こんにちは。株式会社パパゲーノの高橋真希です。就労継続支援B型パパゲーノ Work & Recoveryの職業指導員や目標工賃達成指導員として利用者さんの支援に携わりながら、事業所の新規立ち上げプロジェクトの担当とその運営責任者もしております。2025年3月には世田谷区用賀の事業所を、5月には下高井戸での施設外就労を立ち上げ、現在は下高井戸の拠点の責任者をしています。
今回は「就労継続支援B型の事業計画の作り方」というテーマで、支援と経営がどのように繋がっているかについてお話します。
多くの支援者の方が「良い支援をしたい」という想いと「収益を上げなければならない」という経営課題の間でジレンマを感じているのではないでしょうか。この2つは本当に対立するものなのでしょうか?
実は、支援と経営は制度上うまく紐づけられており、良い支援と良い経営の両立は可能だと考えています。就労継続支援B型の報酬体系は、丁寧な支援を積み重ねることが事業所の売上に貢献するという構造になっているのです。
この記事では、「支援の質を高めながら、安定経営を実現する」仕組みを具体的に解説していきます。
まき経営者、管理者だけでなく、現場で働く支援者の方にもぜひ就労継続支援B型の経営について理解いただく機会になればと思います!
この記事の目的・ゴール
この記事を読み終えたとき、以下の5点を持ち帰っていただければ幸いです。
- 事業計画の重要性について理解する
- B型事業所の収益構造を理解する
- 売上を決める3つの重要変数を知る
- 支援の質と経営を両立させる方法を学ぶ
- 今日から使える事業計画の作り方を持ち帰る



上記の事業計画シミュレーションシートを見ながら読み進めると、理解が深めやすいです!
事業計画を作り、理解することの重要性
なぜ事業計画をつくるのか?
事業計画は単なる「数字合わせ」ではありません。関係者との「約束」を形にするものです。事業計画を作成する目的は、大きく3つあります。
目指すべき支援の道筋をつくる(事業所スタッフ目線)
事業計画があることで、スタッフ全員が同じ方向を向いて支援に取り組むことができます。また、どの変数がどうなれば売上が増えて、給与や賞与も高まるのかという構造も明確になります。
事業継続性の説明責任(行政・指定権者目線)
指定申請時や実地指導の際に、事業が継続できることを示す根拠となります。
安定したサービスの提供(利用者・地域目線)
継続的にサービスを提供できる体制があることを示し、信頼を得ることができます。



上記に加えて、新規で開所をする際は「資金繰り」のために事業計画が重要になります。
ただし、就労継続支援B型においては事業計画を「経営者だけ」が把握するものに留めるのはもったいないです。
事業計画の重要ポイント
行政からも厳しく見られる事業計画ですが、特に重視されるのは以下の3点です。
| ポイント | チェック内容 |
|---|---|
| 実現可能性 | 無理な定員設定になっていないか? 新規利用者の獲得の見立てを楽観視しすぎていないか? |
| 計画性 | 加算要件を正しく理解し、計画しているか? |
| 事業の継続性 | 3年、5年と続く収支構造になっているか? |
事業計画をうまく活用できないとどうなるか?
事業計画を立てるかどうかで、就労継続支援B型事業所の運営は大きく変わります。
【負の循環】計画なしの場合
計画なし → 稼働率低下 → 売上減 → 人件費カット&職員疲弊 → 支援の質低下 → 評判悪化 → さらに利用者減


【正の循環】計画ありの場合
目標設定 → 安定した稼働 → 売上確保 → 職員体制の充実 → 支援の質向上 → 評判向上 → 定員充足





事業計画を立て、早めに事業所の課題に気づき、対策し、目標を持って運営することで「正の循環」を生み出すことができます。
就労継続支援B型事業所の収益構造
売上(訓練等給付費)の計算式
B型事業所の売上は、以下の計算式で決まります。
売上 =(基本報酬 + 各種加算)× 延べ利用者数
正確には地域単価も掛けますが、ここでは簡略化して説明します。
- 「基本報酬+加算」で事業所の支援内容の「質」を評価
- 「延べ利用者数」で実際のサービス提供の「量」を反映
つまり、質の高い支援を多くの方に提供することが売上に直結する仕組みになっています。
押さえるべき3つのポイント
収益構造を理解する上で重要なポイントは3つです。
① 基本報酬は「平均工賃月額」で決まる
平均工賃月額が高いほど、基本報酬単位が上がります。
| 平均工賃月額 | 基本報酬単位 | 差分 |
|---|---|---|
| 2万円以上2.5万円未満 | 726単位 | – |
| 2.5万円以上3万円未満 | 738単位 | +12単位 |
| 3万円以上3.5万円未満 | 758単位 | +20単位 |
| 3.5万円以上4.5万円未満 | 805単位 | +42単位 |
※定員20人(6:1配置)の場合
ちなみに、パパゲーノでは2024年度の平均工賃月額が約2万9,000円でしたので、738単位を算定しています。
② 加算にも優先順位がある
すべての加算を同列に扱うのではなく、インパクトの大きいものから優先的に取得を目指すべきです。
| 加算名 | 加算単位 | 重要度 |
|---|---|---|
| 目標工賃達成指導員配置加算 | 45単位 | ★★☆ |
| 目標工賃達成加算 | 10単位 | ★★☆ |
| 就労移行支援体制加算 | 72単位/人 | ★★★ |
| 福祉専門職員等配置加算 | 6単位(Ⅲ) | ★☆☆ |
| 処遇改善加算 | 9.1%(Ⅱ) | ★★★ |
就労移行支援体制加算と処遇改善加算が特にインパクトが大きい加算です。
※定員20人(6:1配置)、平均工賃月額2.5万円以上3万円未満、福祉専門職員等配置加算Ⅲ、処遇改善加算Ⅱの場合
③ 延べ利用者数(稼働率)の向上
基本報酬と加算は法律や制度で上限が決まっていますが、延べ利用者数は事業所の努力で増やすことができます。支援の質を落とさずに稼働率を上げることが、長期的な信頼獲得にも繋がります。
売上を決める3つの重要な変数
就労継続支援B型事業所の収益モデルで重要なのは以下の3つの変数をコントロールすることです。
| 変数 | 位置づけ | 説明 |
|---|---|---|
| 工賃 | 中期的な取組み | 平均工賃月額を上げて基本報酬を向上 |
| 就労支援 | 最大のインパクト | 就労移行支援体制加算の取得 |
| 稼働率 | 日々の運営 | 延べ利用者数を増やす |


平均工賃月額を上げる
平均工賃月額の計算方法
平均工賃月額 = 支払った工賃の総額 ÷ 1日平均利用者数
令和6年度から計算方式が変わり、「1日あたりの平均利用者数」で割る方式になりました。これにより、利用日数・時間の増加への支援がより重視されるようになっています。
平均工賃月額を上げる3つの方法
- より高単価の作業へのステップアップ支援
- ワークサンプル等を活用した段階的スキルアップ
- いろいろな仕事に少しずつ挑戦できる機会を作る
- 通所時間を延ばす
- 1時間/日 → 4時間/日への支援
- ご本人の希望に合わせて少しずつ利用時間を伸ばしていく
- 個別支援の最適化による継続的な安定利用
- 利用者の体調やスキルに合わせた支援計画
- 個別支援計画による目標設定の共有



特に、通所時間については意外と見落とされがちなのですが、丁寧に支援していくことにより利用時間数を延ばしていきながら、工賃を増やしていきましょう。
就労移行支援体制加算を取得する
就労移行支援体制加算とは就労継続支援B型事業所から企業等に就職し、6ヶ月以上定着した利用者1人につき、毎月加算される報酬です。
取得条件は以下の3点です。
- 企業等への就職
- 6ヶ月以上の定着
- 雇用形態は問わない(契約社員・短時間勤務もOK)
就労移行支援体制加算の加算単位
1人あたりの加算単位(配置6:1の場合)は以下のとおりで、非常に大きい加算です。
| 平均工賃月額 | 加算単位(1人/月) |
|---|---|
| 2.5万円以上3万円未満 | 72単位 |
| 3万円以上3.5万円未満 | 79単位 |
| 3.5万円以上4.5万円未満 | 86単位 |
平均工賃月額を上げると、就労移行支援体制加算の単位も上がる仕組みになっています。
前年度に6ヶ月定着した就職者の人数による違いを見てみましょう。
| 就職者数 | 加算単位/月 | 年間売上 |
|---|---|---|
| 2人 | 144単位 | 約900万円 |
| 5人 | 360単位 | 約2,250万円 |
差額は年間で約1,350万円。1人あたり約450万円の年間売上インパクトがあります。



処遇改善加算は、基本報酬に各種加算を含めた単位に対して決まるので、就労移行支援体制加算が上がると、その分だけ処遇改善加算も上がります。そのため、従業員の給与や賞与も自動的に上がることになります。
就労移行支援体制加算を取得している事業所は20%程度
- B型事業所から企業への就職率:約10%/年
- 就労移行支援体制加算の取得事業所:全体の2〜3割程度
継続的に加算を取得できることが、大きな差別化要因になります。ただ、やみくもに就職者を増やすのではなく、あくまでも利用者さんの希望を前提とした支援が大切です。
6ヶ月定着のための支援
「就職させて終わり」ではありません。定着率を高めることが持続的な加算取得の鍵です。
- 丁寧なマッチング支援
- 定期的な3者面談(本人・企業・支援者)
- 就職後のフォローアップ体制
- 7ヶ月目以降は就労定着支援事業所との連携



就職6ヶ月以降は「就労定着支援事業所」が担う形で棲み分けされています。
稼働率を向上させる
稼働率向上は最も直接的にアプローチ可能な変数です。
稼働率向上の施策
- 利用者さんの通所日数を増やす施策(イベント、勉強会開催など)
- 週5日通所への段階的な支援
- 新規利用者の受け入れを増やす
- 欠席の日のフォローを手厚くする
- 在宅就労を活用する
利用者獲得の重要戦略
① 「選ばれる理由」の可視化
ターゲットを明確にし、強みをつくることが重要です。
パパゲーノの例:
- パソコンスキルを学べる
- 静かな環境で作業できる
- リカバリー(自分らしい生き方の追求)を大切にしている
② 支援者のファンを増やして紹介につなげる
- 支援者様向けの見学会を開催
- パンフレット配布
- 地域の勉強会への参加
対面での施策が意外と効果的で、支援者さんからの紹介が最も確度高く新規利用者を獲得できる方法です。
③ 数字を可視化して改善する
問い合わせ → 見学 → 体験 → 正式利用の各ステップの数字を可視化し、どこが課題かを把握して週次で改善していくことが大切です。
処遇改善加算の仕組み
処遇改善加算は、基本報酬と各種加算の合計に対して一定割合(パパゲーノの場合は9.1%)を掛けて算出されます。
処遇改善加算 =(基本報酬 + 各種加算)× 9.1%
つまり、他の加算が増えると処遇改善加算も増える仕組みです。
就労移行支援体制加算との連動例
| 就職者数 | 処遇改善加算/年 |
|---|---|
| 2人 | 約950万円 |
| 5人 | 約1,174万円 |
差額は約220万円。これが職員の処遇改善手当・賞与として還元されます。
良い支援 = 職員の待遇改善という好循環が生まれる仕組みになっています。



就職支援は従業員の給与・賞与に直結するKPIなので、就労継続支援B型の運営で最も重要な施策になります。
支援の質と経営の両立
経営視点
- 平均工賃月額を上げる
- 就職者を増やす
- 稼働率を上げる
支援視点
- 利用者さんの希望を最優先に
- 無理のないペースで
- 丁寧に支援する
この2つは本当に対立するのでしょうか?
良い支援が良い経営につながる
実は、就労B型の報酬制度はよく設計されています。
| 経営指標 | 支援の質との関係 |
|---|---|
| 通所時間が伸びる | → 就労準備が進んでいる証拠 |
| 作業難易度と工賃向上 | → スキルアップの証拠 |
| 就職して6ヶ月定着 | → 適切な支援とマッチングの証拠 |
利用者さんの成長と幸せ = 事業所の収益向上
という関係が成り立つように、報酬制度が設計されているのです。
パパゲーノが土日祝日を休みにする理由
1日営業を休むと、約30万円の売上機会損失があります。それでもパパゲーノが土日祝日を休みにしているのは、以下の理由からです。
- スタッフが安定して勤務できる環境
- シフト制でなく同じスタッフが継続支援できる
- プラスアルファの施策を考える余裕ができる
- 結果として就労移行支援体制加算などの収益確保につながる
営業日数 < 支援の質の向上
という考え方で、「支援の質を高めることが経営改善につながる」という信念のもと運営しています。
支援員7原則を基本として運営
パパゲーノでは「支援員7原則」という行動規範を定めています。
- 他者貢献 & 自分らしさの探求(Work & Recovery)
- 利用者の「自分らしい生き方の回復」を第一に考える
- 疾患名や属性でカテゴライズせず、その人を見て理解する
- PC作業だからこそ、通所時の挨拶や声かけも大切にする
- 本人のいないところで勝手に決めない
- 「できること」「得意なこと」に目を向ける
- ルールを減らし、自由に挑戦できる環境・風土を作る
大原則は「利用者さんの希望と状況に合わせた無理のない支援」です。
その上で、
- 通所時間を伸ばせる方への段階的支援
- スキルアップできる方への機会提供
- 就職を希望する方への具体的な支援計画
- 短時間・短日数からの就職も積極的に支援
このように支援の質を高めることが経営改善につながるという考え方で運営しています。


就労継続支援B型事業所の事業計画の作り方
事業計画作成の3ステップ
STEP1:現状把握
- 現在の平均工賃月額
- 基本報酬単位
- 就労移行支援体制加算の取得人数
- 来年度の就職見込み者数
- 現在の稼働率
STEP2:目標設定
- 平均工賃月額の目標
- 就職者数の目標
- 稼働率の目標
STEP3:具体的施策の立案


チェックリスト
【現状把握】
- 今の平均工賃月額は?(2.5万?3万?3.5万?)
- 基本報酬単位は?(738?758?800?)
- 今年度の就職者数は?
- 来年度、6ヶ月定着が見込める対象者は?
【目標設定】
- 次のレンジを目指せるか?
- 就職者数の現実的な目標は?
- 稼働率向上の余地は?
【施策】
- 工賃アップできる可能性のある利用者さんは?
- 通所時間を伸ばせる可能性のある方は?
- 就職支援が必要な方の具体的プランは?
シミュレーションシートの活用がおすすめ!
事業計画を立てる際は、シミュレーションシートを活用すると便利です。パパゲーノでは以下の項目を入力すると、月ごとの訓練等給付費のシミュレーションが出せるシートを作成しています。
入力項目:
- 営業日パターン(平日のみ/土曜日あり等)
- 平均工賃月額
- 就労移行支援体制加算の対象人数
- 目標工賃達成指導員配置加算(あり/なし)
- 目標工賃達成加算(あり/なし)
- 福祉専門職員等配置加算
- 1日平均利用者数
出力項目:
- 月間の延べ利用者数
- 基本報酬額
- 加算報酬額
- 処遇改善加算額
- 年間売上シミュレーション



例えば、就労移行支援体制加算の対象者を1人から5人に変更すると、加算単位が72から360になり、全体の数字が大きく変わることが視覚的に確認できます。
良い支援の追求が売上にも繋がると信じる
最後に、就労継続支援B型事業所の事業計画で重要ポイントを3つまとめます。
① 就労移行支援体制加算が最大のインパクト
1人で年間約450万円の売上差があります。利用者さんの就職を支援し、6ヶ月定着を実現することが、経営面でも大きな効果を生みます。
② 平均工賃月額のレンジアップを目指す
平均工賃月額を上げることで、基本報酬と就労移行支援体制加算の両方に影響があります。中期的な視点で工賃向上に取り組むことが重要です。
③ 良い支援が良い経営につながる制度設計
就労B型の報酬制度は、利用者さんファーストの支援が収益向上の鍵になるよう設計されています。この仕組みを理解した上で、支援の質を高めていくことが大切です。
「利用者さんの幸せ」と「事業の継続」を両立する
「利用者さんの幸せ」と「事業の継続」は対立しません。
丁寧な支援の積み重ね → スキルアップと平均工賃月額の向上 → 就職実績の創出 → 事業所の安定経営
この好循環が持続可能な福祉サービス提供の鍵です。
私たちパパゲーノは「生きててよかった」と誰もが実感できる社会を目指して、リカバリー(自分らしい生き方の追求)を広める活動をしています。
事業所見学はいつでも歓迎しておりますので、ご興味のある方はぜひお問い合わせください。


この記事は、2025年12月12日に開催された勉強会「就労継続支援B型の事業計画の作り方」の内容をもとに作成しました。














