働時間と生産活動の成果がスコアに強く反映される仕組みとなり、賃金が低く赤字の事業所ほど報酬減の影響を受けました。
- その結果、短期間で329か所のA型事業所閉鎖・約5,000人の解雇、年度全体では解雇者9,312人中7,292人がA型利用者という、かつてない規模の揺れが生じています。
- 背景には、物価高騰・最低賃金アップ・人材不足・社会保険適用拡大など、経営環境の悪化要因が重なっていることも見逃せません。
就労継続支援A型の廃業急増は、「A型がダメになった」という話ではなく、
福祉と労働をどう両立させるかという日本社会全体の課題が、一番分かりやすい形で表面化したものだと見ることもできます。
利用者・家族としては、
- 情報に触れて状況を把握する
- 相談支援専門員や自治体と早めに話をしておく
- 自分に合った働き方の選択肢を、少しずつ広げていく
といったことから、できる範囲で一歩ずつ備えていけるとよいと思います。
この記事は制度の全体像を示すものであり、個別の状況によって適切な選択は異なります。
具体的な不安がある場合は、必ずお住まいの自治体の窓口や相談支援専門員など、専門の支援者に相談しながら、次のステップを一緒に考えていきましょう。
■参考リンク

