
「eスポーツを就労支援に取り入れてみたいけれど、遊びになってしまわないか心配…」
「PCスキルを伸ばしたいけれど、利用者さんの興味が続かない…」
そんなお悩みをお持ちではないでしょうか。
近年、一部の福祉現場では、eスポーツを就労支援プログラムとして活用する取り組みも見られるようになってきました。
この記事では、就労支援のプログラムにeスポーツを取り入れるメリットと、 導入のポイント・注意点を、初めての方にも分かりやすく解説します。
【この記事で分かること】
・eスポーツ就労支援の基本的な考え方
・利用者さん・事業所それぞれにとってのメリット
・導入ステップと、実際のプログラム設計のヒント
・「遊びで終わらせない」ための注意点と成功のコツ
eスポーツ就労支援とは?基本の考え方
eスポーツの定義と特徴
eスポーツとは、コンピューターゲームや家庭用ゲーム機を使った 「競技」としてのゲームプレイを指します。
個人戦だけでなくチーム戦や大会も行われており、多くのタイトルでは戦略性や協調性が求められる点が特徴とされています。
一般的なゲームとの大きな違いは、「勝敗や目標に向けて取り組む競技性」です。
プレイの振り返りや戦略の研究、役割分担などが行われるため、 単なる暇つぶしではなく、学びの要素を多く含んでいます。
就労支援に取り入れる場合も、「ゲームをすること」自体が目的ではなく、ゲームを通じて仕事につながる力を身につけることを目的とします。
なぜ福祉現場で注目されているのか
eスポーツが福祉現場で注目されている背景には、次のような理由があります。
- 若い世代を中心に「ゲームが好き」な人が多く、興味を持ちやすい
- PCやインターネットを使うため、就労に必要なデジタルスキルにつながりやすい
- チームで取り組むことで、コミュニケーションの練習になる
- 成績が数値で見えるため、成長を実感しやすい


「パソコンの練習をしましょう」と伝えるよりも、「eスポーツの練習の一環としてPCを使ってみましょう」と言った方が、参加へのハードルが下がる方も少なくありません。
eスポーツを通じて身につく3つの就労スキル
eスポーツを就労支援に取り入れる重要なメリットとして、仕事で求められる力を楽しみながら練習できることが挙げられます。
PC・ITスキルなどの「テクニカルスキル」
多くのeスポーツタイトルは、PCやゲーム機、オンライン環境を使います。
そのため、次のような基本的なITスキルの習得・定着が期待できます。
- マウス・キーボードの操作
- ソフトウェアの起動・設定の変更
- 簡単なトラブル対応(音が出ない、接続できない など)
これらは、事務職や在宅ワーク、IT関連の仕事などさまざまな職種の「土台」となるスキルです。
また、ゲーム画面の情報を整理して判断する経験は、業務マニュアルや作業手順書を読み解く場面にも応用できる可能性があります。
コミュニケーション・チームワーク


チームで行うeスポーツでは、役割分担や情報共有が欠かせません。
そこで、次のような対人スキルを練習できます。
- 状況を簡潔に伝える
- 相手の意見を聞いて、作戦をすり合わせる
- ミスがあったときに責め合わず、改善点を話し合う
就労場面でも、「報・連・相」やチームでの作業は避けて通れません。
対戦前後に「作戦会議」「振り返りミーティング」の時間を設けることで、より実際の職場に近いコミュニケーションを体験してもらいやすくなります。
自己管理力と問題解決力
eスポーツでは、勝つために「今の自分の課題」を整理し、練習方法や戦い方を工夫することが求められます。
- 感情が高ぶったときに落ち着く
- 負けた原因を分析して、次に活かす
- 自分に合った練習ペースを考える
これらは、就労後に必要になる「自己管理力」や「問題解決力」と大きく重なる部分です。
ゲームの勝ち負けをきっかけに、
「うまくいかなかったときに、自分はどう行動しがちか」
「職場で同じことがあったらどうするか」
などを一緒に振り返ることで、より実生活に結びついた支援につなげることができます。
障害特性に合わせやすいeスポーツの強み
eスポーツのメリットは、スキル面だけではありません。
さまざまな障害特性に合わせて、環境やルールを調整しやすい点も就労支援プログラムとしての強みです。
身体障害・難病のある方の場合
eスポーツは、椅子に座った姿勢で行うことが多く、身体への負担を比較的抑えやすい活動です。
必要に応じて、次のような工夫も可能です。
- コントローラーやキーボードの配置を工夫する
- 休憩を多めに設定し、体調に合わせて参加できるようにする
- ボタン操作が少ないゲームタイトルを選ぶ
また、オンライン対戦を活用すれば、移動が難しい方でも、自宅やショートステイ先などから参加できる可能性があります。
発達障害・精神障害のある方の場合
発達障害や精神障害のある方の中には、人との関わりが負担になりやすい一方で、ゲームの世界では力を発揮しやすい方もいます。
eスポーツの場では、次のような支援が行いやすくなります。
- ルールや手順を視覚的に提示する(チェックリスト、図など)
- 苦手なコミュニケーション場面を「ゲーム内のやりとり」で練習する
- 得意なポイントを活かして役割を担ってもらう
たとえば、相手チームの動きを観察するのが得意な方には「情報役」、
時間管理が得意な方には「指揮役」など、
特性に合わせた役割を設定することで自己肯定感にもつながりやすい効果が期待されています。
通所が難しい方へのオンライン活用
体調面や対人不安から通所が安定しない方にとっても、オンラインでのeスポーツ活動はステップアップの選択肢になり得ます。
- まずは自宅からオンラインで参加し、慣れてきたら事業所での参加を目指す
- 通所日は対面で、体調が不安定な日はオンラインで参加する
こうした柔軟な参加形態は、継続的な関わりを保つうえで有効です。
ただし、在宅での支援については制度や事業所の体制による制約もあるため、導入前に制度面の確認が必要です。
事業所にとってのメリット
eスポーツの導入は、利用者さんだけではなく、事業所側にも複数のメリットがあります。
利用者のモチベーション向上
特に若い世代からは、「ゲームならやってみたい」という声が聞かれることが多い印象です。
苦手意識のある学習や訓練に比べ、最初の一歩を踏み出しやすい活動です。
継続的に通所し、プログラムに参加してもらうためには、「行きたくなる理由」をいくつか用意しておくことが大切です。eスポーツは、その一つになり得ます。
また、プレイを通じて「前よりうまくなった」「チームで勝てた」といった成功体験を積み重ねることで、他の訓練プログラムへの参加意欲が高まることも期待できます。
事業所の差別化と地域とのつながり
eスポーツを取り入れることで、事業所の特徴を分かりやすく打ち出しやすくなります。
- 見学・体験のきっかけになりやすい
- 学校や地域の団体と合同イベントを企画しやすい
- 地域のeスポーツ団体や企業と連携する入口になる
ただし、「集客のため」だけに導入するのではなく、就労支援としての目的や方針を明確にしたうえで進めることが大切です。
職員の学びやチーム連携の強化
eスポーツプログラムを運営するためには、職員同士の情報共有や役割分担も重要になります。
- ゲームに詳しい職員が、他の職員にレクチャーする
- 支援計画にどう位置づけるかをチームで話し合う
- 振り返りの場で、利用者さんの変化を共有する
こうした過程を通じて、職員のスキルアップやチーム連携の強化にもつながる可能性があります。
eスポーツプログラムの導入ステップ


ここからは、実際に就労支援プログラムとして導入する際の基本的なステップを整理します。
目的と対象を明確にする
まず決めるべきなのは、「誰の」「どんな力」を伸ばすためのプログラムかです。
例として、次のような目的が考えられます。
- PCや機器の基本操作に慣れてもらう
- チームで協力する経験を増やし、コミュニケーションを練習する
- 振り返りを通して、自己理解や自己管理力を高める
対象となる利用者さんの特性やニーズに応じて「何を優先するか」を決めておくと、ゲーム選びや進め方も決めやすくなります。
必要な設備・環境を整える
次に、必要な設備や環境を整理します。
- PCまたはゲーム機、本体台数
- モニター、ヘッドセット、コントローラーなどの周辺機器
- 座席レイアウト(車椅子利用者への配慮など)
- ネットワーク環境と、フィルタリング・セキュリティ対策
いきなり大規模な設備を整える必要はありません。
少人数・短時間から始め、様子を見ながら拡大していく方法もあります。
機器の選定や設定が不安な場合は、地域のeスポーツ団体やIT企業に相談する方法もあります。
その際も、「福祉事業所として、就労支援の一環である」ことをしっかり伝えたうえで連携することが大切です。
1日の流れ・プログラム設計の例
eスポーツを、1日のプログラムのどこに位置づけるかも重要です。
一例として、半日プログラムのモデルを紹介します。
| 時間 | やること |
|---|---|
| 10:00〜10:15 | 体調確認・今日の目標設定 |
| 10:15〜10:45 | ウォーミングアップ(個人練習) |
| 10:45〜11:15 | チーム戦(対戦・協力プレイ) |
| 11:15〜11:30 | 振り返り(良かった点・課題の整理) |
振り返りの時間には、支援員が「就労場面とのつながり」を言語化し、一緒に整理することがポイントです。
導入前に知っておきたいリスクと注意点
メリットが多い一方で、eスポーツには注意すべき点もあります。
事前に理解しておくことで、トラブルやミスマッチを防ぎやすくなります。
「遊び」で終わらせないための工夫
eスポーツ導入のよくある不安として、「結局ゲームをしているだけになってしまうのでは?」という点があります。
これを防ぐためには、次のような工夫が有効です。
- 事前に「今日の目標」を一緒に決める
- プログラム終了時に、振り返りシートを記入する
- 月に一度など、定期的に支援計画との関連を職員間で確認する
「何となく楽しかった」で終わらせず、「どんな力が伸びてきているか」を本人・支援者双方が意識できる仕組みづくりが大切です。
ゲーム依存・健康面への配慮
eスポーツは、集中しやすく熱中しやすい活動です。一方で、時間管理が難しくなったり、睡眠リズムへの影響が出たりする可能性もあります。
世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD-11)では、「ゲーム障害(Gaming disorder)」が正式に位置づけられています。
就労支援として導入する際には、
- 実施時間や頻度をあらかじめ決める
- こまめに休憩を挟み、姿勢や目の疲れをチェックする
- 私生活でのゲーム時間が増えすぎていないか、面談で確認する
などの配慮が必要です。
もしゲーム依存が疑われる場合や、生活全体に大きな影響が出ている場合は、医療機関や専門機関に相談することも検討してください。
著作権・利用規約など法的な確認
eスポーツで使用するゲームソフトには、それぞれ利用規約があります。
とくに、イベント開催や配信、賞金の有無などによって必要な手続きが変わる場合もあります。
- 商用利用やイベントでの利用が認められているか
- 配信や録画を行う場合のルールはどうなっているか
- ゲーム会社や団体への事前申請が必要か
などを確認したうえで、ルールを守って運用することが重要です。
不安がある場合は、公式サイトの規約を確認したり、必要に応じて専門家へ相談したりしながら慎重に進めてください。
eスポーツ就労支援を成功させるためのポイント
最後に、eスポーツのメリットを最大限に生かすための実践的なポイントを整理します。
他のプログラムとの組み合わせ
eスポーツだけで就労に必要な力がすべて身につくわけではありません。
むしろ、他のプログラムとの組み合わせが重要です。
- PC訓練と組み合わせて、資料作成やタイピングに応用する
- ビジネスマナー講座と組み合わせて、報告や相談の練習をする
- 職場体験や実習と組み合わせて、実際の仕事と結びつける
「eスポーツで体験したことを、別のプログラムで言語化・整理する」という流れを意識すると、就労につながりやすくなります。
本人・家族・支援者で目標を共有する
eスポーツ導入に対して、家族の中には不安を感じる方もいます。
そのため、
- 就労支援の一環であること
- 具体的にどんな力を伸ばしたいのか
- どのくらいの頻度・時間で取り組むのか
といった点を、本人・家族・支援者で事前に共有しておくことが大切です。
定期的に面談を行い、
- 通所状況や生活リズムがどう変化しているか
- 他のプログラムへの参加状況はどうか
などもあわせて確認していきましょう。
小さな成功体験を積み重ねる
eスポーツの強みは、成績が分かりやすく見えることです。
しかし、勝ち負けだけにこだわりすぎると、プレッシャーになってしまう場合もあります。
- 「昨日よりも1回多くチャレンジできた」
- 「今日は自分から声をかけることができた」
- 「負けたあとも、最後まで参加できた」
といった、小さな変化や成功を一緒に見つけ、言葉にしてフィードバックすることが重要です。
その積み重ねが、「自分でもできることがある」という自己効力感につながり、就労への一歩を踏み出す力になっていきます。
まとめ:eスポーツを就労支援に生かすために
最後に、この記事の内容を整理します。
- eスポーツは「ゲーム」であると同時に、就労に役立つスキルを練習できる「競技」としての側面があります。
- PC操作・ITリテラシー・コミュニケーション・自己管理力など、仕事で求められる力を楽しみながら身につける機会になります。
- 障害特性や体調に合わせて機器や参加方法を調整しやすく、通所のきっかけづくりやモチベーション向上にもつながります。
- 一方で、「遊びで終わる」「ゲーム依存」「規約違反」といったリスクや課題もあるため、目的の明確化とルールづくりが不可欠です。
- 他の訓練プログラムや実習と組み合わせつつ、本人・家族・支援者で目標を共有し、小さな成功体験を積み重ねていくことが成功の鍵です。



これからeスポーツの導入を検討される事業所の方は、まずは「誰に・何の力を身につけてもらいたいのか」を言葉にするところから始めてみてください。
そのうえで、小規模な試行からスタートし、利用者さんやご家族の声を聞きながら自事業所らしいプログラムへと育てていくことをおすすめします。









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