「ピアサポート」について
「同じ経験をした人同士だからこそ話せることがある気がする。
でも、ピアサポートって自助グループと何が違うの?
専門職の支援とはどう関わるの?」
そんな疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
この記事では、福祉や医療の現場で広がっている「ピアサポート」について、初めての方にもわかりやすく整理します。
【この記事でわかること】
- ピアサポートの基本的な意味と特徴
- ピアサポートが注目されている背景
- 専門職による支援との違いと、良い関係のつくり方
- ピアスタッフ・ピアサポーターという役割
- 利用・導入するときのポイント
ご自身や身近な人の支援を考えるうえで、ピアサポートをどのように活用できるのか。
そのヒントを一緒に整理していきます。
ピアサポートとは?
「ピア(仲間)」という言葉の意味
「ピア(peer)」は、英語で「仲間」や「同じ立場の人」を指す言葉です。
年齢や立場が近い友人という意味だけでなく、同じような経験をした人という広い意味で使われます。
福祉や医療の分野では、
- 障害や病気のある人同士
- 依存症からの回復を目指す人同士
- 不登校やひきこもりの経験がある人同士
- 障害や病気のある子どもを育てる保護者同士
など、「共通する経験を持つ当事者や家族」がピアと呼ばれます。
ピアサポートの基本的な考え方
ピアサポートとは、そのようなピア同士が支え合うことを指します。
一方的に「助ける側」「助けられる側」が分かれるのではありません。
お互いの話を聴き合い、経験から得た知恵を分かち合いながら支え合う関係です。
特徴として、次のような点がよく挙げられます。
- 「同じ経験をした者同士」であること
- 体験に基づく共感や理解が中心であること
- 正解を教えるのではなく、一緒に考える姿勢であること
専門的な資格がなくても、当事者としての経験そのものが力として認められます。
日本の福祉分野で使われる場面
日本では、精神保健福祉、障害福祉、依存症支援などを中心に、ピアサポートの取り組みが広がっています。
地域活動支援センターや、就労系の福祉サービス事業所などで、当事者スタッフがピアサポートを担う例も増えています。
また、家族会や当事者会といった自助グループも、広い意味でのピアサポートの場です。
最近では、オンラインのコミュニティやSNSを通じて、当事者同士がつながる場も増えています。
ピアサポートが注目される背景
当事者の声の重要性が認識されてきた
これまでの支援は、医療や行政、専門職が中心になりがちでした。
しかし、「支援の主役は当事者本人である」という考え方が広がり、当事者の経験や意見を大切にする動きが強まっています。
当事者が自分の経験を語ることで、同じ悩みを持つ人の希望になることがあります。
また、支援制度やサービスをより良くするうえでも、当事者の声は欠かせません。
こうした流れの中で、「当事者同士が支え合う仕組み」としてピアサポートが注目されるようになりました。
制度や専門職だけでは届きにくい支援
制度や専門職の支援には、大きな役割があります。
一方で、次のような思いから、支援につながりにくい人もいます。
- 「こんなことを相談していいのかわからない」
- 「専門家の前では、うまく本音が話せない」
- 「失敗した体験や弱さを見せるのがこわい」
同じ経験をしたピアであれば、「自分も同じだった」と伝えられます。
小さな不安や迷いも、比較的気軽に話しやすくなります。
「制度」と「当事者の本音」のあいだの橋渡しとして、ピアサポートが期待されています。
リカバリー(回復)志向とのつながり
精神保健や依存症の分野では、「リカバリー(回復)」という考え方が重視されています。
ここで言う回復は、症状が完全になくなることだけを指しません。
困難さを抱えながらも、自分らしく暮らしていくプロセス全体を大切にする考え方です。
ピアサポートは、こうしたリカバリー志向と相性が良いとされています。
経験を通じて、
- 「困難があっても生きていける」
- 「自分なりの工夫で生活している人がいる」
と知ることは、大きな希望になります。
ピアサポートの具体的なかたち

自助グループ・当事者会
もっとも身近なピアサポートの形が、自助グループや当事者会です。
参加者が輪になって近況を語り合ったり、テーマを決めて話し合ったりします。
特徴としては、
- 参加は原則として自由・対等
- アドバイスよりも「聴くこと」を重視
- 話した内容を外に漏らさないという約束
などが大切にされることが多いです。
精神障害、発達障害、依存症、不登校、家族の会など、テーマはさまざまです。
地域の保健所や福祉センターで、情報が紹介されていることもあります。
当事者がスタッフとしてかかわる支援
もう一つの形が、「ピアスタッフ」「ピアサポーター」と呼ばれる当事者スタッフによる支援です。
自身も当事者である人が、事業所や病院、相談機関などの一員として働きます。
具体的な活動の例として、
- 利用者さんの話をピアとして聴く
- グループ活動や茶話会を企画する
- 自分の体験談をプログラムとして語る
- 初めて来る人の不安を和らげる役割を担う
といったことがあります。
ここでは、当事者経験を活かしつつ、スタッフとしての責任もあわせ持ちます。
オンラインでのピアサポート
近年は、オンライン会議ツールやチャットを使ったピアサポートも増えています。
遠方に住んでいる人や、外出が難しい人でも参加しやすいという利点があります。
オンラインのピアサポートでは、
- 音声のみで参加できる場
- 顔出し不要のチャット形式の場
など、さまざまな形が工夫されています。
一方で、画面越しだからこそ、プライバシーの扱いや安全な場づくりがより重要になります。
運営者やルールをよく確認したうえで利用することが大切です。
ピアサポートのメリット

「自分だけではない」と感じられる
ピアサポートの大きな力は、「自分だけが特別につらいのではない」と感じられることです。
同じような経験をした人の話を聴くと、言葉にならない思いが代弁されることがあります。
- 「自分だけがダメなんだと思っていた」
- 「同じことで悩んでいる人が他にもいた」
こうした気づきは、それだけで心が少し軽くなることがあります。
安心感が生まれることで、支援につながる意欲が高まることもあります。
経験に基づく具体的な知恵が得られる
ピアサポートでは、生活の中で身についた工夫やコツが共有されます。
たとえば、
- 通院や服薬を続けるための工夫
- 仕事や学校との付き合い方
- 家族や周囲との伝え方
など、教科書には載っていない「生きた知恵」が語られます。
もちろん、人によって合う・合わないはあります。
それでも、「そんなやり方もあるんだ」というヒントは、選択肢を広げてくれます。
支える側も支えられる
ピアサポートは、「支える側」だけが与えるわけではありません。
自分の経験を語ることで、
- つらかった過去に意味を見いだせる
- 誰かの役に立てたという実感が得られる
といった効果があるとされています。
話を聴く中で、自分自身の気づきが深まることもあります。
この「双方向性」が、ピアサポートの大きな特徴です。
ピアサポートの限界と注意点

医療・法律など専門的判断はできない
ピアサポートは大きな力を持ちますが、何でも解決できるわけではありません。
特に、医療的な判断や、法律・制度の詳細な解釈は専門職の領域です。
- 具体的な診断や薬の変更の判断
- 法律上の権利や手続きの最終的な判断
などは、必ず医師や専門職に確認する必要があります。
ピアサポートは、そうした専門的支援につながる「きっかけ」や「橋渡し」として、とても有効です。
しかし、専門的判断の代わりにはならないことを押さえておく必要があります。
負担の偏りや「助ける側」になりすぎるリスク
ピアサポートでは、つい「自分が何とかしてあげなければ」と感じる場面があります。
特に、ピアスタッフとして働く人は、責任感から無理をしてしまうこともあります。
- 自分の体調が悪くても相談を受け続けてしまう
- 相手の問題を「自分の責任」と感じてしまう
- 相手のつらさを抱え込みすぎて疲弊してしまう
こうした状態は、いわゆる「燃え尽き」につながりかねません。
ピアサポートでは、「お互いに無理をしない」「できないことはできないと言う」ことも大切です。
プライバシーと安全な場づくり
当事者の体験には、家族や仕事、学校などの情報が含まれます。
そのため、ピアサポートの場では、プライバシーを守ることがとても重要です。
- 聴いた話を外で話さない
- 写真や録音を勝手にしない
- SNSなどで、許可なく名前やエピソードを書かない
こうした基本的なルールが共有されている場を選ぶことが大切です。
運営側にとっても、安全な場づくりのためのルールづくりや説明が欠かせません。
専門職による支援との違い
立場と役割の違い
専門職は、資格や研修、制度に基づいて支援を行います。
そのぶん、守秘義務や説明責任などのルールも明確です。
一方、ピアサポートは、「同じ経験を持つ仲間」としての立場を大切にします。
経験に基づく共感を中心に、対等な関係で対話を行います。
どちらが優れているということではありません。
- 専門職:専門性や制度を生かした支援
- ピア:経験を生かした共感や安心感といった、それぞれの強みがあります。
目標設定や評価の違い
専門職による支援では、支援計画を作成し、目標や成果を明確にすることが求められます。
一方で、ピアサポートは「ただ話を聴いてもらえること自体」が目的となることも少なくありません。
- 具体的な支援目標の達成
- サービス利用の調整や調査
こうしたことは専門職が得意とする領域です。
ピアサポートは、そのプロセスを本人らしく進めるための「心の土台づくり」を支える役割と言えます。
良い連携が生む相乗効果
ピアサポートと専門職の支援がうまく連携すると、相乗効果が期待できます。
たとえば、
- ピアから聞いた不安や本音を、専門職に伝えるきっかけになる
- 専門職からの説明を、ピアが当事者の言葉でかみ砕いて説明する
- 専門職に相談する前の「予行演習」の場としてピアサポートを活用する
このように役割を分担することで、支援がより本人にフィットしやすくなります。
ピアスタッフ・ピアサポーターという役割

ピアスタッフの主な活動内容
ピアスタッフ・ピアサポーターは、自身も当事者であることを明かしたうえで支援に関わる人です。
活動内容は機関によって異なりますが、よくあるものとしては、
- 個別のピア相談の対応
- グループワークや交流会の運営
- 体験談を語る講師としての活動
- 事業所内での意見交換や、当事者の声の代弁
などがあります。
自分の経験を話すだけでなく、「聴く側」としてのスキルも求められます。
そのため、多くの機関では、ピアスタッフ向けの研修やスーパービジョンが行われています。
活躍している分野の例
ピアスタッフが活躍している分野は、年々広がっています。
例として、
- 精神保健福祉(精神障害のある人の地域生活支援など)
- 発達障害や精神障害のある人の就労支援
- 依存症からの回復支援プログラム
- 引きこもりや不登校経験者の支援
- がんや難病などの患者会・相談支援
などが挙げられます。
分野は違っても、「経験を力として生かす」という根本の考え方は共通しています。
資質や育成で大切にされていること
ピアスタッフに求められるのは、「特別に立派な経験」ではありません。
むしろ、
- 自分の経験を振り返り、整理できていること
- 相手と自分の境界線を大切にできること
- わからないときに「わからない」と言えること
といった姿勢が重要だとされています。
また、ピアスタッフ自身も支援を受けながら活動できるよう、
- スーパーバイズや面談の機会
- チームの一員として相談しやすい体制
などの仕組みづくりも欠かせません
まとめ:ピアサポートを上手に活用するために
この記事では、ピアサポートの基本から、専門職との違い、ピアスタッフの役割までを整理しました。
最後にポイントを振り返ります。
- ピアサポートは、「同じ経験をした人同士」が支え合う関係です。
- 専門職の支援では届きにくい、「本音」や「小さな不安」を受け止める力があります。
- 医療や法律などの専門的判断の代わりにはならず、あくまで専門職との連携が前提です。
- ピアスタッフは、経験を活かしつつ、スタッフとしての責任やセルフケアも大切にしています。
- プライバシーや負担の偏りに配慮しながら、安心して話せる場づくりが重要です。
【これからできる一歩の例】
- ピアスタッフとして活動してみたい場合は、地域の支援機関に研修や募集の有無を確認してみる。
- 支援者・事業所の立場であれば、既にある当事者会と連携できないか検討してみる。
- まずは地域の保健所や相談支援機関で、当事者会や家族会の情報を聞いてみる。
- 気になるピアグループがあれば、「見学だけ」「途中参加」など、自分のペースで関わってみる。
ピアサポートは、「一人では抱えきれないけれど、誰かとなら歩ける」という感覚を育ててくれる仕組みです。
ご自身や周りの人の状況に合わせて、無理のない範囲から取り入れてみてください。

