
「A型とB型って、何が違うの?」
「うちの利用者さんにはどちらが合っているんだろう?」
就労継続支援に関わっていると、何度も耳にするかもしれません。
A型とB型はどちらも、障害のある人が“働く”ことを支えるサービスですが、その仕組みや前提としている働き方のイメージは大きく異なります。
その一番大きな分かれ目が、「雇用契約があるかどうか」です。
この記事では、
- そもそも「就労継続支援」とは何か
- A型とB型の制度上の違い
- なぜわざわざ二つに分かれているのか
- 雇用契約の有無が、支援のスタイルにどう影響するのか
を、支援者の方・ご本人・ご家族、どの立場の方にも分かりやすいように整理していきます。
1. そもそも「就労継続支援」とは?
就労継続支援は、障害者総合支援法に基づく就労系の障害福祉サービスの一つです。
厚生労働省は、就労系のサービスとして
- 就労選択支援
- 就労移行支援
- 就労継続支援A型
- 就労継続支援B型
- 就労定着支援
の5つを位置付けています。
このうち就労継続支援は、
「通常の事業所(一般企業など)に雇用されることが難しい障害のある人に対して、
働く機会や生産活動の機会を提供し、知識・能力の向上に必要な訓練を行う」
という目的を持ったサービスです。
A型とB型の共通点
- 一般就労がすぐには難しい人が対象
- 働く場・作業の場を提供する
- 作業や訓練を通じて、「働く力」を育てる
- 利用期間に明確な上限はない(原則として継続利用が可能)
この「共通部分」の上に、A型とB型それぞれが違う前提・違う支援スタイルを持っているイメージです。
2. A型とB型の一番大きな違いは「雇用契約」
まず、A型とB型の違いをまとめると、次のようになります。
| A型 | B型 | |
|---|---|---|
| 一言でまとめると | 事業所と雇用契約を結んで働く 就労継続支援 | 雇用契約を結ばずに、 より柔軟な形で働く就労継続支援 |
| 厚労省での定義 | 一般企業での就労は難しいが、雇用契約に基づく就労が可能な人 | 一般企業での就労が難しく、雇用契約に基づく就労も困難な人 |
この「雇用契約があるか・ないか」が、
- 賃金か工賃か
- 最低賃金の保障の有無
- 労働法制(労基法など)の適用の仕方
- 働き方の柔軟さや負担感
といった違いを生み出していきます。
3. A型の特徴:雇用契約を結び、最低賃金以上で働く
A型の基本的なイメージ
就労継続支援A型は、
「障害があり一般企業で働くことが難しいが、雇用契約を結んで働くことはできる人」が
事業所と雇用契約を結び、原則として各地域の最低賃金以上の賃金を受け取りながら働く場
として位置付けられています。
- 雇用契約あり
- 最低賃金以上の賃金が支払われる
- 労基法・雇用保険など、一般の雇用と同じルールが適用される
という点がポイントです。
A型の対象イメージ
例えばこんな方が対象になりやすいとされています。
- 一般企業でのフルタイム就労は難しいが、決まった時間に通うことはできる
- ある程度まとまった作業量・責任を引き受けることができる
- 支援があれば、就職や職場定着も視野に入る
A型は、「福祉」と「雇用」の中間に位置する働き方とも言われます。
4. B型の特徴:雇用契約なしで、ペースに合わせて働く
B型の基本的なイメージ
就労継続支援B型は、
「一般企業やA型での雇用契約で働くことが難しい人」が
雇用契約なしで、自分のペースに合わせた作業や訓練を行う場
として位置付けられています。
- 雇用契約なし
- 支払われるのは「賃金」ではなく「工賃」
- 最低賃金額の保障はない
- 週1日や短時間など、柔軟な利用が可能
といった特徴があります。
B型の対象イメージ
例えばこんな方が対象になりやすいとされています。
- 体調の波が大きく、決まった時間に長時間働くのが難しい
- 支援があっても、雇用契約を結ぶことへの不安が大きい
- 生活リズムを整えるところから始めたい
- 作業を通じた社会参加や、居場所としての機能も重視したい
B型は、「働くこと」と「生活の安定」を両方支える、より柔らかい支援のかたちといえます。


5. 賃金と工賃の違い:数字で見える「働き方の前提」の差
A型とB型は、支払われるお金の種類も違います。
- A型:賃金(給与)
- B型:工賃
A型は雇用契約があるため、最低賃金が保障されます。
一方でB型は雇用契約ではないため、最低賃金の適用はなく、事業所の売上などをもとに工賃が決まります。
2023年度の平均額を見ると、
| A型の平均賃金 | B型の平均工賃 |
|---|---|
| 約8万6,000円台/月 | 約2万3,000円台/月 |
と報告されています。
この差は、そのまま「どちらが良い/悪い」という話ではなく、
| A型 | B型 |
|---|---|
| “労働者”として働く前提での支援 | “福祉サービス利用者”としての働き方と支援 |
という土台の違いが、数字にも現れていると見ることができます。
6. なぜA型とB型に分かれているのか?
ここからが、この記事の本題です。
① 障害の状態やニーズが「一つの枠」では拾いきれないから
障害や病気の影響は、本当に人それぞれです。
- 体調の波が大きい
- 集中力の持続が難しい
- 対人関係のストレスが強く出やすい
- 一度は一般就労したが、再び働くハードルを感じている
この多様さを考えると、「雇用契約で働く前提」の支援だけでは、入り口が狭くなってしまいます。
そこで、
- 雇用契約のもとで働ける人にはA型
- まずはペースづくりや生活の安定から始めたい人にはB型
という形で、「働き方の段階」や「負担感の違い」に合わせられるよう、制度が二つに分かれていると考えられます。
② 雇用契約には“守ってくれる仕組み”と“重さ”の両方があるから
雇用契約には、
- 最低賃金
- 労働時間や休憩
- 有給休暇
- 社会保険・雇用保険
など、さまざまな「権利の保障」がセットでついてきます。一方で、
- 出勤日や時間の約束
- 業務遂行に伴う責任
- 事業所側の「採算」のプレッシャー
といった「重さ」も、どうしても伴います。
A型とB型の分かれ目は、
「この“契約の重さ”を今の状態で引き受けられるかどうか」
とも言い換えることができます。
- A型:契約の重さはあるが、その分“労働者としての権利”も守られる
- B型:契約の重さは避けつつ、“働く体験”や“社会参加”の場を確保する
という二つのルートを用意することで、「どんな状態の人にも、今の自分に合ったスタートラインを選べるようにする」という発想が制度の背景にあります。
③ 「どちらかに固定」ではなく、行き来できる前提になっているから
実際の運用では、
- B型で生活リズムや体力を整え、後にA型や一般就労へ
- 一度A型で働いたあと、体調悪化などをきっかけにB型へ戻る
といった行き来もあり得ます。
A型・B型は「優劣」ではなく、
- 今の状態
- 今後の目標
- 本人の希望
に応じて選ぶ複数の選択肢として設計されていると捉えると、制度の意図が見えやすくなります。
7. 雇用契約の有無が生む、支援スタイルの違い
A型における支援の特徴
A型では、事業所は「雇用主」としての役割も担います。
- 業務指導や職場内の配慮(業務量の調整、休憩、配置など)
- 一般就労を見据えたスキルアップ(品質管理、納期意識、報連相など)
- 勤怠管理・労務管理(シフト調整、休職・復職支援 など)
“働き続ける力”を育てる支援が中心になりやすい特徴があります。
B型における支援の特徴
B型では、「働くこと」と同じくらい、以下のようなポイントも重視されます。
- 生活リズムを整える
- 体調やメンタルの波に合わせた通所・作業時間の調整
- 居場所としての機能(人とつながる、孤立を防ぐ)
- 作業を通じた成功体験や自己肯定感の回復
“まずは社会とつながり続ける”ための支援が中心となりやすいのが、A型との大きな違いです。


8. どちらが向いている?考えるときのポイント
A型かB型かを考える場面では、次のような視点が役に立ちます。
① 体調・生活リズム
- 週5日・1日4〜6時間程度、安定して通えそうか
- 朝決まった時間に起きて、通所するイメージが持てるか
→ 難しければ、まずB型でペースをつくる選択もあります。
② 責任やプレッシャーとの付き合い方
- 「契約して働く」ことへの不安がどれくらいあるか
- 仕事のミスや遅刻などが、強いストレスになりすぎないか
→ 責任の重さがしんどい場合、B型から始めて「できること」を積み上げる方が安心なこともあります。
③ 将来のイメージ
- 将来的に一般就労を目指したいのか
- まずは“働く練習”や“生活の安定”が優先なのか
→ 一般就労へのステップとしてA型を選ぶケースもあれば、B型で長く働き続けること自体をゴールにするケースもあります。
重要なのは、「どちらが“正解”か」ではなく「今の自分に合っているか」という視点です。
9. 支援者として・事業所として大切にしたいこと
最後に、支援に関わる立場から意識しておきたいポイントを、いくつか挙げてみます。
- A型・B型を“ランク付け”しない
「A型の方が偉い」「B型は下」という見方は、当事者に強い負担を与えます。 - 制度の説明は“選択肢”として行う
メリットだけでなく、「向き・不向き」の両面を一緒に整理することが大切です。 - 行き来の可能性を前提にしておく
体調やライフステージで、合うサービスが変わることは自然なこととして伝える。 - 事業所の都合だけで型を決めない
事業運営や報酬上の事情は重要ですが、本人のニーズと希望を軸に考える姿勢が欠かせません。
10. まとめ:A型とB型は「働き方の多様性」を支える二つのルート
最後に、この記事のポイントを整理します。
- 就労継続支援A型・B型は、どちらも「一般就労が難しい人の働く場」をつくる福祉サービス
- 一番大きな違いは「雇用契約の有無」であり、それが賃金/工賃や働き方の柔軟さの違いを生んでいる
- A型は、雇用契約のもと最低賃金以上の賃金を得ながら、「働き続ける力」を伸ばす場
- B型は、雇用契約の重さを避けつつ、「自分のペースで社会とつながる」ことを大切にする場
- A型・B型は「どちらが上か下か」ではなく、その人の状態や希望に合わせて選べる複数のルート



パパゲーノAI福祉研究所としては、今後も
1.当事者の声に基づいたA型・B型の活用事例
2.事業所や企業、自治体の取り組み紹介
3.支援者が現場で使える「説明のしかた」や「一緒に考えるためのツール」
などを通じて、「その人らしい働き方」を選べる社会づくりのお手伝いをしていきたいと考えています。










