就労継続支援B型の事業所を立ち上げたり、新しく事務担当になったりすると、
最初にぶつかる大きな壁が「国保連への請求ってどうやるの?」だと思います。
- 「請求ソフトは入れたけど、流れが全体像としてつかめない」
- 「上限額管理って何?B型でも必要なの?」
- 「返戻(へんれい)って言われても、何が悪いのか分からない」
この記事では、はじめて国保連請求を担当する人向けに、就労継続支援B型の請求の基本を、
できる限りやさしく・体系的に整理します。
※本記事は、厚生労働省・こども家庭庁・自治体の公開資料をもとに作成していますが、最終的な運用は、都道府県・市区町村・各国保連のマニュアルが優先されます。
必ず、お住まいの地域の最新資料をご確認ください。
就労継続支援B型と国保連請求の「全体像」
就労継続支援B型とは?
就労継続支援B型は、一般就労がむずかしい障害のある人に対して、生産活動(作業)やその他の活動の場を提供する、通所型の障害福祉サービスです。
サービスの必要性は、市区町村が行う支給決定を通じて判断され、受給者証に「就労継続支援B型」と利用上限量などが記載されます。
事業所は、この受給者証にもとづいて利用契約を結び、サービス提供の対価として、訓練等給付費(公費)を請求します。
ここで説明した就労継続支援B型の定義や対象者のイメージは、厚生労働省が公表している就労系障害福祉サービスの解説に基づいています。
国保連(国民健康保険団体連合会)とは?
障害福祉サービス費の多くは、
という流れで支払われます。
事業所は、毎月のサービス提供実績にもとづき、月単位で給付費等を国保連合会へ請求します。
国保連合会は、一次審査を行い、市区町村等が二次審査を行ったうえで、審査結果に応じて給付費等が支払われます。
つまり事業所から見ると、「国保連に正しく請求できるかどうか」が売上に直結するという構図です。
国保連請求は「電子請求」が基本
現在、多くの事業所は、国保連が用意している電子請求受付システム(インターネット請求)を使って、オンラインで請求データを送信(伝送)しています。
送信されたデータは自動的に審査され、誤りや不整合があると「返戻」として戻される仕組みです。
報酬の仕組みと利用者負担(1割負担と上限額)
原則は「報酬の1割」が利用者負担
障害者総合支援法にもとづく障害福祉サービスでは、サービス利用者は、原則としてサービス費用の1割を自己負担する仕組みです。
原則として、事業所は国保連を通じてサービス費用の9割前後(公費)を請求し、利用者には1割分(自己負担)を請求します。各種減免や高額障害福祉サービス等給付費により実際の負担割合が変わる場合もあります。
これが基本のイメージです。
「負担上限月額」というセーフティネット
ただし、1割負担といっても、ひと月に多くのサービスを使うと負担が重くなりすぎてしまいます。
そのため、世帯の所得区分に応じて「負担上限月額」が決められており、その額を超えて利用者が負担することはありません。
代表的な区分は次のようなイメージです(通所サービスの場合の例)
| 生活保護世帯・低所得世帯 | 上限 0円 |
|---|---|
| 一般1(市町村民税課税・所得割16万円未満等) | 上限 9,300円 |
| 一般2(それ以外) | 上限 37,200円 |
※具体的な基準額や所得の判断方法は、自治体により説明の仕方が多少異なりますが、基本的な枠組みは、厚生労働省・こども家庭庁などが示す4区分に基づいています。
上限額管理(上限額管理結果票)がなぜ重要か
複数の障害福祉サービスを同時期に利用している場合、「月全体で利用者負担が上限額を超えないように調整する」必要があります。
これが、いわゆる上限額管理業務です。
上限額管理を担当する「上限管理事業所」が決まっており、受給者証などで確認できます。
他事業所から送られてくる負担額情報をもとに、利用者負担額を上限額内に収まるよう調整した結果をまとめ、
「利用者負担上限額管理結果票」として国保連に提出します。
就労継続支援B型事業所でも、
- 自事業所が上限管理事業所の場合は「管理する側」
- 別事業所が上限管理事業所の場合は「情報を提供する側」
として関わることが多く、実務では国保連請求とあわせて押さえておきたい重要な業務のひとつです。
なお、上限額管理の対象となるかどうかは、利用者ごとの支給決定内容や利用状況によって異なります。
就労継続支援B型の国保連請求フロー【8ステップ】
ここからは、月次請求の大まかな流れを8つのステップに分けて整理します。
障害福祉サービス(就労継続支援B型など)を新規に指定された事業所は、
国保連に対して「障害福祉サービス費等の請求及び受領に関する届」など、請求・受領に関する届出(受領委任の手続き等)を行います。
この段階をクリアして、はじめて国保連に請求できる状態になります。
- 受給者証の確認(サービス種別・支給量・負担上限月額など)
- 重要事項説明書・契約書の締結
- 新規契約・契約変更・終了時には、所管の福祉事務所あてに契約内容報告書を提出(自治体ルールによる)
1か月(1日〜末日)を通して、受給者証・個別支援計画に基づきサービスを提供します。
そのうえで、
- 利用日ごとの出席・欠席
- 提供時間・利用時間
- 加算(送迎加算・福祉専門職配置加算 等)
などを記録し、サービス提供実績記録票を作成します。
※実績記録票の誤りは、そのまま請求エラーや返戻につながるため、基礎資料として特に丁寧に作成・確認することが重要です。
同月に複数サービスを利用している利用者については、上限額管理を担当する事業所が、他事業所分を含めた月全体の自己負担額を集計し、負担上限月額を超えないように調整します。
その結果を、上限管理事業所 → 国保連へ「利用者負担上限額管理結果票」で報告
就労継続支援B型事業所としては、
- 上限管理事業所が自事業所なのか
- それとも他事業所なのか
を、受給者証や契約時の情報で必ず確認しておきましょう。
事業所は、前述の実績記録や上限額管理の結果にもとづいて、
- 介護・訓練等給付費等請求書
- 介護・訓練等給付費等明細書
- サービス提供実績記録票
- 利用者負担上限額管理結果票
などの請求書類・データを作成します。
このとき、実際には、
- 国保連の「簡易入力システム」
- 市販の請求ソフト(障害福祉版)
などを利用して入力するのが一般的です。
請求締切日(原則としてサービス提供月の翌月10日※)までに、電子請求受付システムを通じて、請求データを国保連へ送信します。
障害福祉サービス(障害者総合支援法・障害児支援)の請求は、現在は法令・国保連の運用上、原則として「電子請求受付システムによるインターネット請求のみ」です。
一方、介護保険では、地域によってはCD-Rなどの電子媒体請求を認めているところもあります。
サービス提供月の翌月10日までに国保連へ請求情報を提出する、一次審査・二次審査を経て給付費が支払われる、といった基本的な流れは、国保中央会が作成した請求事務ハンドブックに沿ったものです。
※実際の締切日や休日の扱いは、都道府県国保連ごとのスケジュールが優先されます。必ず、自事業所が所属する国保連の最新案内を確認してください。
送信された請求データに対して、
- 国保連による一次審査
- 市区町村等による二次審査
が行われ、内容に問題がなければ給付費が支払われます。
問題がなかった部分 → 支払決定
不備のあった部分 → 「返戻」として戻ってくる
審査結果は、国保連から交付される審査支払結果通知などで確認できます。
国保連への請求・審査とは別に、
- 自己負担分(1割負担)
- 食材料費・光熱水費などの実費負担(該当する場合)
をまとめて、利用者に請求書を発行します。
複数サービスの自己負担を合算した結果、利用者負担上限月額に達している場合には、
それを踏まえた請求額になるよう調整が必要です。
国保連請求で使う主な書類・データ
ここでは、就労継続支援B型の国保連請求に関連する代表的な帳票・データを整理します。
介護・訓練等給付費等請求書・明細書
障害福祉サービスの給付費(公費)を請求するためのメイン帳票です。
サービスごとの利用日数・単位数・金額などを記載します。
サービス提供実績記録票
利用者ごと・日ごとの出席状況や提供時間、加算要件などを記録。
国保連請求の元データとして、請求ソフトに取り込む形が一般的です。
利用者負担上限額管理結果票
上限管理事業所が作成し、月全体の自己負担額の調整結果を示す帳票です。
就労継続支援B型事業所は、
- 自事業所が上限管理を行う場合 → この帳票を作成・提出
- 別事業所が上限管理を行う場合 → 必要な情報(請求予定額など)を提供
という役割を担います。
契約内容報告書(自治体ごと)
新規契約・変更・終了時に提出を求める自治体も多く、埼玉県・さいたま市、宮城県などが例としてマニュアルや様式を公開しています。
各種届出(請求及び受領に関する届 等)
- 「障害福祉サービス費等の請求及び受領に関する届」
- 受領委任の方法や振込先口座の登録 など
は、各都道府県国保連・市区町村が案内を出しています。
返戻を避けるためのチェックポイント
国保連請求で初心者がもっとも悩みやすいのが返戻(へんれい)です。
返戻とは?
国保連の審査の結果、「このままでは支払えません」として請求が一度戻されることを「返戻」といいます。
返戻になった部分については、内容を修正したうえで、再請求する必要があります。
よくある返戻・エラーの例
自治体や国保連が公開している返戻事例を見ると、初学者がつまずきやすいポイントがよく分かります。
代表的な例:
- 受給者証の支給量を超えた日数・時間を請求している
- サービスコード・加算コードの組み合わせルール違反
- 上限額管理結果票との整合性がとれていない
- 利用者の資格情報(受給者証の有効期限・負担区分など)の不備
- 事業所番号・サービス種別の誤り
東京都国保連などでは、審査チェックのエラーコード一覧を公開しており、「どんなときにどのエラーになるのか」を確認できます。
初心者向け・ミニチェックリスト
毎月の請求前に、最低限次のポイントを確認すると、返戻リスクを下げられます。
- 受給者証の有効期限は切れていないか
- 支給決定量の範囲内で実績を入力しているか
- サービス提供実績記録票と請求ソフトの内容は一致しているか
- 上限額管理の対象者は、結果票と整合しているか
- 新規・変更・終了の契約内容報告書は提出済みか
- 国保連・自治体が示す最新の単位数・報酬改定に対応したソフトか
都道府県・市区町村ごとのローカルルールに注意
ここまで解説してきた内容は、全国共通の基本的な枠組みですが、実務レベルでは、都道府県や市区町村ごとに、次のような違いがあります。
- 請求締切日(伝送期限)の細かな設定
- 契約内容報告書の様式・提出先
- 独自の請求事務ハンドブック・返戻事例集の有無
- 電子媒体請求の扱い・オンライン請求の推奨度合い
たとえば、さいたま市では、
「請求事務ハンドブック」や「国保連請求返戻事例」を公開し、障害福祉サービス等の国保連請求の注意点をまとめています。
長野県も同様に、「障害者総合支援給付等審査支払に係る請求支払の流れ」で支給決定から審査支払までの流れや請求の基本を整理しています。
実務の鉄則
「最終的には、自分の地域の国保連・自治体が出しているマニュアルを確認する」
初心者から中級者になるための勉強方法・参考資料リンク
制度の全体像をつかむ
これで、「どんなサービスに、どんな報酬が付いているか」をつかむと、請求ソフトの数字が理解しやすくなります。
利用者負担・上限額の理解を深める
利用者負担の仕組みが分かると、「国保連から9割、公費で入金される」「利用者には1割+実費を請求する」
という全体の収支構造も見えやすくなります。

よくある質問(FAQ)
Q1. 国保連請求には、有料ソフトが必須ですか?
A. 必須ではありません。
国保連が提供する簡易入力システム(電子請求受付システム)を使えば、有料ソフトなしでも請求自体は可能です。
ただし、
- 利用者数が多い
- 複数サービスを運営している
- 加算が複雑
といった場合は、市販ソフトのほうが効率的なことが多く、運営規模に合わせて検討するのが現実的です。
Q2. 国保連への請求は、毎月いつまでにやればいいですか?
A. 障害福祉サービスの国保連請求では、サービスを提供した月の翌月10日までに、給付費請求に必要な情報を国保連に提出することが「原則」とされています。
国保連請求の実務解説では、
「サービスを提供した事業所は、毎月10日までに給付費請求に必要な情報を国保連に提出する」と説明されているケースが多く見られます。
ただし、実際の締切日や、10日が土日・祝日の場合の取り扱いは、都道府県国保連ごとに異なります。
自事業所が所属する都道府県国保連の「請求スケジュール」や「請求事務ハンドブック」で、毎年度の締切日を確認することが大切です。
Q3. 返戻になってしまいました。どうすればいいですか?
A. 返戻の内容(エラーコード・メッセージ)を確認し、原因を特定したうえで、再請求します。
国保連から交付される審査支払結果や返戻通知で、どの利用者・どのサービスが、どんな理由で返戻になったかを確認します。
エラーコード一覧や返戻事例集を参考に、修正すべき箇所を把握します。
修正後、再度請求データを作成して、再請求を行います。
返戻が多いと、キャッシュフロー(資金繰り)にも影響するため、月次で返戻の原因を分析して、同じミスを繰り返さない工夫が大切です。
Q4. 就労継続支援B型ならではの請求の注意点はありますか?
就労継続支援B型では、
- 利用日数・出席状況
- 作業時間・利用時間の区分
- 各種加算(人員体制・送迎・福祉専門職配置 等)
が報酬に直結します。そのため報酬算定構造や加算の要件を一度整理しておくと安心です。
また、工賃(利用者に支払うお金)と報酬(事業所に入る給付費)は別物である点も重要です。
工賃の支払いは事業所の義務であり、報酬や自己負担とは別に会計管理を行う必要があります。
まずは「全体像」と「公式資料」をセットで押さえる
就労継続支援B型の国保連請求は、
- 制度の枠組み(報酬・利用者負担・上限額)
- 国保連の仕組み(電子請求・審査・支払)
- 自治体ごとのルール(ハンドブック・締切・様式)
この3つが重なり合う、少し複雑な領域です。
しかし、
- 月次フロー(8ステップ)
- よく使う帳票の役割
を押さえておけば、あとは「自分の自治体のマニュアル」を読み込むことで、着実に「分かる」「できる」レベルに到達できます。
この記事が、就労継続支援B型の国保連請求を学び始める方の地図になることを願っています。

