
介護があるから、フルタイムや長時間パートは無理……。でも、まったく働かないのも不安だし、人とのつながりもほしい
そんな思いを抱える介護者の方は少なくありません。
実際に、介護を理由に仕事をセーブしたり、離職したりする人がいることも示されています。
一方で、1日をよく見直すと「2時間なら空いている」「この曜日だけは少し時間がある」といった「スキマ時間」が見つかることもあります。
結論として、介護と両立しやすいのは「1〜数時間の枠」で働く選択肢です。
この記事では、その時間枠を「時間の帯(バンド)」として活用する働き方を、仮に「バンドワーク」と呼び、考え方やメリット・注意点、始め方を解説します。
- 介護と仕事の両立が難しい背景と、スキマ時間という発想
- 「バンドワーク」という短時間就業スタイルのイメージ
- 介護者がバンドワークを選ぶメリット・デメリット
- バンドワークの具体的な仕事例と、始めるための準備
介護者の就労を取り巻く現状
介護と仕事の両立が難しい背景
介護と仕事の両立が難しい理由は、主に次のような点にあります。
- 介護が必要な時間帯が、日によって変動しやすい
- 本人の体調不良や通院で、予定が急に変わることがある
- デイサービス等の時間に生活が左右されやすい
- 夜間や早朝の見守りで、睡眠不足になりやすい
一方、一般的なパート・アルバイトは固定シフトが前提です。
そのため、介護者の生活リズムとズレやすい傾向があります。
介護離職がもたらすリスク
介護負担が増えると、「職場に迷惑をかけるくらいなら辞めた方がいいのでは」と考える人もいます。
しかし、介護離職には次のようなリスクもあります。
- 家計の収入が減り、将来の生活資金や貯蓄に不安が生じる
- 厚生年金・社会保険などの加入期間が短くなり、老後の保障に影響する可能性
- 日常の人間関係が家族中心になり、孤立感やストレスが高まりやすい
就業と介護の関係は、就業構造基本調査などでも把握されています。
「スキマ時間」は立派な「資源」


忙しい介護者の日常でも、時間の使い方を細かく見ていくと、次のような「スキマ時間」が見つかることがあります。
- デイサービスに送り出した後〜迎えに行くまでの2〜3時間
- 訪問介護・訪問看護を利用している間の1〜2時間
- 本人が昼寝やテレビ番組を見ている時間帯
- 夜間、比較的落ち着いている時間
こうした時間は、「長時間連続して働く」には向きませんが、「1〜3時間の短時間で何かをする」には十分な長さです。
この「短く区切られた時間の帯(バンド)」をどう活かすか、という発想から出てくるのが「バンドワーク」という考え方です。
「バンドワーク」とは何か
時間の「帯(バンド)」ごとに働くスタイル
本記事でいう「バンドワーク」とは、制度上の正式な用語ではありません。
1〜数時間の「時間の帯(バンド)」ごとに働く短時間就業のスタイル
を、分かりやすく表現するための呼び方です。 具体的には次のように考えます。
- 1日を「9〜11時」「13〜15時」「19〜21時」などの時間帯(バンド)に分けて考える
- 介護の予定が空いている帯にだけ仕事を入れる
- 週週や月ごとに、入れられる帯の数を調整する
といったイメージです。
フルタイムや長時間パートではなく、「自分が無理なく出せる時間帯だけを切り出して働く」という考え方が特徴です。
従来のパート・アルバイトとの違い
従来のパート・アルバイトは、固定シフトになりやすいです。
シフト変更には事前相談が必要で、急な変更は難しい場合があります。
バンドワーク的な働き方(イメージ)
- 「水曜の10〜12時だけ」「金曜の14〜16時だけ」のように短い枠で働く
- 仕事ごと・日ごとに働く/働かないを調整しやすい
- 在宅で完結し、移動の負担を減らせる場合がある
もちろん、すべての仕事が柔軟とは限りませんが、近年は、単発・スポットワークや在宅ワーク、オンライン業務など、「時間や場所を選べる仕事」が少しずつ増えています。
ギグワーク・在宅ワークとの関係
バンドワークは、「ギグワーク」や「在宅ワーク」と重なる部分も多いです。
- ギグワーク:1件ごとに報酬が支払われる単発仕事(例:配達、軽作業、オンラインタスクなど)
- 在宅ワーク:自宅で行うPC作業、事務サポート、コールセンター業務など
- スポットワーク:1日単位・数時間単位の単発アルバイト
介護者にとっては、
「自宅でできる」「短時間で完結する」「急な予定変更にもある程度対応できる」
といった条件を満たす仕事が、バンドワークとして特に相性が良いと言えます。
介護者がバンドワークを選ぶメリット
介護の予定に合わせて働きやすい
最大のメリットは、介護を優先しつつ働ける柔軟さです。
- デイサービスのある曜日・時間だけ仕事を入れる
- 本人の体調が安定している時間帯だけ働く
- 介護度が変わったときも、勤務時間を増減しやすい
「できる範囲で働く」に寄せやすいのが特徴です。
少しでも収入と保障のつながりを持てる
バンドワークは、フルタイムほどの収入にはなりにくいです。
それでも、次のような意味があります。
- 完全に無収入になる状態を避ける
- 家計の「プラスα」を作る
- 条件次第で雇用保険等につながる可能性もある
ただし、加入条件や扶養、税金は状況で変わります。
不安がある場合は、公的窓口や専門家に確認しましょう。
「介護だけではない自分」を保ちやすい
心理面でのメリットも見逃せません。
- 仕事を通じて「ありがとう」と言われる経験が、自信や張り合いにつながる
- 家族以外の人との関わりが生まれ、孤立感を和らげやすい
- 介護以外の話題や役割ができることで、気持ちの切り替えになる
厚生労働省も、介護と仕事の両立支援の重要性を指摘しており、企業や社会全体での支援が求められています。国も、仕事と介護の両立支援を進めています。
バンドワークのデメリット・注意点
収入が安定しにくい可能性
1〜2時間単位の仕事は、どうしても収入が変動しやすい傾向があります。
- 月によって働ける時間数にばらつきが出る
- 短時間ゆえに、月収としては大きくなりにくい
- 単発の案件が途切れると、収入ゼロの期間が出ることもある
そのため、最初は「家計の補助」くらいの位置づけが現実的です。
少しでも収入と社会保険のつながりを持てる
バンドワークは、フルタイムほどの収入にはなりにくいものの、
- 完全に無収入になることを避ける
- 夫婦や家族全体の家計を少しでも支える
- 条件次第では、雇用保険・厚生年金などの加入につながる場合もある
といったメリットがあります。
介護に専念しつつ、将来の自分の生活も見据えたバランスを考えやすい働き方です。
社会保険・税金の扱いが複雑になることも
短時間で複数の仕事を掛け持ちすると、社会保険や税金の判断が複雑になることがあります。
- 雇用保険・社会保険の加入条件
- 配偶者の扶養に関わる年収の基準
- 業務委託の場合の確定申告
制度の適用は個別事情で変わります。年金事務所、税務署、社労士等に確認しましょう。
自分で時間と体力を管理する必要がある
介護とバンドワークを両立するには、
- 「ここまでなら無理なく働ける」というラインを把握する
- 休憩や睡眠時間をしっかり確保する
- 介護の急変時には、仕事を調整できるよう事前に伝えておく
といった自己管理が重要です。
がんばりすぎて体調を崩してしまっては、介護も仕事も続けにくくなってしまいます。
バンドワークになりやすい仕事の例
在宅でできるPC・電話系の仕事
- オンラインでの事務サポート(データ入力、文字起こしなど)
- 在宅コールセンター(問い合わせ対応、予約受付)
- 簡単な資料作成やリサーチ業務
これらは、比較的短時間でも区切りをつけやすく、移動時間が不要なため、介護者との相性が良い仕事の一例です。
近隣でできる短時間・スポットワーク
- 近所のスーパーやドラッグストアでの短時間レジ・品出し
- イベントや施設の受付・案内業務
- 数時間だけの清掃・軽作業
移動時間も含めて「2〜3時間のバンド」に収まる範囲であれば、外出系の仕事も選択肢になります。
自分の得意を活かしたオンライン活動
- 趣味や特技を活かしたオンラインレッスン(語学、手芸、音楽など)
- ハンドメイド作品の販売
- ブログや動画配信など、コンテンツ制作
すぐに大きな収入につながるとは限りませんが、「自分のペースで育てていく仕事」として、バンドワークの一種と考えることもできます。
バンドワークを始める前のチェックポイント
自分の「使える時間帯」を見える化する
まずは、1週間のスケジュールを書き出し、
- 介護・家事・自分の休息時間をすべて記入
- そのうえで「安定して空いている時間帯」をマーカーで囲む
- 「頑張れば空けられる時間」と「無理なく空いている時間」を分けて考える
といった形で、無理なく使えるバンドを把握してみましょう。
仕事の探し方を工夫する
仕事探しは、条件を絞ると探しやすくなります。
- 在宅ワークサイトやクラウドソーシングサービスを利用する
- 「短時間」「シフト自由」「在宅可」などの条件で求人サイトを検索する
- 地域のハローワークや自治体の就労支援窓口で相談する
また、介護と仕事の両立に役立つ制度や相談先をまとめた公的サイトもあります。
トラブルを防ぐための注意点
介護をしながら働くときは、事前確認が重要です。
- 業務内容・報酬・勤務時間などを事前に書面で確認する
- シフト変更が起きうることを、最初に共有する
- 理解が得られない場合は、無理に続けない
「相互理解のある相手」を選ぶことが、続けやすさにつながります。


まとめ:スキマ時間を「自分の味方」にする働き方
最後に、本記事のポイントを整理します。
- 介護と仕事の両立は難しく、介護離職は経済面・心理面のリスクもある
- 1〜数時間の「時間の帯(バンド)」に注目し、その範囲で働く考え方を「バンドワーク」と呼んだ
- バンドワークは、介護の予定に合わせて働きやすく、収入や社会とのつながりを保ちやすいメリットがある
- 一方で、収入の変動や社会保険・税金の取り扱い、自分の体調管理には注意が必要
- まずは自分の「使える時間帯」を見える化し、在宅・短時間・理解のある職場を少しずつ探していくことが大切
「介護があるから働けない」とあきらめてしまう前に、
「どの時間帯なら、どんな形なら、少しだけ働けるだろう?」と考えてみることが、バンドワークの第一歩になります。
ご自身の体調と暮らしを最優先に、無理のない範囲で進めていきましょう。




