障害福祉業界の2024-2025年は、制度改正、重大事件、そしてDX推進が同時進行した激動の2年間でした。BCP完全義務化、処遇改善加算の本格施行、就労選択支援の全国展開といった重要な制度改正が次々と実施されました。
一方で、グループホーム大手「恵」の約4億円不正請求による指定取り消し、絆ホールディングスの数十億円規模の不正請求疑惑など、業界を揺るがす重大事件も発覚。事業所閉鎖件数も過去最多を記録し、支援現場の厳しい実態が浮き彫りになりました。
この記事では、現場の支援者・管理者が押さえておくべき2024-2025年の重要ニュース10項目を時系列順にまとめました。法改正の実務対応から業界動向まで、今後の事業運営に欠かせない情報を網羅しています。目まぐるしく変化する制度と環境の中で「何を優先しどう対応すべきか」を考える羅針盤として、ぜひご活用ください。
虐待防止・情報公表関連の減算制度開始(2024年4月1日〜)
令和6年度報酬改定により、虐待防止措置と情報公表が未実施の事業所に対する減算制度が新設されました。
- 虐待防止措置未実施減算:基本報酬の1%を減算
- 虐待防止委員会、研修、責任者配置が必須
- 情報公表未報告減算:施設系10%、訪問・通所系5%を減算
- WAM NETへの年1回の報告義務化
- 未報告の場合、指定更新も不可
GH運営会社「恵」約4億円不正請求で指定取り消し
障害者向けグループホーム運営大手の「恵(めぐみ)」(東京)が、食材費の過大徴収と報酬の不正請求により、愛知県等から指定取り消し処分を受けました。2025年に施設が事業譲渡され別の法人による運営に引き継がれました。
- 食材費の過大徴収:愛知県内26施設で約2億1800万円
- 報酬の不正請求:約1億8000万円(架空職員配置等)、総額約4億円超
- 愛知県が5事業所、名古屋市が4事業所の指定を取り消し
- 厚労省が連座制を適用、全国約100施設が順次運営不可に
- 利用者への粗末な食事提供、体重減少などの実態も発覚
絆ホールディングス 数十億円規模の不正請求疑惑(2025年11月)
大阪市の福祉関連会社「絆ホールディングス」傘下の就労継続支援A型事業所が、障害者就労支援の加算金を組織的に不正受給していた疑いで大阪市の監査を受けました。本件が2025年11月に読売新聞が報じて大々的にメディアからも取り上げられるようになりました。
- 過大請求額は2024年度だけで20億円超、2024-25年度で計約50億円に上る見通し
- 利用者を「A型利用者→半年間スタッフ扱い→再びA型利用者」と繰り返して加算金を水増し
- 大阪府内A型事業所の平均就労定着者数が1.3人/年に対し、同社は年間200人超を申請
- 2023年にルール改正(3年以内の複数加算禁止)後も請求を継続
- 大阪市は事業所の認定取り消しや返還請求を検討中

障害者福祉事業所の閉鎖が過去最多
2024年の障害者福祉事業所の閉鎖件数が212件となり、過去最多を記録しました。事業継続の困難さが浮き彫りに。
- 人材不足と経営難が主な要因
- 利用者の選択肢が狭まる深刻な状況
- 小規模事業所を中心に経営環境が厳しさを増す
- 処遇改善加算の活用や経営効率化が急務
- 地域の福祉サービス提供体制の維持が課題

障害者解雇者数が9,312人で過去最多を大幅更新(2024年度)
2024年の障害者解雇者数が9,312人となり、過去最多だった2001年の約4,017人を大幅に上回り、前年度比で約4倍に急増しました。そのため、解雇された障害のある方の受け皿が求められる1年間だったかと思います。
- 前年度(2023年)の2,407人から約4倍の9,312人に急増
- 就労継続支援A型事業所の報酬改定による経営悪化・閉鎖が主因(約5,000人以上)
- A型事業所の経営難による事業廃止・縮小が相次ぐ
- 利用者が突然の雇用喪失に直面する深刻な状況
- ハローワーク届出ベースのデータ(厚生労働省)

BCP完全義務化 / 処遇改善加算完全施行
経過措置が終了し、全ての障害福祉サービス事業所でBCP策定が完全義務化。また処遇改善加算の経過措置も終了し、完全施行となりました。
- BCP: 感染症BCPと自然災害BCPの2種類の策定が必須
- 未策定の場合、施設系・居住系は3%、訪問・通所系は1%の減算
- 訪問系サービス等の経過措置も2025年3月末で終了
- 処遇改善加算: 経過措置の加算Ⅴが廃止、加算Ⅰ〜Ⅳのみに
- 月額賃金改善要件(加算Ⅳの1/2以上を月額賃金に充当)が本格適用
- 職場環境等要件も厳格化(区分ごとに複数項目の実施が必要)
厚労省「省力化投資促進プラン 障害福祉」公開(2025年6月13日)
内閣府「新しい資本主義実現会議」にて、厚生労働省が作成した「省力化投資促進プラン(障害福祉)」が発表されました。パパゲーノの生成AI活用事例が福祉DXの好事例として掲載されています。
- 障害福祉分野での省力化・DX推進を国が支援
- パパゲーノの「AI支援さん」が生成AI活用の好事例として紹介
- 記録業務の効率化による直接支援時間の創出事例を掲載
- 障害福祉現場でのテクノロジー活用の重要性が国レベルで認識
- 今後の福祉DX推進の指針となる資料

就労選択支援 全国展開開始(2025年10月1日)
障害のある方が自身の適性や希望に合った働き方を選択できるよう支援する新しいサービスが本格的にスタートしました。
- 就労継続支援B型等の就労支援サービス利用前のアセスメント実施
- 本人の希望や能力に応じた適切な就労支援ルートの選択を支援
- 2029年にはA型や移行支援を含む就労系サービス全体に拡大予定
- 特別支援学校の在校生も利用可能
2026年度 介護報酬臨時改定が決定(2025年11月18日)
介護職員の処遇改善のため、3年サイクルを破って2026年度に介護報酬の臨時改定を実施することが決定しました。過去に例のない緊急措置です。
- 2025年11月18日、自民党政調全体会議で事実上決定
- 通常は3年ごとの改定サイクルだが、2024年改定からわずか2年で前倒し実施
- 背景:介護職員と一般産業の給与差は約5.4万円、人材流出が深刻化
- 第一段階:2025年度補正予算で補助金・交付金による「つなぎ支援」
- 第二段階:2026年度に報酬単価引き上げや新加算創設で恒久的な賃上げ実現
- 看護職員、リハビリ職、ケアマネジャーなど幅広い職種への対応も検討
- 介護・障害福祉両分野で賃上げ施策が加速
現場の皆様へのメッセージ
2024-2025年は制度改正、処遇改善、そして業界の課題が同時に表面化した激動の年でした。
厚生労働省の省力化投資促進プランにパパゲーノの事例が掲載されるなど、DXや新技術を活用した業務効率化の取り組みも注目されています。「AI支援さん」のような支援現場向けツールの活用により、記録業務を効率化し、直接支援の時間を増やす事例も増えています。
障害福祉業界が生成AIなどの新しい技術や制度を適切に活用し、利用者さんのために質の高いサービスを継続的に提供していけるようになることを心より願っています。
パパゲーノ Work & Recoveryは、2023年9月に八幡山で開所しました。その後、2025年3月にパパゲーノ Work & Recovery 用賀を開所。5月に下高井戸での施設外就労を開始し、2025年は活動が着実に広がった1年となりました。今では120名ほどの障害のある方が在籍し、企業のDX支援の仕事を生成AI等を活用しながら実践いただいてます。
また、支援現場で手軽にAIを導入できるアプリ「AI支援さん」も、AI書類生成機能、AI画像読み取り機能、タスク管理機能を拡充し、より多くの事業所さんで活用いただけるよう進化しました。



