就労継続支援B型の「工賃」とは?
就労継続支援B型の位置づけ
就労継続支援B型は、「一般就労は難しいが、日中の活動や生産活動を通じて収入を得たり、生活リズムを整えたりしたい」という障害のある方が利用する福祉サービスです。
事業所と利用者のあいだに雇用契約は結ばれない「非雇用型」の支援で、あくまで福祉サービスとして位置づけられています。

「工賃」と「給料(賃金)」の違い
就労継続支援B型で利用者に支払われるお金は、一般企業のような「給料」ではなく「工賃」と呼ばれます。
- 工賃:雇用契約を結ばずに行った生産活動に対して事業所から支払われるお金
- 給料・賃金:雇用契約を結んだ労働者に対して支払われるもの(最低賃金の適用あり)

厚生労働省は、就労継続支援A型・B型における工賃(賃金)の範囲を
「工賃、賃金、給与、手当、賞与その他名称を問わず、事業者が利用者に支払うすべてのもの」
と定義しています。
就労継続支援B型では事業所と利用者が雇用契約を結ばないため、利用者は法律上の「労働者」ではありません。そのため、労働基準法や最低賃金法といった労働関係法令は原則として適用されず、最低賃金も保証されません。
この仕組みが、B型の工賃が一般的な給料と比べて低い水準になりやすい大きな理由のひとつです。
「最低工賃」=月3,000円という目安
就労継続支援B型事業所は、
「平均工賃が『工賃控除程度の水準』(月額3,000円程度)を上回ること」
が指定の要件として求められています。
このため、現場では「月3,000円が最低工賃の目安」とよく言われます。ただし、これは利用者一人ひとりの工賃ではなく、「事業所全体の平均工賃」が3,000円を下回らないように、という基準である点に注意が必要です。
最新データ:就労継続支援B型の全国平均工賃(月額)
令和5年度(2023年度)の全国平均
厚生労働省が公表した「令和5年度工賃(賃金)の実績」によると、就労継続支援B型事業所の全国平均工賃(月額)は23,053円でした。
同資料では、
- 令和4年度の全国平均:17,031円
- 令和5年度の全国平均:23,053円
とされており、数値上は大きく増加しているように見えます。
ただし、後述するように2024年度(令和6年度)の報酬改定で「平均工賃月額の計算方法」が見直され、その新しい計算式が令和5年度の平均工賃にも反映されたため、単純に「工賃が急に増えた」とは言い切れません。
都道府県別のばらつき
同じく令和5年度のデータでは、都道府県別の平均工賃を見ると、
- 2万円未満の自治体から
- 2万7千円〜3万円前後の自治体まで
かなり幅があることがわかります。
また、別の厚労省資料をもとにした民間サイトの分析では、2018年度のデータで
- 利用者1人あたり平均工賃:16,118円
- 上位25%事業所の平均:28,377円
- 下位25%事業所の平均:6,328円
と、約4.5倍もの格差があることも示されています。
つまり、「全国平均が○円」といっても、事業所によって工賃水準は大きく異なるのが実情です。
長期的には増加傾向だが、数字の読み方に注意
過去のデータを見ると、2008年度の平均工賃月額は12,587円、2021年度には16,507円と、長期的には増加傾向が続いています。
一方で、令和5年度の23,053円という数字は「計算式の変更の影響を強く受けている」ことが厚労省の資料にも明記されています。
そのため、「ここ数年で一気に工賃が1.3倍〜1.4倍に増えた」と理解するのではなく、
「計算方法が変わって数字が跳ね上がって見えている部分がある」
と考えるのが現実に近いです。
「平均工賃月額」とは何か?基本の計算式
「平均工賃月額」は何に使われる数字?
就労継続支援B型の「平均工賃月額」は、主に次のような場面で使われます。
- 事業所が自治体・厚労省に報告する工賃実績として
- 事業所の基本報酬(国保連へ請求するサービス費)の区分(単位数)を決める基準として
つまり、「平均工賃月額が高いほど、基本報酬単価も高くなる」仕組みになっています。
ステップ①:年間工賃支払総額を出す
まず、1年間に利用者へ支払った工賃の合計額を出します。
このとき対象となるのは、厚労省の定義する
「工賃、賃金、給与、手当、賞与など名称を問わず、事業者が利用者に支払うすべてのもの」
であり、
- 生活費として支給しているお金
- 工賃とは関係のない一時的な支援金
などを紛れ込ませないよう、事業所側の管理が重要になります。
ステップ②:一日あたりの平均利用者数を出す(2024年度からの重要ポイント)
2024年度(令和6年度)の報酬改定では、平均工賃月額の「分母」となる人数の考え方が大きく変わりました。
新しい算定方法では、次のように「一日あたりの平均利用者数」を求めます。
- 4月〜翌年3月までに、利用者が通所した延べ利用者数(A)を数える
- 在宅支援は含める
- 1日丸ごと施設外就労のみの利用者は含めない などの細かいルールあり
- 同じ期間に事業所を開所した日数(B)を数える
- A ÷ B=一日あたりの平均利用者数
この「一日あたりの平均利用者数」が、平均工賃月額を計算するときの分母になります。
ステップ③:平均工賃月額の計算式
2024年度の改定後、平均工賃月額の計算式は次のように整理できます。
平均工賃月額 =
(年間工賃支払総額) ÷ (一日あたりの平均利用者数) ÷ 12か月
具体的には、次のようなイメージです。
- 年間工賃支払総額:600万円
- 前年度の延べ利用者数:4,800回
- 年間開所日数:240日
- 一日あたりの平均利用者数
4,800回 ÷ 240日 = 20人 - 平均工賃月額
600万円 ÷ 20人 ÷ 12か月 = 25,000円
この場合、事業所の平均工賃月額は25,000円となり、後述する「平均工賃月額に応じた報酬区分」で2万5,000円以上~3万円未満の区分に入るイメージです。
2024年度(令和6年度)報酬改定で何が変わったのか
計算方法の変更:なぜ「平均利用者数」を使うようになったのか
厚労省の令和6年度報酬改定資料では、
「障害特性等により利用日数が少ない方を受け入れる事業所への配慮のため、前年度の『一日当たりの平均利用者数』を分母とする新しい算定方式を導入した」
と説明されています。
従来は、
- 「工賃支払対象者数」(工賃を支払った人数)を分母にしていたため、
- 利用日数の少ない人が多い事業所ほど、平均工賃月額が低く出やすい
という課題がありました。
新しい方式では、
- 利用日数の少ない人も、実際の通所日数に応じて反映される
- 日数が多い人・少ない人をバランスよく受け入れている事業所の実態が数字に出やすい
というメリットがあります。
その一方で、計算式の変更によって平均工賃月額の数字は「見かけ上」大きくなりやすくなったため、厚労省も令和5年度の平均工賃が大きく増加した要因として、この計算方法の変更を明記しています。
平均工賃月額に応じた報酬体系の見直し
2024年度の報酬改定では、就労継続支援B型の基本報酬(サービス費)の区分と単位数も見直されました。
とくにポイントとなるのが、
- 平均工賃月額が高い区分:基本報酬単位が引き上げ
- 1万5,000円未満など低い区分:基本報酬単位が引き下げ
という、メリハリのある体系にしたことです。
たとえば、定員20人以下・人員配置7.5:1の「サービス費(Ⅱ)」では、
- 平均工賃月額 4万5,000円以上:748単位
- 同 1万円未満:537単位
といった形で、平均工賃月額が高い事業所ほど単位数が高くなります。
逆に、平均工賃月額が1万円未満の区分では、従来よりマイナス29単位となるなど、工賃水準が低いままでは収入面で厳しくなる設計になっています。
新たな人員配置「6:1」と目標工賃関連の加算
2024年度改定では、次のような変化もあります。
- 人員配置「6:1」の新しい報酬体系(サービス費(Ⅰ)6:1)の創設
- 平均工賃月額に応じて、4万5,000円以上で837単位、1万円未満で590単位など
- 目標工賃達成指導員配置加算の見直し
- 単位数の引き下げ(約半減)
- 目標工賃達成加算(新設・10単位/日)
- 都道府県の工賃向上計画に基づく自事業所の計画を立て、その目標を達成した場合に加算
ただし、現行の配置加算との兼ね合いもあり、トータルで見ると工賃向上に取り組む事業所とそうでない事業所の差が、以前より数字で出やすい設計になっています。
利用者・家族が工賃を見るときのチェックポイント
工賃「だけ」で事業所を評価しない
平均工賃月額は重要な指標ですが、それだけで「良い事業所」「悪い事業所」と決めつけることはできません。
理由の一例として、
- 医療的ケアが必要な方や、体調の波が大きい障害のある方を多く受け入れている事業所では、
- 通所日数が少なくなりがち
- 生産活動に参加できる時間も限られがち
- その結果、一人ひとりへの支援は手厚くても、工賃水準は低く見えることがあります。
まさにそのような事業所への配慮として、2024年度から平均工賃月額の計算方法が変わった経緯があります。
チェックしたいのは「工賃+通いやすさ+支援内容」
就労継続支援B型を検討するとき、次のような観点をセットで見るのがおすすめです。
- 工賃水準
- 平均工賃月額はいくらくらいか
- 自分が想定している通所日数・作業時間だと月いくらくらいになりそうか
- 通所のしやすさ
- 送迎や交通手段、開始時間・終了時間は無理がないか
- 体調が悪いときに休みやすい雰囲気か
- 支援の内容・将来の見通し
- 生活リズムを整える支援や、体調に合わせた配慮があるか
- 一般就労やA型などへのステップアップも視野に入れてくれるか
平均工賃が高い事業所には、
- 作業の単価が高い
- 支援体制が整っている
といったプラスの要素があることも多い一方で、
- 作業ペースや出勤日数を人によってはきびしく求める
- 体調よりも工賃を優先しがち
といった側面が出ることもあり得ます。数字と同時に、自分や家族にとって「続けやすいか」「安心して通えるか」を必ず確認しましょう。
事業所に聞いてみたい具体的な質問例
見学や相談のときに、次のような質問をしてみると、工賃と支援のバランス感覚が見えやすくなります。
- 直近の平均工賃月額はいくらですか?
- 工賃はどのようなルール(工賃規程)で決めていますか?
- 体調が不安定な場合、通所日数が少なくても利用できますか?
- 工賃を上げるための取り組みと、利用者一人ひとりのペースを大切にすることを、どう両立していますか?
- 2024年度の報酬改定で、運営方針が変わった点はありますか?
事業所向け:平均工賃月額を正しく計算するための実務ポイント
最後に、就労継続支援B型の事業所側の視点から、誤りやすいポイントを簡単に整理します。
年間工賃支払総額の集計ミスに注意
行政書士など専門家の解説でも、次のようなミスが指摘されています。
- 工賃規程に基づかない独自の支払いを工賃に含めていた
- 生活費や交通費の補助など、本来工賃に含めるべきでないものを混ぜていた
- 工賃明細書の金額と実際の振込額が一致していない
- 皆勤賞などの特別な金銭を工賃に含めてしまった
工賃規程・工賃明細書・利用者一覧表などを突き合わせて、1年間の工賃合計を丁寧に確認することが大切です。
「前年度平均利用者数」を正しく出す
2024年度の改定では、
「年間延べ利用者数 ÷ 年間開所日数」
で求める一日あたりの平均利用者数が、平均工賃月額の分母として使われます。
ここでよくあるミスとして、
- 1日通しで施設外就労に出ている利用者を、平均利用者数に入れてしまう
- 在宅支援の利用を「カウントし忘れる」
- 生産活動をしていないレクリエーションのみの日まで「開所日数」に含めてしまう
などが挙げられます。
平均工賃月額は基本報酬単位に直結するため、
- 施設外就労と本体通所を区別した記録
- 在宅支援の通所カウントのルール
- 開所日数の管理
を日頃から整理しておくことが、トラブル防止の鍵になります。
まとめ:2024年度は「計算方法の変更」に要注意
就労継続支援B型の工賃や平均工賃月額について、押さえておきたいポイントを改めてまとめると──
- 就労継続支援B型の利用者は「労働者」ではなく、最低賃金法などの適用はないため、受け取るお金は「給料」ではなく「工賃」である。
- 平均工賃月額の新しい計算式は、 年間工賃支払総額 ÷(一日あたりの平均利用者数) ÷ 12か月
という形で整理できる - 2024年度の報酬改定では、平均工賃月額に応じた基本報酬単価の差がより大きくなり、工賃向上に取り組む事業所ほど有利な設計になっている。
- 一方で、工賃の高低だけで事業所の良し悪しを判断するのではなく、「自分の体調や生活と合うか」「支援の内容はどうか」といった視点も必須である。
やすまさパパゲーノAI福祉研究所としては、
・工賃を「数字」として冷静に見ること
・障害のある人一人ひとりの生活・体調・希望に合った支援を大切にすること
この二つが両立できる就労継続支援B型の広がりを願っています。










